第二〇話 大将軍を追い詰めた①

 迫り来る五人の精鋭兵? は苛々しながら剣で斬りこんでくる。


「逃げるな!」


「くそ! 動くんじゃない!」


 魔法で身体能力を強化しているはずの敵だが、どうも動きが読みやすい。目視は厳しいが先読みで回避できる。とにかく、相手の剣が大振り過ぎる。


「どういうことだ……」


 つい口走った俺は、横に振られる剣を背中を反って避け、後ろに跳ぶ。


「動きが遅いというか、見切りやすい!」


 すぐさま後ろを振り返り、後ろからの突き攻撃を半身で避ける。


 いくら俺の魔眼が強力とはいえ、俺自身の身体能力は強化されていない。脳が覚醒したといっても魔眼の力を効率よく発揮できるように常人の空間認識能力を逸脱しただけだ。


 この五人はさっきの三人の兵どころか、きっと今も近くで怯えているトルグやキリゲにも劣る。


「おい、クノクーノ、どういうことだ。こいつらは精鋭兵じゃないのか?」


 俺は攻撃を避けながらクノクーノに問いかける。


「だ、黙れ! 精鋭に決まっておる!」


 こいつ、まさか大将軍にも関わらず、学生にも劣る兵しか与えられてないとかじゃないだろうな。いや……他の貴族がそうするように仕向けても、仮にも王族のクノクーノに対して、表立って武力を削ぐことはできないはずだ。


「ええい! なにおしておる、囲んで一斉攻撃しろ! 連携を取るんだ!」


 クノクーノは五人の兵に命令する、それも『因果律無効の魔眼』にとっては悪手な命令を。


 五人の兵は再び、俺を囲む。


「「「はあ!」」」


 そして、五人の兵は気合と共に一斉に突き攻撃をする。


 一斉攻撃ほど読みやすい攻撃はない。


 兵は俺を刺したつもりだが、魔眼の力によって剣先が俺の体の手前で止まる。いくら力を加えたとしてもその剣先は俺に届くことはない。敵は俺を突き刺したくても突き刺せない状況だ。


 驚く敵を目の前に、


「悪いな」


 一言言って、その場で片足を軸に回転し、一気に五人の首を横に斬る。


「うがっ」「ぐえっ」「ぬぎゃ」


 兵達はうめきながら首を押さえて、ドサッと倒れた。彼らの命は長く持たないだろ。


「一斉攻撃は悪手だったな」


「ば、ばきゃな!」


 クノクーノは腰が抜けたのが、その場でへたり込んだ。


 俺は剣を持ったまま、腕を下ろして、クノクーノに近づく。


「今の五人の兵はなんなんだ。練度が低すぎる、学生にも劣るぞ。あんたの地位ならいくらでも強力な兵を付けれるだろう」


「ゆ、優秀な者を付ければ私が目立たないだろ!」


 クノクーノは尻餅をついたまま、後退あとずさる。


 というかこの人は……何言ってるんだ。


「なんだそれ、優秀な者がいると目立たないって」


 あまりにもおかしなことを言ってたのでオウム返しをする。


「つ、強い奴が周りにいると私が目立たないではないか! それに有能だったり血筋が優れると感謝されることを当たり前だと思ってるやつばかりだ! だから未来が無い貴族の庶子や末っ子どもを搔き集めた!」


「なるほど……」


 こいつ自身、鳴り物入りだから有能や優れた血統が許せないのか……なんて器量が小さい奴なんだ。優秀な者が味方であればあるほどいいのに。


 さっきの五人はこんな奴のために死んだのか、殺したのは俺だが。


 俺は間合いを詰めて足を止める。


「クノクーノ、お前を殺す」


「ひ、ひぃ!」


 俺が宣言するとクノクーノは青ざめた顔をする。


「だい、大将軍だぞ! この国で最も偉いんだ!」


「軍の中で一番偉いだけだろ。実際のところ、実力で成り上がった他の将軍達はお前を上官だと思っていないのかもな」


「っ!」


 俺の言葉が琴線に触れたのか眉を吊り上げていたが、剣を向けるとすぐに怯えた顔をする。


「安心しろ、楽にあの世に送ってやる」


「! ――すけて!」


「はい?」


 クノクーノは小声でなにか言っていた。


「た、助けてくれぬか!」


「……は?」


 命乞いだと? 人の命を狙っておいて何を言っているんだ。

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