case.1 西園寺玲 後編

「佐藤翔!私と寝てくれ!!」


「はい?」

俺は彼女の言っていることが理解できず、

思わず間抜けな声を出してしまった。


「いいのか!?ありがとう!」

「ちょっと待て。今のは返事ではない。

 どうしてそんなことになった?」


なんで彼女が別れる話が

俺と寝る話になるんだ?


「駄目なのか?」

「それ以前の問題だ。

 お前が俺と寝る理由はないはずだ。」

「理由ならある!」

胸を張り自身満々に宣言する。


「私には彼氏と別れる理由が必要だ。

 なら、君と付き合いたいから

 別れると言えばいい。」

「別に俺じゃなくてもいいだろ。それ…

 寝る必要もないしな。」

自分が俺を別れる理由に使いたいだけか?

真面目そうに思っていたが

なかなかクズかもしれない。


「私が頼めるのは君しかいないんだ。

 寝るのは証拠を作りたいのと

 君へのお礼がしたいからだ。」


言っていることはイカれているが

彼女なりに誠意を見せたいんだろう。


「別に俺のことをだしに使うのは構わない。

 どうせ、俺の評価なんて変わらないしな。」

「佐藤翔!」

嬉しそうな顔で俺の方を見てくる西園寺。

どうせ、また優しいと勘違いしてるのだろう。

早く終わらせたいだけだ。


「だけど、

 報酬とか言って身を売るようなのはやめろ!

 俺はそんなんで関係は結びたくない。」

それに俺は同じ学校の人間とは

関係は持ってこなかった。

問題が起きたとき面倒だからだ。


「…っ!

 でも、何かしらお礼をしなければ

 君に申し訳が立たない!」

「別にそんなものいらない。

 どうせ、

 もう俺とあんたが関わることはない。

 だから、気にしなくていい。」

「そんなこと…」

俺が断っても食い下がってくる西園寺。


別にこれ以上噂が増えても関係ない。

生徒会長であるこいつにすら、

クズ扱いされているんだ。

大差ないだろう。


「あんただって初めて寝るのが

 俺なんて嫌だろ?

 はじめては大切な人にとっておけ。」

これでとどめだ。

堅物そうなこいつならこう言えば断るだろう。


「…う」


「なんだ?聞こえないぞ」


「違う!

 嫌なんかじゃない。

 君だからいいんだ。

 君じゃなきゃ嫌なんだ!!」


「お、おう」


「だから、お願いだ!

 佐藤翔、私を抱いてくれ!」


熱烈な告白に思わず、たじろく。

一体何が彼女を動かすのだろうか?


「分かった…

 なら、俺の家に行くぞ。ついてこい」

「ありがとう!佐藤翔」


根負けした俺は

彼女を家に連れていくのであった。



―――――――――――――――


「春巻きがあるが食べるか?」

「もらってもいいのか?」

「さすがに自分だけ食べてお客様に

 何も出さないのは

 俺のプライドが許さないからな」

「ふふ、君は優しいのだな。」

「似合わないのは俺が一番分かってる。」

「違う。

 笑ったのは君をまた知れて嬉しいからだ。」

はぁ…

上機嫌に笑う西園寺を見ながらため息をつく。


どうしてこんなことになったのだろうか?

俺は同じ学校の人間と関係を持たない

という自戒を破ってまで何をしているのだろうか?


「なあ、佐藤翔。

 この春巻きお前が作ったのか?」

「ああ、まずかったら残してもいいぞ。」

「逆だ。毎日食べたいくらい美味しいぞ。

 佐藤翔は料理も得意なのだな。

 また一つ君を知れて嬉しい。」

西園寺は暢気に俺の作った春巻きを

美味しそうに食べている。


この後のこと、こいつ分かっているのか?

もしかして、

ベットで眠るだけとでも思っているのか。


「私は料理ができないから羨ましいよ。」

「才色兼備の生徒会長様にも

 できないことはあるんだな。」

「そうさ、私だって君と同じで 

 見た目だけで判断されてるのだけさ…」

「ふーん」

持っているからこその悩みか…

贅沢に見えるが本人とっては

重要な問題なのだろう。


「慰めてくれないのかい?」 

「あんたを慰めてどうするんだよ。」

「ふふ、そうやって

 私に媚びないとこも好きだ。」

「彼氏持ちが男を口説くなよ…」

「そうだね…

 早く自由になりたいものだ。」

どこか寂しそうな目で遠くを見ている西園寺。

俺はそんな彼女を見て見ぬふりをした。





「お風呂ありがとう。気持ちよかった」

「それはよかったな。」

「この枕、ふかふかだな」

風呂で温まり顔を上気させ俺の元○フレが

置いていった服を着ている西園寺は

ベットの上で横になった。

ちなみに俺は先にシャワーを浴びた。


「子供みたいにはしゃぐなよ。」

「こんなことできる機会なかったからな。」

枕を抱きしめたり

顔を押し付けたり意外と自由なやつだ。


「君の匂いは落ち着くな」

「あー、他の子にもよく言われるわ。」

「これから私と寝るのに

 デリカシーのないやつだな。」

「めんどくさい彼女みたいなのはやめろ。

 俺とあんたは今日だけの関係だ。」

こいつと関係を続けるつもりはない。

今日一緒にいて改めて思った。

西園寺は俺と関係を

もっていい人間ではないからだ



「…よ。」

「なんか言ったか?」

「始めようと言ったんだ。」


バサリ

彼女は脱ぎ去り部屋の電気を消し去る。


「さあ、行こうか」

彼女は俺を引っ張り

そのままベッドの方に押し倒した。


「んちゅ…んん…」

彼女はとても情熱的な口づけをする。

その表情は色っぽく、

それと同時に肉食動物のようにも見えた。


「ちゅ…ぁん…」

俺の舌をついばむように貪る。

彼女に口の中を蹂躙されていく。

だが、それがとても心地がいい。


「プハッ、佐藤翔、気持ちいいかい?

 私は君を感じられてとても気持ちいいよ。」


「ああ。気持ちよかった。

 あんたはこういうことは

 疎いと思ってたんだけどな。」


「彼とは付き合うときにキスしただけだ。」


初体験もなしでこれか?

天性の淫魔の才能もあるのかもな。彼女は


「ねえ、もし君を気持ちよくできたら

 私を○フレにしてくれないか?

 私なら、君のすべてを受け入れるし、

 君の望むことを何でもするよ。」


「それは…」


流石に断りたい。


「別に彼女にしてほしいわけではない。

 お互いの欲求を満たす関係。

 それだけでいいじゃないか?」


だけど、彼女の言葉が蜘蛛の糸のように

俺に絡みついていく。


「彼氏と別れるから人肌寂しくなるんだ。

 君の肌で温めてくれないか。」

そう言いながら彼女は下着を脱ぎ去り

俺の頭を抱きしめる。

彼女の体温と俺の体温が混ざり

俺と彼女が一つの存在になる。


「お願い。翔…」

彼女の吐息が俺の耳元にかかる。


ガバッ


「きゃっ!翔?」

俺の理性に限界がきた。



「お前が煽るから悪いんだからな。」



その言葉を境に俺たちはベッドの上で

お互いの体を貪った。



「…っつ。西園寺!!」

「翔…はぁん!翔…んん」

まるで愛し合う恋人のように抱き合う俺たち。

今、俺たちの間には気持ちよくなる以外の

考えなど存在しない無法地帯。


「翔…ちゅ…好きだ…愛してる…んん」

西園寺は愛の言葉を言いながら

俺に尽くしてくる。

その様相はとても淫らで興奮する。


彼女のやっていることは浮気であり、

世間的に見れば間違っている。

だが、今の彼女を見て

俺は全てが間違っているとは思えない。


「西園寺!!」

「いい!…ああん!!

 もっとしてくれ。…翔!」

彼女は奉仕してくる。

俺を昂らせる言葉を並べてくる。

どんどん行為がヒートアップしていく。


確かに浮気は悪いことかもしれない。

恋人がいるのに他の男と寝ているんだ。

婚姻もしていない人間が

二人以上の異性と関係を持ってはいけない

という法律なんてものは存在しない。



「好きだ!愛してる…」

彼女の全てを正当化するわけではない。

あくまで浮気は悪いことだ。

された側でもしていい理由にはならない。


だけど、今だけは


「翔!翔ぅぅぅぅ!!!!!!」ビクッ

今だけは彼女にただなにも考えずに


体を俺に委ねてほしい。


気持ちよくなって欲しい



それが浮気相手である俺が

唯一彼女のためにできることだから…





そして、俺たちは一晩中

お互いの体を貪りあったのだった。




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