第5話


「ワシ、殺されとるんじゃが!?」


 テレスのギルド本部に着いたおれたちは衝撃の事実に直面した。

 じいちゃんは生きとるが!?


「あの、お静かにお願いしますね」


 メイド服(アキバにいそうなメイド服じゃなくてクラシカルな、黒いワンピースに白いエプロンタイプの)の受付嬢が、自分の唇に人差し指をあてる。さっきのじいちゃんの叫びで周りがざわついていて、おれたちは意図せず目立っちゃっていた。


 混乱している時こそ一旦深呼吸。スーハー。冷静に状況を整理しようぜ。ギルドの受付からはちょい離れて、でかい木を切り倒して作ったっぽい椅子に腰かける。じいちゃんも立ったままじゃつらいだろうから。


「じいちゃんは生きてるよ」

「そうじゃけど……」


 二年前にじいちゃんは時空転移装置の『異世貝』を作って、その時に実験失敗してばあちゃんだけこっちのクライデ大陸に飛ばされる。

 去年からおれはじいちゃん家に住むようになって、洞窟にいるドラゴンの動画でバズった。

 ってのが、おれたちが転移する前の世界、現代日本での話。


 一方のクライデ大陸では、去年に〝修練の繭〟から現ミカド・アスタロトの長男のミライがした。ギルドの受付で見せてもらった記録用紙――ギルドには、クライデ大陸で起こった出来事を歴史書に残しておく仕事もあるらしい――の日付から、ドラゴンの動画がバズったその後っぽい。そんで、ミライは他の〝修練の繭〟を破壊する。


 このせいで、現ミカドの親戚だったじいちゃんの父親の地位が失墜。じいちゃんの、っていうか、アザゼルの実家を売り飛ばさないといけないぐらいやばいことになって、一族は大陸に散り散りになっているっぽい。酷い話だぜ。


 繭を壊したせいで、ミカドは激怒。ミライを王宮のあるテレスから東のネルザってところに追放する。ってことがあったらしい。


「その、おれはミカドってのも〝修練の繭〟ってのもどんなシステムなのか知らない。クライデ大陸の文化について、じいちゃん教えてプリーズ」


 さらっとは語られたけど、おれは異世界ピーポーだから前提の知識がないんだわ。


「ミカドは、クライデ大陸を統治する王じゃよ」

「じいちゃん王族だったの!?」

「元、じゃけど」


 お家を取り潰されているから、になるのか。でもなあ。じいちゃんは一切悪くないから、納得いかないぜ。


「ワシが繭に入る前は、ワシの伯父殿がミカドじゃったが……今はボンクラのアスタロトがミカドらしい」


 じいちゃんはギルド本部に掲げてある、王冠を被ったイケメンの肖像画を指差した。じいちゃんもかっこいいんだけども、またなんか違う系統のイケメンって感じ。クソモテそう。


「繭は、ミカドの一族の長男が、十二歳の春に入れられることになる。異世界に旅立って、そっちで修行してこいということじゃな」

「その、ミライってやつは、じいちゃんより先にその繭から出てきたんだな」

「そうなる」


 なんだよ。じいちゃんはすげーのに。じいちゃんよりすげーのか、そのミライってやつはよ。


「ムカつくな」


 記録用紙にはミライの顔も載せられていた。現ミカドの長男、というだけあって、顔を構成している要素は肖像画の男に似ている。


「繭の中で成長するんじゃなくて、その魂だけが異世界に飛ぶって感じなのな。このミライ、子供だし」


 似ているんだけども、なんだか若い。じいちゃんもできていたら、こんなご老体ではなくて繭に入った当時の姿でここにいたんだろう。


「本来〝修練の繭〟からした場合は、すぐにミカドとなるんじゃがの……」


 なんでじいちゃんを潰したし。ムカつく野郎だぜ。


「ワシの家……」


 落ち込むじいちゃん。家がなくなった原因はわかったが、買い戻せるわけではなし。


 でもよ。そういう事情なら、じいちゃんが現ミカドになんとか言えばなんとかならねえもんか? じいちゃんの本当の家系図で考えると、親戚だよな?


「現ミカドに会いに行こうぜ!」

「会って、どうするんじゃ?」

「じいちゃんは悪くないんだし、その、特殊ルートで帰ってきましたって言ってみようよ。ここでがっかりしてても、何も始まらないぜ?」

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