第17話 継承

 タローが死んでからすぐに育成カプセルが動き出し、楓をどかそうと声をかける。


「そこに居られると継承の邪魔です。本当に主タローを死なせたままにしたいのですか?」


 そう言われて、楓は頭の中はぐちゃぐちゃだが本当にタローを死なせたままにしたくはなかったのでタローから離れて何とか部屋の隅に移動する。

 そうすると育成カプセルは大きなテント型の膜をタローの遺体周辺に張りった。


「アストラル体移植手術を開始する。成功率は患者の肉体が死亡の為50%になります。くれぐれも邪魔をしないようにお願いします」


 育成カプセルはそう言うとタローのアストラル体を捕獲し、クローン体の頭に穴を開けようとした。

 その時、楓が言葉を発してその手を止めさせた。


「待って下さい!頭を手術するのでしたらこの生体用チップも移植して下さい」


 そう言って、小さな容器に入ったロストチップを見せる。

 これは、新しくロストチップを作った時に出来た生体専用のロストチップだった。

 悔しながら、楓の2つのロストチップの合計した性能を越えている。

 何故なら楓の2つのチップは民生用であるのに対して今回のロストチップは軍用か政府高官用……下手したら帝国で言う帝王用かも知れなかった。

 育成カプセルは受け取って先にロストチップの移植作業を終わらし、アストラル体の移植作業に入っていった。

 

 手術時間は5時間を越えて継続中である。

 その間に第1番倉庫の外殻の修理は終わっているが、ワープに耐えられるかは多分大丈夫だと思うが未知数との事だった。

 楓は何かしていないと不安で仕方が無かった。

 航行不能になった海賊船から戦利品をロボットを使って漁っている所だった、手術が無事に終わったのは。


 手術が終わったと聞いて楓は急いで医療室に行き、スペアボディ――もうスペアボディではなくタロー・コバヤシになった赤ん坊応を見る。

 赤ん坊は1歳と数ヶ月といった所だった。

 頭の手術痕が痛々しい。

 育成カプセルが言った。


「これで後はアストラル体が定着するのを待つだけです」

「定着するのはいつになりますか?」

「それは個人差があるので分からないですが、5時間もすれば普通は定着すると思います」

「有り難う御座います」

 

 ここで浮遊型自立AI付きのカメラが承認判定記録を止めた。

 タローのアストラル体が定着する間、楓は海賊の記憶を見て重要な部分をバックアップしたり編集用に保存したり、編集したりしていた。

 その中にロストシップの事があった。

 どうやらこの海賊共はタイタン社の下請けのような事をしているらしい。


 そのタイタン社がロストシップの調査中に強奪されたわけだが、実はタイタン社がグルになってロストシップを今は放棄されて恒星に沈めたとされるタイタン社の宇宙船研究所兼ドックに移動させたわけだが、それを指揮したりタイタン社のライバルの会社の船を襲って重要書類を奪ったりしていたらしい。


 沈んだとされるタイタンの秘密研究所兼海賊どもの根城にはロストシップがまだあり、研究員も大勢いるそうだ。

 秘密研究所兼海賊どもの根城の座標は記憶に残っていたし海賊の宇宙船にも載っていたので信用できる。

 これもポリスに通報すれば制圧後にロストシップの返還と秘密研究所兼宇宙海賊どもの根城の人を含む全てを金額換算した8割が報奨金として貰える。

 此方で捕獲した海賊船は全て此方の物になると帝国法で決まっているが、情報提供でその情報が重大な時に支払われる金額だ。


 元のタローの遺体は手術の最初の方でアストラル体を引き出して要らなくなった時に楓が積み荷にあったコールドスリープ装置でコールドスリープさせている。

 そして5時間が経った。育成カプセルが診断した結果、定着を確認したとの事だった。

 継承院にライブで継承も認められて正式にスペアボディはタローとなった。



 俺の最後の記憶は俺自身を上から眺めている所だった。

 それから訳分からん機械に吸い込まれてどうなったのか覚えていない。

 目が覚めたら目の前に大きな楓が居た。

 なんてでかさだと思ったが、俺の手を見てクローンに移植されたのだなと分かった。

 楓にすまなかったなと言おうとしたが、育成カプセルの中で育成液の中に居る。

 言葉は発せられない。

 仕方が無いので宇宙ネットで楓当てにメッセージを送る。

 あ!その前に宇宙ネットで継承院に定着できたとメッセージをアストラル体が特定できる方法で出しておいた。


「迷惑かけてすまなかったな、楓。何とか蘇る事が出来た。礼を言う」

「オーナー! 気がつかれたのですね! 礼なんて良いのです。それよりもお守り出来ずに申し訳ありません」

「あれは事故みたいな物だ。気にする必要は無い。それよりもこれからの事を話し合いたいのだけど?」

「はい。すみません。これからの事ってどういうことですか? ポリスに連絡して海賊どもを引き渡してタイタン社と軍に責任を取らせるんじゃないですか?」


 疑問の?顔をする楓だ。この顔も身を隠したらしばらく見納めだな。

 

「おおまかには間違っていない。だが、俺がこんな状態だと俺を狙ってくる奴が大勢来るだろう。だから俺は身を隠す事にした」

「身を隠すって何処にですか?」

「宝くじで当たった外宇宙地域に地球型惑星があり、人も住んでいると言っていた星があったな。そこに身を隠そうと思う」

「そこって未開の大地で原住民も地球時代の大昔の頃の生活だそうですよ。そんな所で生きていけませんよ!」

「生活の方は第一倉庫を切り離して輸送艦にして、ある程度の道具類と食べ物と飲み物に種子類があれば何とかなると思う」

「まぁ、それなら何とかなりますけど。言葉は此方で分かっている範囲の物はインストールしておきますね」

「ありがとう。とは言っても我慢の限界があるからなるべく早く終わらせて迎えに来てくれ。……そうだな最大でも14年後だったら自分の身も自分で守れるだろうから事件が解決していなくても迎えに来てくれ」

「分かりましたけど、本当に大丈夫ですよね。もう死ぬ所は見たくありませんよ!」

「ああ! 俺の死体に取りすがってオーナー! って言ってたもんな」

「何故死んだ後の事を知っているんですか!? もしかしてアストラル体で見てました?」

「ああ」

「あんな死ぬ所見せられたら誰でもああなりますよ! 気を付けて下さいね。本当に!」

「分かった。それじゃ荷物の入れ替えとかは頼んだぞ。俺はこの状態で何も出来ないし」

「分かりました」

 

 そうして俺は外宇宙地域の地球型惑星に向かって第1倉庫改め輸送船トランスに乗っていく事になった。


―――――――――――――――――――――――――――――

不穏な終わり方だけど次回の内容は地球型惑星です。

タローは身を隠す事にしたがその先は地球型惑星だった。

ワープに耐えられるか未知数の輸送船に乗って挑んでいく!

次回、地球型惑星です。

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