第四五話 魔道教の追手達

 さらに二週間後。


 俺達はすでに大陸を横断する河の上空を飛空艇で通り過ぎるところだったが――


「そう甘くはいかないよな、分かってたけど」


 ――俺は下方にある『トレイシア大橋』から放たれた様々な攻撃魔法を魔眼の力で直角方向に逸らし続ける。


「おっ、と」


 船が大きく揺れ動き、船体からは煙が噴き出す。これまでに船底や船の側面に敵の攻撃を幾度か受けてしまっているので船の速度が落ちていた。


 巨大な建造物を数百人の敵から守るのは困難だった。これはこれでまた新たな気付きを得られたので良しとしよう。


 俺の背後から駆け足でセラが近づいて来る。


「ファル様、船の損傷率は三〇パーセントですわ」


「まずいな……というより、よく飛べているな」


 俺は喋りながら顔面に向かってくる雷の槍を上方へと飛ばす。またセラは『風属性魔法』の攻撃を同じ属性の魔法で相殺していた。


「俺の技とセラの魔法を使って船を加速させよう」


「分かりましたわ」


 俺達は攻撃を受けて振動し続ける飛空艇の上を走り、船尾側へと向かう。


 船の最後部に辿り着いた俺達は横に並ぶ。


「『風薙ぎ――」


 俺は剣を抜き、剣に空気を収束させ風を纏わせる。そして、


「――乱舞』!」


 八の字の剣閃を描くように宙を攻撃し続ける。俺が繰り出す暴風により船は加速する。


 さらにセラが宙に向かって両手のひらを突き出し、

 

「『トルネード・スラッシュ』『トルネード・スラッシュ』『トルネード・スラッシュ』!」


 『風属性魔法』を連発していた。


「――――国境を抜けましたわ」


 飛空艇は完全に『トレイシア大橋』を抜けた。


 俺達が『トレイシア大橋』の上空を渡ると決めたのは橋を抜けた先の国境が曖昧だからだ。


 この橋の延長線上はアラクネ共和国とカラウド共和国の国境線にあたる。


 国境線上は先日、セラに言った通り、幾つかの都市国家が乱立しているので二つの共和国がすぐに俺達を撃退しにこれない。


「よし降りるぞ」


「えっ、降りるのですか⁉」


 俺の言葉に驚きを露わにするセラ。


「そうだ。相手の実力がどうあれ開けた場所で戦って囲まれたくはない、それに好都合なことに敵は俺達を挟撃できてない、なら橋の上で迎え撃つ」


 俺は船の端に足をかけて立つ。


「なら、わたくしも」


 セラも飛び降りようとするが、


「待て待て、セラは適当なところで船を着地させてくれ。船を加速させてダメージを逃がした意味が無くなる」


 セラは俺の言葉で船の端に立つのを止める。


「すぐに駆けつけますからね」


「そうしてもらえると助かる、じゃ、また後でな」


 そう言って、俺は船から飛び降りる。


「お、来た来た」


 風にさらされながら俺は地上の様子を確認する。


「『ファイア・ビーム』!」


「『ウォーター・ビーム』!」


 敵が指を向けて細長い炎と水の光線を放ってくる。


「学習能力のないやつらだ」


 当然、俺は光線をあらぬ方向に捻じ曲げる。


 このまま地上に着地すれば、俺の足は砕けるので、


「はっ!」


 俺は『風薙ぎ』を発動させた剣を下方に向かって振り、風を起こすことで着地時の衝撃を和らげた。


 着地した場所は橋の入口から一〇〇メートル離れた場所だったので、敵が橋を渡り終える前に俺は急いで橋の上へと移動する。


「余裕で間に合ったな」


 俺はなんとか敵が橋を渡り終える前に、橋の上に立つことができた。


 敵の数は目算で二〇〇人といったところか。


「敵の数は二〇〇人といったところですわね」


「分かってる、って、セラ!? もう戻ってきたのかよ」


 俺の横には風のように戻って来たセラがいた。


「すぐに駆け付けますからねって言いましたから」


「いくらなんでも速すぎるだろ」


「『フィジカルアップ・テンス』を使いましたわ」


「どこで本気出してんだ」


 俺は少々、呆れ気味に言葉を返した。


 敵はすでに俺達の近くまで来ていた。


「反逆者ファル! この国から逃れると思うなよ!」


 敵の一人が叫ぶ。


「やはり王国の兵士じゃないな」


 俺は敵の格好を見て判断する。


 敵は皆、白を基調としたローブ着ていた。また、ローブには幾何学模様を正七角形で囲んだ紋章が刻まれていた。


「魔道教の神官達ですわね」


 セラの言う通り、今回の敵は魔道教そのものだった。

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