第五六話 魔境都市ブラッドライト②

 『魔境都市ブラッドライド』の中央には通称『鉄の塊』と呼ばれる塔がそびえ立つ。その塔の最上階に都市を治める元首がいるらしい。


 防御性能を重視した洗練されたデザインの塔の中へと俺達四人は入っていく。


 フロントには受付嬢がおり、彼女と目を合わせて軽く会釈する。見た目じゃ分からないが本能で理解できる、あの受付嬢はヴァンパイアだ。


「なんだこれ」


 俺は取っ手が無い不思議な扉の前に立つ。


「これ知らない? エレベーターよ」


 リーフは壁に付いてあるボタンを押す。しばらくして、扉が独りでに開くと、


「「おお」」


 セラとマナが感嘆の声を上げる。


「建物内を上下移動する乗り物よ。どいういうもんなのかは乗れば分かるわ」


 リーフの後を追い、俺達はエレベーターに乗る。リーフはエレベーター内のボタンで向かう先を最上階に設定すると、エレベーターから浮遊感を感じ、上へと移動していることが分かった。


 魔法王国にはない技術だ。一体、どれだけの研鑽を続ければこの技術が手に入るのだろうか。


 俺は内心、この国の元首に感心してしまった。


「リーフ」


 セラはおもむろに話しかけていた。


「なに?」


「この狭い場所でリーフに奇襲されたら対処が難しいですわね」


「あ、あのなぁ……」


 困惑気味のリーフは二の句を継ぐ。


「そんなことするわけないし」


 そうこうしているうちにエレベーターは上昇を続け、チーンという音を鳴らして最上階へと到達する。


 エレベータの扉が開くと大理石の部屋が現れ、その奥に大きな木製の扉が見えた。


「あそこか元首がいるのは」


「うん」


 俺はリーフに確認をとる。


「元首の前で何か気を付けた方がいいことってあるか?」


「うーん、ないね。強いて言えば自然体のままで接し欲しいと思う」


「分かった」


 引き続きリーフが先頭を歩き、木製の扉を開けてくれる。


 俺達は元首の部屋の中に入った。


 広々とした部屋には赤絨毯が敷かれており、高価そうな絵画や装飾品が壁に飾られていた。


 そしてガラス張りの壁を背に赤い眼を光らせた黒髪の少女——―いや、一〇代前半の容姿だが少女が醸し出している老齢な雰囲気からして気が遠くなるような年月を生きたヴァンパイアに違いない。彼女の着ている白いドレスと腰まで届く透き通るような黒髪がコントラストとなってより存在感を際立たせている。


「失礼だのう、初対面で女性を相当な年齢と勘繰るのは」


 少女を俺を見据えて口を開く。


「心の中を読めるのか?」


「読めんよ、ただお主の表情で何を考えているか分かる」


「経験値からくる読心術ってやつか」


 俺の言葉にうむ、と黒髪のヴァンパイアは唸る。


 そして、


「我はこの都市国家の元首、ヴァンパイアのバンリーベルと申す」


 バンリーベルは慇懃にドレスの裾を掴んで挨拶する。それにセラとマナは合わせて挨拶をする。俺も一応、礼をした。


「ベル様、約束通りお連れしました」


「うむご苦労ご苦労」


 バンリ―ベルはリーフに向かって満足そうにうんうんと頷く、


「セラフィに、マナベルクに、ファルよ。改めて言おう、この国にようこそとな」


「この国に招いてもらったのは感謝する。できることがあればなんでも言ってくれ」


 しばらく路頭に迷うと踏んでいたのでバンリーベルが俺達を招いてくれたことはこちらにとっては幸運だ。


「ではファルよ、我のものにならぬか?」


「「なっ⁉」」


 バンリーベルの言葉にセラとマナが驚き、


「えぇ……そういう目的で来てもらったの?」


 リーフは怪訝そうにしていた。


「ファル様はわたくしのですわ」


「いつそうなったんだよ」


「ファル君は私のだよ」


「勝手に決めるな、誰のものでもないから」


 セラとマナはそれぞれ俺の腕にしがみつく。


「我の申し出を受けられぬのなら、この国から出て行ってもらうことになるぞ」


「「…………」」


 俺にしがみついたまま口を噤むセラとマナ。


「我のものになるってどういう意味だ。俺になんのデメリットがあってお前になんのメリットがある?」


 俺は言葉の真意を探る。


「お主にデメリットはない、我も歳でな後継者が欲しいのだ。そこで王国に啖呵を切ったお主の胆力に目を付けた。久々に息がいい男が現れたなと思ったよ……そしてお主が使う魔力由来ではない不思議な力の使い方も我は知っておる……どうだ後継者兼弟子にならぬか?」


「そういうことか……何が狙いなのか分からないが俺に選択肢はないしな」


 俺はバンリーベルの申し出を聞き入れることにした。

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