第30話
ついに迎えた料理対決、本番!
「レディースアーンドジェントルメーン! 本日は『最高VS至極』料理対決でーす!」
壇上には右手にマイクを握りしめた
なんだかテンションが高い。
見慣れたお忍び用ではなく、軍服っぽいかっこいい服装の上から青いマントを羽織って、頭の上にはティアラを付けている。たぶん、これが人前に出る時の正装なんだろう。マイクはピカピカしているから、あれが灯さんの専用装備なのかも。
「司会進行ならびに審査員長は
灯さんの手を振る先に、透明な水晶玉がぷかぷかと浮かんでいる。クライデ大陸でのドローン的なものかな。あれを通してタローちゃんことアスタロト……現ミカドもこの料理対決に興味津々かあ。
「あのボンクラは来ないんじゃな」
「確かに。現ミカドにも食べてもらいたかったぜ」
クライデ大陸各地で見つけた美味しいものを集めて、トンポートで作られているしょうゆ味をベースにしたスープで煮込む。おれたちは日本風に言えば『寄せ鍋』を作ろうとしている。みんなとの縁を寄せ集めた鍋だぜ。
〆はおじやだ。
いろんな具材から出たダシを吸い込んだコメは美味しくないはずがない。このコメはもちろんクラヒカリ。ぐつぐつ煮込んでから、コケムストリっていう、クライデ大陸に住むニワトリ――全身が苔むしているからコケムストリ。ヒヨコの頃から、首の後ろにちんまい苔が生えていて、成長とともに大きくなっていく。その苔と共生しているんだって。すごいぜ――のタマゴでとじる。
「わたくしとともに料理の審査を担当する、審査員の三人を紹介しまーす! この三人はクライデ大陸の住民からランダムに決めさせていただいたわ!」
えいっ、と灯さんがマイクを突き上げる。すると『審査員席』と筆文字で書かれたスタンド看板の隣にテーブルとイスが出現した。イスにはそれぞれ人が座らされている。
「な、ナンダ!?」
「アレェ……?」
「えっ、あっ、あれ? ここどこ?」
三人とも困惑していた。うち一人は、イルマちゃんだ。テレスギルド本部の受付嬢。
「一人目! ゼノンにお住まいのキートンさん!」
「ナ!? コンニチハ?」
「普段、お仕事は何をなされているのかしら?」
「ええ、ああ、ら、らららら、灯サマぁ!?」
ランダムって、今まさに無作為に召喚されたってことか?
キートンさん、めちゃくちゃ混乱してて可哀想。
「二人目!」
答えてないのに次に進んだ。いいのかそれで……。
「テレスのギルド本部で受付嬢をなされているイルマさん!」
「はい。イルマと申しますです」
キートンさんの後だからか、ちょっとだけ落ち着く時間があったぶん状況が飲み込めてそう。よかった。取り乱すイルマちゃんはいなかったんだ。最初の『アレェ……?』の顔可愛かったな。
「好きな食べ物を教えてくださいまし」
「ガレノスの魚を、トマトと煮込んだものが好きです」
そうそう、トマトはあるんだよなこっちには。灯さんがクライデ大陸にいらっしゃってから『その赤い野菜はトマトと言うのだわ』と断定したから、トマトはトマトとして流通している。
「タローちゃん、今度ガレノスに行きましょう! あなたも働いてばかりではなくて、たまには休んでバカンスもいいと思うのよね!」
目を輝かせている灯さん。おれとじいちゃんはその魚のトマト煮込み、食べたぜ。脂っこい魚にトマトのさっぱりとした酸味が合うんだよな。
「はい。ぜひお越しください」
「おなかがすいてきたわ……よし! 料理対決開始といきましょうか!」
「灯さま! ボクの紹介はぁ!?」
勝手に進めようとする灯さんに、三人目の審査員からツッコミが入った。突如召喚されて紹介なしは、ほら、ね?
「どちらさまで?」
「ボクは! ピタゴラの『造幣局』で! 働いちょります!」
クライデ大陸で流通している紙幣は、すべてそのピタゴラって都市の『造幣局』で製造されている。少年はそこの工員ってことね。
「と、彼ら審査員が一人一票、わたくしの一票が二票ぶんになるわ!」
少年はまだしゃべりたそうだけど、腹ペコの灯さんはさっさと料理対決を始めたいらしい。これから美味しい鍋を食わせてやるから、食べてからPR活動をしてくれよな!
「ところで、早苗の姿が見当たらないんじゃが」
おれとじいちゃんは青コーナーにいる。
「ばあちゃんが敵前逃亡は、……ないよね?」
あんだけ自信満々だったし。
「ないじゃろ」
ないよね。
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