第二七話 王国の見え透いた罠

 翌日。俺は相変わらず、セラの部屋で角砂糖がたっぷり入った激アマ紅茶を飲んでいた。


「これは角砂糖一五個分の甘さといったところだろうか」


 王国に対して大々的に反逆を宣言することを考えていると、ドアがコンコンと叩かれる。身を隠そうとすると「わたくしです」と、セラの声が聞こえた。


 部屋に入って来たセラは一枚の紙を持っており、足早に俺の前にあるテーブルまで来て、紙を置く。


「なんだこれ」


 俺は頬杖をついて紙を手に取って読む。


「これが王都だけではなく近隣の町や村に配られているんです」


「えっと……何々『国家反逆者ファルに告ぐ、○月△日の正午、王都の噴水前広場の高台にて聖女の前でクノクーノ・トレイシア大将軍と兵士達を殺害したことを認めれば慈悲深い魔道教は貴殿を恩赦し、罪を取り消す』」


 俺は紙に書いてあることを読み上げた。


 どうやら王国は○月△日――明後日の正午に俺を噴水前広場におびき寄せたいらしい。


「どう考えても罠」


「ですわね」


 この魔法王国で聖女といえば教皇の孫――マナベルク・レストナークしかいない。


「マナの様子はどうだ?」


 俺は前に座ったセラに尋ねる。


「休校になってから会ってませんからなんとも……きっと、ファル様のことで心を痛めてますわ」


「それはどうだろうな……」


 俺は足組んで再び言葉を紡ぐ。


「セラにも言ったことだが、あいつもこの国で教育を受けている。根底にある価値観が魔道教に影響されている可能性が……というか教皇の孫だからな……教皇の言うことをすんなりと聞く可能性だってある」


「あらら、可哀想なマナ」


 何故かセラはマナに同情を示している。


「ファル様はマナの本質を見抜けてないですわね」


「あ? そりゃどういうことだ」


「ふふん、秘密ですわ」


「…………」


 含みを持たせたようなセラの笑みが気になったが何も言いたくなさそうなので追求はしなかった。


 今は気にしないでおくか。それより今からとるべき行動をセラに言ってやろう。


「○月△日の正午、俺は噴水前広場に行く」


「えっ⁉」


 セラはガタッと立ち上がってテーブルに身を乗り出す。それに構わず俺は言葉を続ける。


「いい機会だ。マナにも無事を知らせれるし、王国に宣戦布告もできる」


「駄目ですわ。王国が抱える四人の将軍がその場にいるのですよ」


「フッ……だいぶ警戒されてるな」


 魔眼の事が漏れたのかもしれない。トルグとキリゲを逃したからな……魔道教は完全に俺が魔眼に覚醒したと確信して、王国が四人の将軍を出撃させたのかもしれない。


 クノクーノ大将軍の下には五人の将軍がいる。それぞれ赤の将軍や青の将軍など着ている鎧の色にちなんだ名称が付いており、名実共に五人の将軍は近隣諸国で名を馳せた実力者だ。


 将軍が四人しか出てこないのは一人が領地拡大のために去年、占領した大森林に駐在しているからだろう。


「ファル様、駄目です。危険すぎますわ、このまま飛空艇で逃げてから王国に反逆を宣言する声明を出しましょう」


 セラは不安そうな面持ちだ。


「怖いのか?」


「ええ、ファル様を失うことが」


 自分の命が危ないとかそういうのじゃないんだな。


「俺を見くびるなよ、将軍が四人だろうと俺は退かない。その将軍四人相手に啖呵を切って、逃げ切れたらどうなる? 王国に抑圧を受けて逃げた人々の求心力となるのは間違いない。後々、戦力を集めるのに役立つ。俺と言う反逆者がいることを世に知らせるのに絶好なチャンスだ」


「ファル様の決意が固いのは分かりましたけど、もしファル様が死んだら、この世を地獄に変えますわ」


「なんだよ地獄って」


 とんでもない宣言をするセラ。


「俺はセラが納得するまで当日の事についてじっくり話し合うつもりだ」


「では早速、話し合いましょう」


「無論、そのつもりだ」


 俺はセラと夜遅くまで計画を組み立てることにした。

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