【仮名】貴方が此処へ来ないように、貴方が私を見ないように

@Ayameee

第1話 帰り道

夕暮れ、少し不思議なその空気は落ち着くが、どこか悲しさも持ち合わせている。

「こんな時間に帰れたの、久し振りだなぁ…」

社会人2年目。最初こそ良かったのだが、社長が代わり、方針が大きく変わって残業も多くなってしまった。

駅のホーム、感傷に浸るだけでもなんだか虚しくなる。だが、そんな事気にしては行けないと自分に言い聞かせて電車に乗り込む。

車窓から赤色に揺れる太陽が見える。

疲れからかすぐに眠れそうだ、揺れが心地いい。


「__次は____駅、お出口は右側です。」

…予想通りすぐに眠ってしまっていたようだ。

ふと窓の外を見ると、さっきまでの赤色は消えて、既に暗闇が辺りに立ち込めていた。

スマホで時間を確認すると、既に22時29分。

恐らく次の駅に降りたとしても、電車が来る事は無いだろう。

車内にはもうほとんど誰も居ないようで、こんな時間には似付かない子供二人が居るだけである。人が少ないだけあってただただ静けさが漂っているようだった。

「駅、乗り過ごしちゃったかな…」

明日も仕事なのに…と絶望していると右側の扉が開く。取り敢えず何駅かを確認しないと…

電車を降りると先程の暗闇がより一層強くなる。

スマホのライトで怪しい足元を照らしながら進み、駅名標を確認する。が、

「見えない、か…」

時刻表も探してみたが無いようだ。改札も無ければホームもここだけ。しかもここには電波が通っていない。ただ、待合室はあるようで、中から光が漏れ出している。

中を確認するかどうか悩んでいると、

「どこだここ…」

そんな声が聞こえてくる。

真後ろから聞こえてきた声だったようで、後ろを振り返ると、さっきの子供2人の様だ。

「一応聞くんですけど、ここがどこか分かりますか…?」

「いや、わからないっすね。」

「ボクもかなぁ?」

そうだよなぁ…と思っていると

「取り敢えず中で待ちませんか?」

と小さい子のお兄さん?から提案される。

「そうしようよぉ!」

そう言うと2人は待合室の中へ入って行く、

私も後を追い掛けた。

待合室は意外と広いが、席自体は5つほどしか無かった。そして、別にクーラーが着いている訳でも無いのになんだか肌寒かった。

椅子に腰を降ろして一息ついていると、

「俺は花里と言います。貴方は?」

いきなり名前を聞かれて驚いた。

こういうのって偽名の方が良いんだろうか…と余計な事を考えてしまった私は、

「モチヅキと言います。」

と答えてしまった。

「ボクはヒビキ!よろしくねぇ」

咄嗟に小さい子も答える。

「では、モチヅキさん、確認なんですが貴方もここがどこかは分からないんですよね?」

「そうですね…携帯の電波も入らないみたいで…」

うーん、と悩む素振りを見せた後、彼は唐突にこう言った。

「俺はこの辺りを見てきます。数十分しても帰ってこない様なら探して下さい。」

「いや、でもそれって危ないんじゃ…」

私がそう言うと

「だからといってここには時刻表も無いみたいですし、取り敢えず軽く周りに何か無いのかっていう事を確認しておきたいんです。」

言っている事は最もなのかもしれないが、やはり少し危ない気がする。

「それとも、代わりに貴方が行きますか?」

そう聞かれてウグッと変な声を出してしまった。

「携帯はありますよね、30分して戻らなかったら探しに来て下さい。」

そういって彼は言ってしまう。

私と小さい子、ヒビキだけが残った。

「えっと…あの人はお兄ちゃん?」

「いや、全然知らないよぉ!今日初めて会った人!」

絶対に兄弟だと思っていた自分が恥ずかしい、しかし、それならそれでこんな小さい子が1人で夜中に居るのは不思議だ。

「今は何歳なの?」

「24歳だよぉ!」

は?え?え??

「えっと………本当は?」

「24歳だよぉ?」

濁りのない艶やかな目でそう語り掛けてくる。

うん、そういうお年頃なんだろう。きっと。

ーーーーーーーーーー35分後ーーーーーーーーーー

未だに彼は帰って来ない。そろそろ危ない気がする。

「…ちょっと探しに行ってこようかなぁ?」

ヒビキ君がそんな事を言う。

「いやいや、危ないよ。」

「でも花里君が危ないんじゃないかなぁ?それにボクは24歳だし、ボクは大丈夫なんだよぉ?」

「いや、私が行くよ。それに頼まれたのは私だしね。」

そうして私は立ち上がる。

「行ってくるね。ここから離れちゃ駄目だよ。」

駅の周りを軽く回っていると駅の裏に森がある事に気付いた。もしかしたら、ここに入ったのかもしれない…

「行くか…」

そうして私は1歩踏みだす。そして、その瞬間背筋に冷たいものが走り、後ろに何かが居る事に気付いた。そして、何か、は私が1歩歩く度に着いてきているようだった。状況も状況だったので、ひたすら私は逃げたくて、思い切り走った。

そして____




ーーーーーーーーーー2日後ーーーーーーーーーー

完璧に迷った。もうずっと何もたべてない

この森をなめてた。大きすぎる。

…光が見える…!

私は助けを求める為、必死に走った。が…

目の前に見えたのはただの洞窟だった。

じゃあ今の光は…?と思っていると、

目の前に蝶の群れがひらりと舞った。

どうやら、この蝶達が月の光を受けて紫色に光っているようだ…

私の喉がゴクンと音を鳴らす。

流石にまずいのでは?と思いつつも、耐えきれず、遂に口にしてしまった。

一匹…二匹…五匹……六匹…………

どんどん口にしているとある程度落ち着いて来たのだが…

「んぅ…!」

途端に胸が苦しくなり、その場に倒れ込む。

段々と視界が狭くなってくる。

どうやら毒だったみたいだ。冷静に考えると、紫色の蝶なんて怪しいに決まっているけど…

何も考えられなくなる。頭がしろくなっていく。

どうしよう。だれかたすけて






























「__次は____駅、お出口は右側です。」

…予想通りすぐ眠ってしまっていたようだ。

ふと窓の外を見ると、さっきまでの赤色は消えて、既に暗闇が辺りに立ち込めていた。

それにしても酷い夢を見た。やっぱり、精神的に来ているんだろうか。

スマホで時間を確認すると、既に22時29分。

恐らく次の駅に降りたとしても、電車が来る事は無いだろう。

「明日は遅刻かなぁ…」


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