第5話 両親への ”ざまぁ”
私はお父様のお望み通り、いなくなってあげるわ。
お父様の用意した縁談じゃないわよ。お父様の手で何処かにやられる前に、さっさと自分の意志で家出をするってこと。
「ほう、それはおかしなことだな」
アーネストがお父様に向かって声をかける。いきなり王族から話しかけられ、お父様は固まる。
許しが無い限り、お父様が王族へと話しかけることはできない。
「そのジェイニーとかいう娘は後妻の連れ子であろう。いくらお前が養女にしているとはいえ、ハーナン侯爵家の血を一滴も引いていない者を、跡取りにはできないはずだ。それにアイリスを侯爵家の跡継ぎにしないというのならば、侯爵家は継ぐ者がいなくなってしまうではないか。誰か他から血縁者を連れてくるか、王家に爵位を返上するしかなかろう」
アーネストの言い分は正しい。
お父様の顔色はだんだんと青くなっていく。
ナイス突っ込み。素敵よアーネスト!
いくら私よりジェイニーの方がお父様に似ていると言っても、表向きは妻の連れ子。お父様とは血の繋がりは無いことになっている。
血縁関係でもないジェイニーを家の跡継ぎには出来ない。
アーネストの指摘は、とても真っ当なことなのよ。
このために私はアーネストにお願いしたの。
成人の祝いにハーナン侯爵家の二人の娘に招待状を送ってねって。
お父様は必ず私を欠席にするでしょう。
せっかくここまで私を秘匿してきたのだから、人の目に触れさせたくはないはず。もしお母様の実家の人とでも会ってしまったら、今までの苦労が無駄になってしまうもの。だって私は地味顔のお母様そっくりなのだから。
王宮から圧力をかけてもらったわ。
王宮からの招待を辞退するようであれば、その理由を提出せよと。
お父様は、そこらの町医者に金を握らせて偽造の診断書を出したみたいだったけど、簡単に却下されてしまった。病気で辞退する場合の診断は、王宮侍医の診断書しか受け付けないってね。
私が8年ぶりに人前に出ることができたのは、アーネストのおかげなのよ。
さて、お父様はどうするのかしら。
アーネストに
周りをぐるりと取り囲んでいる貴族達の前で、王族であるアーネストが、私を侯爵家の跡取りと明言し、ジェイニーを連れ子。それも血の繋がりの一切無い後妻の連れ子だと知らしめたわ。
顔を知られたのよ。私とジェイニーでは、髪の色も目の色も似ているけど同じじゃないわ。
いくら戸籍が紙だとはいえ、もう入れ替わることはできないわ。
それにアーネストがハーナン侯爵家が代替わりをするときの申請には、審査を厳しくするようにって、一筆書いておくって言ってくれたしね。
お父様の目論見は潰されてしまったのよ。
もうジェイニーが侯爵家の跡取りとなることは出来なくなってしまったわ。
ウフフフ。どうする。どうするのお父様。
「お父様は、これからどうされるおつもりですの? 私にはお父様に残された道は、2つの方法しかないと思いますけど」
青い顔をしたままのお父様に、私は畳みかける。
ステキな2択を教えて差し上げるわ。
1つ目は、ジェイニーに侯爵家を継がせようとする場合。
ジェイニーを実の子どもだと、王家に届け出る必要があるわ。
妻がいる時に不貞を働いて、愛人に子どもを産ませていた非常識な浮気男だと公表しなければならないということよ。
貴族とは、平民の模範にならなければならない立場よ。人の上に立つとはそういうことよね。
平民を治める立場の人間が、平民に呆れられるようなことをしていたら、貴族だなんて認められない。
それに貴族の婚姻は王家から許可をもらって行うもの。それなのに結婚そうそう妻を裏切って愛人を作りましたなんて、王家を馬鹿にしているということよ。
この国は、先代の女王陛下の時代に、王配様の下半身がだらしなかったらしくて、女王陛下の怒りを買い、不貞にはとても厳しい法律がつくられている。
法律違反の上に、王家から不興を買うのだから、爵位の返上になるかも。
折角実の親子と認められても、継がせる爵位が無くなったら意味ないわよね。
2つ目は、自分の名誉のために、ジェイニーを血がつながっていない養女だとして切り捨てること。
ジェイニーを跡取りにしないならば、爵位を継ぐ者がいなくなってしまうわよ。だって私は跡なんか継ぎませんからね。やなこったですわ。
遠い親戚から養子を迎えればいいわ。
ジェイニーは平民として、屋敷から追い出されるでしょうけど。
私はチロリとお義母様へと視線を移す。
お父様に2択とは言ったけど、爵位を手放さなくていい方法が1つだけ残されている。
それは、お母様とジェイニーを追い出して、新しい妻を迎えること。お父様は40代だから、子どもが出来ないことも無い。若い嫁を貰えばいいのよ。
歴史あるハーナン侯爵家は名家だもの、跡取りを産めるというのなら、若い生娘を差し出す貴族の家は多くあるはず。
お義母様はどうするかしらね。
私は顔がニヤニヤしそうになって、慌てて扇で顔を隠す。
この扇もアーネストが準備してくれたもので、私の借金に加算されている。
見事な透かしが入った美しい扇は一体いくらするのか、私は何年働けばアーネストへ借金を返すことができるのか、胃が痛くなりそうだ。
だが両親の思惑を叩き潰すことができたから、借金なんか小さなことに思えてくる。
なんて清々しいのかしら。
オホホホ。両親ざまぁ。
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