第七話 恩師が亡くなった理由

 僕は兵士の会話を盗み聞きするために、休憩部屋の扉に聞き耳を立てる。


 こんなことしている場合じゃないけど、確実に僕の名前を口に出していた。見ず知らずの同名の人だった可能性もあるけど、自害を命じられたこのタイミングでもし僕の話をしているのなら……急に退学させられた理由について知っているのかもしれない。


「この後の仕事が面倒だな」


「ファルとかいうガキを殺すだけだろ」


 どいうことなんだ⁉ 僕を殺す⁉


「死体の処理が面倒ってことだよ」


「あーなるほど」


 兵士は二人いる。


「魔道教の教えだと、魔力が無い貴族様なんか存在しちゃいけねえからな。あのガキも可哀想だな、なんつって、ははは!」


 兵士の一人は嘲笑あざわらっていた。


「可哀想なわけないだろ、ムカつくぜ! いつも王女様や聖女様と居やがって! たまたまアルスター家の養子になって繋がりができただけのくせに」


 もう一人の兵士がそう言うと、扉の向こうからドンッという鈍い音が聞こえた。机か壁を叩いたのだろう。


「もうアルスター家でもなんでもないんだろ? しかも自害しろって手紙に書いてるらしいぜ」


「まあどうせ自害しないだろうから俺達があのガキを殺すように命じられたってわけだ」


「王と教皇と今の校長もあいつの死を望んでんだろ、はははは! ウケるわ」


 兵士は手を叩いて笑っていた。


 僕を退学にした人達も僕の死を望んでいるのか。


 その事実に息が詰まりそうだ。くわえて、動悸が激しくなってきた。この世界に僕の居場所がないとさえ思えてきた。


「お前の言う通り、ウケるな。前の校長も報われなさすぎだろ、あのガキを庇い続けたために今の校長に殺されたんだからな」


「絶対、あれ王様か教皇からの命令で殺したよな」


「そりゃそうだろ。無能は殺すべきなんだからな! あのムカつくガキを殺してもいい許可をくれる魔道教最高!」


 嘘だろ。


 僕のせいでティルさんが殺されたのか……葬儀も死体もなく突然、死んだって聞いたから不自然だとは思ったけど。


 僕が生まれてこなければ――――いや、違う。


 ティルさんを殺したのは魔道教だ、王様と教皇だ、今の校長だ。この国そのものが悪いんだ。


 僕は下唇を噛む。


 この国が憎くても、逆らえない、抗う力なんかない。


「ふぁー、ようやく見回り終了っと!」


 通路の奥から人の声が聞こえる。きっと、今、校舎内を巡回している兵士に違いない。


 僕は足早にその場から離れて武器庫へと向かった。


「やっぱり施錠されているか」


 武器庫の扉は茶色い両開きの扉で、鎖によって取っ手が縛られていた。


 僕は木剣を上段に構える。


 深呼吸をする。経験上、声を出しながら木剣を振るうといつも以上に力が出ることを知っていた。


 そして剣速と威力を高める心構えとして、二撃目を打つことを考えないということだ。木に向かって一日に五〇〇〇回も木剣を打ちこんでいた僕だが剣を振るおうとする度に、あとのことは考えずに全力で打ち込んでいた。


 常に自分の限界を越えている感じがして達成感があった。


 僕は深呼吸をし、


「――――はぁぁ‼」


 息を吐きながら木剣を振り下ろして鎖に打ち付ける。


 鈍い金属音が廊下中に響いた。


 バキッと木剣の先は折れてしまうも、鎖は木剣が当たった箇所から煙が出ていた。摩擦で煙が噴き出ているのだろうか。


 僕は煙が噴き出している箇所はドロドロに溶けていたので、その両側を力強く引っ張ると鎖は二つに分かれて扉から外れる。


「なんだ! 今の音は!」


「人の声もしたぞ!」


 兵士達の声がする。


 僕はささっと武器庫に入って、一番最初に目に入った全長九五センチのロングソードに目を付けて手に取る。防具を身に着けている暇はないが、すぐに着れそうなフード付きの黒い外套がいとうがあったので手に取って、身に着けた。


 その後、僕は顔を見られることはなかったが、遠くから兵士が追ってきているのが分かった。ただ、来たときに使った隠し通路を通ったおかげで追いつかれることはなかった。

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