第30話 偽りの覚悟
「ゴメンね…何時も…」
「大丈夫! 何時もの事だから気にしないで良いからね」
戦いが終わったあと、興奮が冷めなくてつい理人くんの腕をブスッとしてしまったのよ。
気のせいか理人くんの回復が少し速くなった気がする。
そうか…レベルが上がったんだ。
そりゃそうか…魔族の四天王を倒せば、そりゃそうなるわ。
「そう、それじゃ、砦に行って、さっさと報奨金を貰おう…あとは」
「あとは? 打ち合わせの通りで良いんだよね?」
「そうよ」
「「関わらない」」
今回の相手は相性が良かっただけ…
ジャンケンで言うなら相手がチョキを出すのが解っていて、こちらがグーを出せただけだわ。
だから、これで良い。
だって、私も理人くんも勇者じゃないんだから戦う義務は無いもん。
◆◆◆
「魔王軍の四天王の1人フェザーを倒して来たから報奨金を貰いに来たのよ」
「もう来られたのですね、王女マリン様がお待ちしております、さぁ、さぁどうぞ!」
まぁ、あの辺りは境界だから斥候位は送り込むわね。
状況はもう知っているのね。
謁見の間に通されたわ。
異世界人から軍事責任者の貴族まで居て、なかなか重々しいわ。
「元勇者レイラ、理人殿、魔族の四天王を倒したと言うのは本当ですか?」
いきなりマリン王女?
余程気になるのかな?
魔族を倒したのは見ていても相手の格までは解らない、そういう事ね。
「倒したわよ、理人くん、ほら出して」
「はい…これで良い?」
完全に真二つだから、驚いているわね。
「にわかに信じられないから、鑑定させて頂いても宜しいですか?」
「獲物だけなら良いわ、それと異世界人を召喚したレベルの魔族四天王クラスの幹部を倒せば、金貨3000枚(約3億円)は保証されていた筈よね、鑑定して間違い無ければ、お支払いをお願いするわ」
「解りました…鑑定を…」
鑑定官が調べているわね。
間違い無いわ…
「でました…間違いなく、魔族四天王 フェザーです…しかもこの個体の強さは、あのバルモンより相対的に強いです…」
強さの判断はまちまちだわ。
相手の攻撃を受けて戦う脳筋タイプと『触れさせずに倒すフェザー』そう鑑定魔法が判断しても可笑しくない。
「嘘だろう、あの大河が負けた相手以上の相手に理人が勝ったのか」
「案外、頑張れば倒せるんじゃないか?」
「うんうん、多分此処から、私達は伸びるんだよ…きっと」
マリン王女は顔が青いし、貴族や騎士も顔が青い…その様子が『それは難しい』と物語っている。
鍛えているのは『自分達』だけじゃない、相手も同じだしね。
「あの…勿論、報奨金は払います! ですが、高待遇で迎えますので、戻って来て貰えませんか」
理人くん、頼むわよ。
「それは無理です! だって俺はこれから先役立たずになるだけですから!」
「今現在、剣聖の大河ですら、魔族の四天王、その貴方達が倒した存在より格下の四天王に遅れをとりました、四天王を倒した貴方達が役立たたずだとは思えません」
「それは覚悟の差です…そこに大河が居るのがその証拠です」
「覚悟?…どういう意味ですか?」
これは、元から打ち合わせて考えていた事だ。
「私が代わるわ、貴方達が甘ちゃん…そう言う事よ! 命がけで戦わないから負けたのよ!」
「ふざけた事言うな! 俺は命がけで戦ったんだ!」
「そうだ、それは俺も見ていた」
「そうよ、大河は良くやったわ」
最初に文句を言って来たのがきっと剣聖ね。
擁護に入ったのが勇者パーティ…そういう事ね。
「そう…それじゃ、姫様、彼らがなぜ負けたか、教えてあげるから、ハイポーションを幾つか奢ってくれますか?」
「それ位構いませんが…」
「それじゃ理人くん、少し教えてあげようよ」
「そうだね…見せてあげよう」
「何をしようというのですか?」
「覚悟です!」
私は理人くんに近づき…そのまま腕を切り落とした。
「うぐっうわうぐっ、ぐわぁぁぁ」
その状態から理人くんは私に殴りかかる。
それを素早く避けて…
「こんなもんです、約束です、ハイポーションを下さい」
あらかじめ用意されていたハイポーションを理人くんの手を繋ぎ振りかけた。
「それがどうしたと言うのですか?」
「良いですか? 腕を失おうが何を失おうが相手を倒す、その覚悟で戦ったから勝利できた…そう言う事ですよ! 簡単でしょう?斥候の人は様子位見ていたでしょう? 真面にやったら勝てないから、理人くんは相手を抱え込んで崖から飛び降りました! その結果相手が死んだ、それだけです! 頭だけを庇ってね…見つけた時は理人くんは体中がボロボロ、それをハイポーションや他の薬品を使って治したんです」
「あれは痛かったな…死ぬかと思った」
「「「「「…」」」」」
「解りますか? 命がけで戦ったからの勝利です! 理人くんは自分も異世界人だから義務は果たしたい!異世界人32名なら、その中で一番能力が低い理人くんが四天王を倒せば義務は果たした筈ですよ、チェスで言うなら只のボーンがクィーンやビショップを倒した様なものですからね! 尤もこんな無茶をし続けていたら死んでしまいます…だから1回だけ、命がけの戦いをし義務を果たした!そう思って下さい!」
「ですが…今の私達には魔族と戦う力が不足…」
そう来ると思ったわ。
「勝てますよ…その気になれば」
「本当ですか? 良い方法があるのですか?」
「真剣にさせる事です…それで簡単です」
「そんな訳ありません、皆、真剣に訓練をしています」
「心の問題です! 普段の訓練から『命がけ』でする事です! 例えば、訓練で手足が切断された状態でも戦わせ、死の一歩手前までやらせる!男は負けたら拷問、 女だったら負けたらそうですね!醜い男の夜伽を3日間させると言うのはどうでしょう? 凄く真剣になりますよ」
「馬鹿言わないでよ…ふざけているわ」
「そんな馬鹿な事やれねーよ」
「ハァ~だから甘ちゃんなんです! 良いですか? 魔族じゃ無くて盗賊ですら捕まれば殺されるから、手足を失っても、いいえ目や鼻を失っても戦います! 女の冒険者や騎士がもしオークに負けたら、そこから死ぬまで苗床で凌辱の日々! 盗賊に負けても犯されて奴隷として売られますよ! 騎士や衛兵の方はご存じですよね!今回はまだ前哨戦で、相手が甘い相手だったから命乞いで許して貰えた…これは奇跡だと異世界人の方は思った方が良いですよ…」
「嘘だろう…そんな」
「嘘だよね…そんな事聞いてないわ」
この世界じゃ当たり前の事なのに、理人くんの言う通りなにも知らないんだ。
いや、自分は特別だと思っているのかな。
「理人が、そんな訓練しているって言うのかよ!」
「そんな過酷な訓練するわけないわ」
「レイラ、それは嘘ですよね」
まぁ、そう言うと思ったわ。
「理人くん、油断しちゃ駄目!」
「ぐふっうがぁぁぁっハァハァ」
私は理人くんのお腹にナイフを突き立て引き裂いた。
中から内臓がはみ出てくる。
理人くんは急いでお腹を押さえた。
これも打ち合わせ通り。
「早く、ハイポーション頂戴…理人くん油断しちゃ駄目…はい、ハイポーション掛けてあげる」
受け取ったハイポーションを理人くんのお腹に振りかける。
「一体、何をしているのですか! いきなり腹を裂くなんて」
「これがいつもの光景です! 油断したすぐに刺す…どうですか? これでも理人くんが過激な訓練をしていないと言うのかしら?」
「「「「「…」」」」」
流石に黙ったわね。
「此処迄、訓練して捨て身になってようやく勝ったんです! 恐らく勝率は半分も無かった…二度はゴメンですよ」
「勝ったのは半分奇跡…多分次は死ぬかも知れない!だからもう勘弁して下さい」
外聞があるからこれなら流石に引き止められないでしょう。
「引き止めて悪かったわ…報奨金を受け取って下さい」
上手くいったわね。
これでもう、魔族討伐に巻き込まれないですむわね。
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