第6話 私の勇者
「やったらぁ!!犬コロがなんぼのもんじゃい!」
俺は目いっぱい地面を蹴った。
ドゥン!という音がして、高速で前進する。
「な……!?」
ジェリス先輩は、その様子とスピードに驚いたご様子。
グン!グン!と、ロケットのようなスピードで俺はダークウルフに接近する。
普段だったらあり得ないスピードだ。
何故だか出来た。
しかし、俺はそれどころではないのだ、無我夢中だ。
「だしゃらぶしゃなかなはー!!」
訳の分からないことを叫びながら俺は突進する。かなりのスピードだ。俺はこのスピードを活かして殴りつけるつもりだ。
「グルゥ……」
ダークウルフは、俺が接近することに気がつくと姿勢を低くした。
尋常ではない速度に警戒したようだ。
俺はそのまま殴りつける。
「おらぁ!!」
しかし、ダークウルフは難なく横に回避する。
スカ!
俺は、スカッと空振りした。
「うはー!?」
勢いそのままに転げる俺。まるでボールだ。
「あの子……何してんのよ……」
ジェリスはウンザリしたように頭を押さえる。途中までは何かを期待させる速度が出ていたのだが、見事にスカった。
しかし、ようやく転がるのが止まると。俺は立ち上がる。 ちょうど子供達と、ダークウルフの間に立ちふさがる形になった。
唸るウルフ。
さっきの俺のスピードを見て警戒しているようだ。正直、あの勢いで殴りつけたらワンチャンあったかに思える。スカったけど……。
「はぁ。はぁ……」
俺はダークウルフを改めて見た。
「(で、でかい……)」
まるで巨大な熊のようだ。
(こ、こりゃまずったかな……)
今さらながら引け腰になる俺。
「だ、誰?」
子供達は、俺が助け人なのか迷っているようだ。
「驚かせてすまない。俺はな……」
「人?オーク」
「誰がオークじゃい!」
俺が子供達にツッコミを入れる。
「ご、ごめんなさい……」
「意外と素直なのね……。いいから逃げろ!」
俺は子供達に指示をする。
「で、でも……妹の脚が……」
少年のほうが躊躇いを見せた。
「お兄ちゃ~ん」
見れば少女のほうはブルブルと脚を震わせていてヘタリこんでいる。
(まずいな……。腰をぬかしているな……)
俺が困ったな。と思っていると、ジェリス先輩からの叫び声が森に響く。
「なにしてるの!?ダークウルフが狙ってるわよ!」
(え……)
俺がぎょっとして振り返ると、ウルフは俺の右後ろに居た。
「ま、まずい!」
野生の戦いで視線をはずすなんて死を意味する。俺はその愚を犯した。
子供達に狙いを定めたようで、俺を無視して襲うつもりのようだ。
ダ!
高い跳躍を見せると、少女のほうへ跳び掛かるダークウルフ。
「きゃあ!」
「エルメーナ!!」
少年が妹を守ろうと前に立つ。
迫るウルフ。
「くっ!!」
俺はとっさにその兄妹をかばって覆い被さった。
////ジェリス視点に移行////
不思議な少年であった。太っていて、お世辞にも整っているとは言えない。
たまたま裏山で、薬草採集を行っていたところ出会ったのだが……。
「ガオオォ!!」
突如として現れたダークウルフ。見れば子供が襲われそうな状況だ。
「く!」
私は魔法杖を取り出し詠唱を開始した。しかし、この距離では間に合わないだろうことは認識していた。
私は思わぬ行動に出る少年に驚き止まる。
さっきの太った少年が、とっさに走り出したのだ。
その速度の速いこと、速いこと。
「な?は、はやい!」
もしかして、とんでもない実力者だったりするのだろうか?
人を見た目で判断してはいけない。
しかし、果敢にウルフに殴りかかるもスカる。がっくりと来た。
速いだけだった……。
「あの子……何してんのよ……」
しかし、その後の行動に驚く。なんと、彼は少年に覆い被さったのだ。
「な?」
どんくさそうな少年であった。しかし、決死に子供を守ろうとしているのは判る。なんという勇者だろう。
ブシャ!という音と共に、少年が叫ぶ。
「ぐあ!?」
痛みの悲鳴を上げる。
「首……、首をやられたの?」
駈けながら少年の動きから致命傷を負った可能性があると推測した。
推測は当たったようだ。首に触ると状況を察したような顔をする少年。
そして、まるで噴水のように吹き上がる血。頸動脈をやられたようだ。
私の勇者が死のうとしていた。
////ここからはイザナ視点に戻る////
俺は、耐えきれず自分が作った血のプールに倒れ込んだ。
(ぐ……痛い……痛い……。痛い!!)
痛みに悶える。
(だ、誰か助け……!)
「ヒュー……ヒュー……!?」
気道もやられたのか声がでない。その間も、首から血が噴水のように噴き出ている。
それを黙って見つめるダークウルフ。ゆっくりと獲物が力尽きるのを待っているようだ。
遠目にジェリス先輩が走ってくるのが見えた。
「き、君……!待ってろ!今助けに!」
しかし、俺は声が上手く出ない。
「か、かは……」
(死にたくない!死にたくない!死にたくない!)
俺は生きようと悶えるが、息ができないため徐々に意識が薄れていく。
(こんなところで……俺は……死んでしまうのか……よ)
次第に視界がボヤける。
俺の魔法属性は「火」である。治癒魔法など使えるはずもない。回復ポーションも持ち合わせていなかった。俺は、ここが自分の死に際だと何となく理解していた。
(……ルシフィアに……せめてもう一度会いたかっ……た)
そして、俺は短い人生に幕をおろした。
◆◇◆女神視点◆◇◆
イザナの死に際を見つめている者がいた。それは地上ではなく、神々が住む神界からであったが……。
湖畔に美しい女性が佇んでいた。シルクで出来た丈の長い衣装に身を包み、腰には青と白の帯が二本結ばれている。白い雪のような手には、金色に輝く長い杖が握られていた。
容姿は絶世の美女である。銀色の流れるような美しい髪は輝き、どこか幼げな顔は、星のように輝く青紫の瞳と合わさり神秘感を増している。
女性の名は、運命の女神アルメイダ。
ここ神界に住まう強い神の一柱であった。
「……」
女神は視線を落とす。その前には、青に輝く宝石のような湖が広がり、光を反射していた。湖から淡い光を放つ球体が浮かび上がっている。
その球体にはイザナの姿が映し出されていた。
女神のすぐ横に、一人の美しい男性が膝をついて控えていた。女性のような容姿をしているが、金色のショートヘアーに凛々しい眉が男性と主張していた。頭の上には、天使の証たる金色の輪が浮かんでいる。
その天使が慎重に言葉を選びながら申し立てた。
「女神アルメイダ様……。本当にあの男なのでしょうか」
すると、女神は天使へ視線を移すと、ゆっくり頷いた。
「間違いない。奴じゃ。カシーナの息子じゃが。見てみれば間違いなくアークの転生体じゃ」
天使は目を見開く。
「判りました……。では我ら守護天使は戦いに備えましょう」
「うむ。ワシは奴をここに呼びよせる」
天使は姿を消し、女神は杖を振るった。
すると、青い湖からイザナがゆっくりと姿を現す。
イザナは瞼をゆっくりと開けると呟いた。
「ここは……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます