第3話

 土曜日の朝、わたしは午前九時すぎと遅めに起きました。出張での仕事がすべて終わってほっとしました。それで、今日から数日間はめったに来ることができないと思う日本の都市を満喫したいです。ということで、この日は東京都内を回ることにしました。わたしはホテルの部屋でパンを食べた後、千葉駅から総武線の青と白の線のある電車に乗って東京駅まで行ってそこで乗り換えて上野駅で降りました。東京国立博物館に入って古くからの日本の工芸品を見て回りました。わたしが展示品の想像以上の美しさと精巧さに見とれているうちに出る頃には午後三時を回ってしまいました。最後に立ち寄った館内売店に「見返り美人ミク・ポストカード」というものがあったので、お姉ちゃんとうちの同僚ア・コワーカーのジャネットさんに書いて出すために買いました。わたしはこれを見たとき、何かリアルタイムな日本を感じて面白かったです。


 この後なんとなくアメ横という人が多く集まって混み合う商店街マーケット・ストリートをぶらぶらと歩きました。そこで海から遠く離れたところに住んでいて魚介類といえばサケやマスしか思い浮かばないわたしがいままで見たこともないような海産物を見たりしました。御徒町オカチマチ駅から山手線にほんの少しの距離ですが乗って秋葉原で降りました。駅の横に大きな漫画専門店コミックショップがあったので少しのぞいてみました。七階建てのビル全体に漫画、雑誌、アニメや声優コンサートの入ったビデオソフト、アニメ関連の主題歌、効果音が収録されたサウンドトラック、オーディオドラマといったものが収録されたCD、キャラクターグッズと言ったものが詰め込まれていました。でも、わたしは漢字が読めないので漫画や雑誌を買っても絵を見て内容を想像するだけしかできなくて終わりなのが残念でした。漫画の本場だけあって一冊の値段はうちの国で売られている英訳版の半分くらいでした。もしわたしが日本語がある程度読めたらきっと天国なのかなぁ、と思いました。でも、さんざん苦労して一回覚えても、わたしが住んでいる街は日本人が少なくて言葉を習ったり話したりする機会を見つけるのが大変で忘れてしまいそうです。街から百キロちょっと離れて山沿いの国際的な観光地に行くとそれなりの数の日本人がいるそうなのでそこのホテル内や土産物店ギフトショップでわざと日本語で話しかけてみるとかしないといけないのかもしれません。妄想めいた余談はそのくらいにして、話を戻しましょうね。わたしはそこでとあるアニメのサウンドトラックCDを数枚買った後、駅の近くから離れて人で混み合う裏通りの一角にあるとある中古パソコンを扱っている店に立ち寄りました。表通りにあるきれいに整備され一週間くらいの動作保証がついたものが並んでいる店ではなく、売っているもののほとんどは動作の保証はなくで自分で店頭にある電源ケーブルにつないで状態の診断や確認する必要のある、いわゆる「ジャンクショップ」です。そこでわたし自身が使うノートパソコン二台をを四万円くらいで買いました。わたしが探していたタッチパネルでもペンでも操作できる機種です。もちろん、一部のものを除いてハードディスクやSSDといったストレージは機密情報保護のために抜かれていることは知っていたので別の店で新品を探しました。後のことを考えて思い切って、一テラバイトのものにしようと思いました。調べてみたらこの機種は第八世代Core i7を積んでいてNVMe接続のM.2 SSDが使えることがわかったので店員に念のため機種名を告げて買うことにしました。わたしは店員に、

一テラバイトのNVMe接続ドゥ・ユー・ハヴ・ア・テラバイト・のM・2 SSDはありますかエヌヴイエムイー・ストレージズ?」

とレジカウンターの前に掲示されている価格表に指をさしながらたずねて出してもらいました。目の前の店員はなにか言った後、後ろに下がって、別の店員がディスクの箱を持って出てきました。

これでしょうかイズ・イット・ライト・フォーユー?」

と英語で返ってきました。きっと最初の店員はわたしの話っていることが分からなかったので代わってもらったのでしょう。それでわたしは、

二つお願いしますトゥー・オブ・イット・プリーズ

それとこのSSDはシンクパッドアンド・イズ・ディス・ディスク・サポーテッド・X三八〇ヨガに組み込んで使えますかフォー・シンクパッド・エックス・スリーエイティー・ヨガ?」

と、店員に伝えました。彼は、

もちろんさシュアー

と言ってくれました。わたしはクレジットカードを出して精算しました。二枚で一万六千円くらいだったので思ったより安かったです。うちの国で通販で買うと一枚百ドルを下ることはありません。そしてわたしは別の店で同僚たちコワーカーズへのお土産に二五六ギガバイトのマイクロSDカードを何枚か買いました。秋葉原ここだと一枚二千五百円くらいですがうちの国では四十ドルくらいで売られています。そして、アニメや漫画に関するものなら何でも扱う中古ショップを何軒か回ってわたしが大好きなゲーム、アニメ作品、漫画家やアニメーターの画集やそれに登場するキャラクターの描かれているアクリルスタンドやキーホルダー、トートバッグと言ったものを買いました。好きなゲームと言っても数タイトルあるので買った画集の冊数は十五冊くらいになりました。


 秋葉原でいろいろな買い物を済ませたわたしはホテルに戻って先程の展示会でとある企業からもらったノベルティのドライバーを使い、買ってきたノートパソコンの裏ぶたを開けてSSDを取り付けました。ふたを戻して電源ボタンを押してBIOSを開くとちゃんと認識していたので用意していたUSBメモリーを差してOSをインストールしました。一台はウィンドウズ一一、そしてもう一台はウブントゥ二二・〇四LTSを。その間に夕食とシャワーを済ませました。わたしは一通り動くことを確認したあと寝ました。


 日曜日の朝、わたしは朝七時ごろにホテルを出て、これも前からうわさに聞いていた渋谷のスクランブル交差点を見に行きました。実際に信号が変わるたびにものすごい数の人が通過するのを駅の連絡通路から見下ろして圧倒されて、更に実際に渡ってみました。普段ここを通勤、通学、レジャーで通りかかっている地元の人達は一体どんな事を考え思っているのでしょうか……千人千通りあるのでしょうか?


 その後新宿に行って東京都庁の展望台に登りました。地平線の果てをはるかに越えてビルや家がどこまでも続く大都会というものを感じました。私の街の人口は最近になって増えて国の中で五本の指に入る大都市の一角を占めるようになったと言っても百三十万人そこそこで、東京を含む日本の首都圏の人口と比べると三十倍もの差があるので無限に広がるように見えるのもその通りかなぁと思えてきます。


 そして池袋に移動しました。駅から東に向かって十分くらい歩いたところにある、通称「乙女ロード」と呼ばれている一角にある古本店に向かいました。そこで昨日ジャネットさんから来たメールで頼まれた同人誌のリストを見ながら二十冊ほど買いました。彼女の趣味の幅は広くて男女間のラブラブな話だけでなく男の子同士とか女の子同士の友情物でもなんでもハマって読んでいます。そしてこれも彼女から存在を聞いてなんとか朝に予約できて入れた近くのメイドカフェに行って軽くお茶を楽しみました。この落ち着ける雰囲気とかわいい制服、こんなふうな感じが良かったです。私は紅茶を頼んでしばらくしてから店員がやってきました。ティーポットにお湯を注ぐ彼女のしぐさを見て、思わずきゅんとなってしまいました。この黒いワンピースと白いエプロンの制服、一度ジャネットさんに着せてみたいですね……彼女だったら絶対似合うって。いつか彼女が実際にここに来たらどんな顔するかなぁ。


 わたしは池袋駅に戻って地下鉄に乗って横浜に向かいました。終点の元町・中華街駅で降りて食べ歩きをしました。元町商店街にいくつかあったパン店で菓子パンペストリーを買って歩道にあるベンチで食べたり、中華街では混み合う人の間を縫いながら、肉まんポーク・バン湯気がもうもうとたっているシュウマイスチームド・ミート・アンド・オニオン・ダンプリングスあつあつの焼き小籠包グリルド・ジューシー・ダンプリングスタピオカティーバブル・ティーを買い集めて、近くにある山下公園の中のベンチに座って海をぼーっと見ながら食べました。地元に帰ったらもう感じることはなさそうな潮風を浴びて。海の方をよく見るとガンダムという有名なアニメに出てくる巨大ロボットが見えました。わたしのスマホで望遠を効かせてなんとか撮れたのでSNSに上げました。ここから貨物鉄道を改造したという七百メートルくらいある長い歩道橋を十分くらい歩いて赤レンガ倉庫群に着きました。途中、かつて私の国の港と定期便で直接つながっていた旅客船ターミナルを横に見ながら。景観維持のために看板がなくて外からの見た目では想像がしにくいですが、中はおしゃれなショッピングセンターになっていました。私の国の東の大都市に似たようなところがあるそうなのでいつかは行ってみたいです。そこは国内と言ってもかなり遠く空路で四時間と少し、陸路で車を運転してまる二日、列車とバスを乗り継いでまる三日かかります。市役所内にある土産物店でかつてこの地を走っていた路面電車を描いたポストカードを買った後、桜木町駅から電車に乗って次に停まる巨大ターミナル・横浜駅で乗り換え千葉のホテルに戻りました。帰り道の途中の武蔵小杉という駅から見えるたくさんの超高層マンションハイライズ・コンドは壮観でした。ここ、都心から離れた郊外なのに高さ百メートル以上のタワマンハイライズ・コンドが十棟以上まとまって建っているんですよ。ここもまるで近未来SF感がありました。わたしはホテルに着いてから、お姉ちゃん、友人、そして同僚ア・コワーカーのために今日の分のポストカードを書きました。

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