十九、帰ってきました
黒竜は王都の、王宮の上空を二度大きく旋回してから館へ向かった。
黒竜の姿を誰かが見付ければ、すぐに中書令に連絡が行くようになっているらしい。それは
王が住まう館は王宮の裏手にある。北の方角だ。
館の門を越え、黒竜は館の前の広場に下りた。下りた時には建物も置かれ、私は王の腕の中にいるのだから不思議だ。
「……帰ってきましたね」
「うむ」
数日しか離れていなかったのに、なんだかとても懐かしく感じられた。
建物から
「着いた、のね……本当に早いわ」
玉玲は困ったような顔をしていた。建物にも窓は付いているが、上空に上がれば雲しか見えないので景色が面白くないと玉玲は言っていた。上昇する時と下降する時もさほど時間がかからないので上昇時ぐらいしか見られないらしい。今回も下降の時は見られなかったのだろう。
館の門が叩かれた。王宮から人が来たのだろう。
「無粋な……」
私は慌てて王の首へ腕を回した。できればまだ一緒にいてほしかった。
「もう行ってしまわれるのですか?」
すると成和が門の方へ一歩踏み出した。
「王、報告は私がしておきますので本日は梅玲様とお過ごしください。何かありましたら報告へ参ります」
「頼んだぞ」
ほっとした。それと同時に、申し訳ないことをしたかもしれないとも思った。
「そなたのおかげで休める。我はいい妻をもらったな」
「
翠麗が表情の動かない顔で同意する。
「えっと……あのぅ……」
「はー、
「はい、玉玲様」
「だからどうして抱き上げるのよ!」
「この方が早いですから」
「いいかげん自分の足で歩かせてよ!」
玉玲と明和のことは、見なかったことにした。
例の依頼の報告についてはすでに依頼人に届いているそうで、数日中に王に面会希望が上がるだろうとの話だった。
母には玉玲がお土産を渡してくれたらしい。短い旅の話を、玉玲が母に伝えたようである。
橙紅は親に出会えたからといっても何も変わらないように見えた。まだ鳳雛だというし、親元で過ごした方がいいのではないかと思ったけど、鳳凰の親子関係というのもよくわからないものらしい。お互いがよければそれでいいというかんじだというのをなんとなく橙紅から伝えられて、そういうものなのかと思った。人とは全く違うものだから考え方も違うのだろう。
橙紅は親よりも私の側にいたいらしい。
キュイ、キューイと甘えるように伝えられて、嬉しいと思った。
「そういえば、あの地域の植生調査の依頼はどなたが出したものだったのですか?」
「安生の町の元長官だ。現在は中書令の元で働いている」
「まぁ、そうなのですか」
中書令とは王の一番近くにいる宰相だと聞いた。翠麗が言うには王に継ぐ権力を持っているらしい。とはいえ黒竜王の力は絶対なので、私たちに影響は全くないとのことだった。
調査をした結果を受けて、王に面会希望を出すとなるとなんらかの要望があるのだろう。
私にはさっぱりわからなかった。
「調査の内容がどう使われるのか知りたいか?」
「それは……知りたいですが、私に理解できるでしょうか」
「それは我にもわからぬな」
「私としては、あの地域の方々が満足して暮らせるならそれが一番だと思っています。鳳凰があの地を離れるとなったら、また植生は変化するのですよね?」
「おそらくな。ただ、すぐにではないだろう」
鳳凰の光と熱があったことで、例の木の葉は早くできるようになった。一時的だけれどもあの村の人たちはそれで生活がかなり潤っているに違いない。そうなると、植生が元に戻ったとして元々の暮らしに戻れるのだろうかという懸念もある。
「……あの辺りは他の薬草なども豊富でした。もしあれらの植生の変化がなければ、薬草を摘むことで生活を変えなくても済むのではないでしょうか」
そこまで言って私は口を押さえた。
いくら伴侶とはいえ、王に対して出過ぎた口を聞いたと反省した。私は王の伴侶だけど王ではない。
「そうだな。それも考慮することとしよう」
けれど王は私を咎めなかった。
「我には庶民の視点が足りない」
「え?」
「そこはそなたが補ってくれると助かる」
「お、補えるほど、物は知りません……」
そうでなくても私の世界は狭かったのだ。王によって一気に世界が開けて、まだまだ勉強中である。
「それでいい。わからぬことは互いに学んでいこう」
「はい……」
王はどこまでも私に優しくて甘い。二人きりだと更にそうで、どこまで甘やかされるのかと不安になるくらいだ。
昨日より今日、今日より明日、私は王をより好きになるだろうと思った。
ーーーーー
明日で一部完結しますー。よろしくー
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