大嵐レイは挫けない。

白雪工房

機怪奇械

でんでんさん

 でんでんさんって知ってるか?

そう、怪談の。最近流行ってるよなあれ。

俺はそういうのを噂してるやつらを見て馬鹿らしいって思ってた。

単なる噂じゃんか。大体、怪談なんてのは肉 (*1)が主流だった頃の話だろ?

バグありきの五感から生じる気の所為と恐怖が生み出した幻覚だって。

この前までそう思ってた。ある意味それで安心してもいた。

やっぱり、職業柄エモ (*2)の方はいじっちゃいるけどそれでも脳は生だからさ。

だったんだけど、俺マジで見ちゃったんだ。

仕事終えて家に帰ろうってときに、見たんだよ。

なんか、視界の端にちらつくからしつこい広告だなってブロックしようと思ったんだよね。そしたら、そいつと目があった。

俺が見たときのそいつね、すごい点滅してた。

点滅して、パッと消えた。

マジで。笑わせようってんじゃないよ、それだったらもうちょっと上手くやるし。

あー、いや、俺だってそれは心配したよ。

でもウイルスとかそんなんじゃないっぽいってなって。

うん、だから目の方も取り替えようかなって思ったんだ。

たまにあるじゃない?ほらいわく付きで安く流れてきたジャンク品とかに。

え?あ、うん。露店(*3)のやつ。

少し前に取り替えたばっかだったから俺も悪いの掴まされちゃったかなって。

あの爺さんヤなやつだからさ、そういうこともあるって考えたんだけど。

それも違うらしいってなって。俺なんか怖くなっちゃってさ。

だから、息抜きにってお前に会いに来たんだよね。

あ、ひでぇ。そんな避けること無いじゃん。

貞子じゃないんだからそれで伝染うつるってこともないって。

大体俺まだ死んでないだろ?

怖くなっちゃっただけなんだってば。それにあれから見たなんてことも無かったし。

いくらエモいじってるって言っても日常生活に支障があるくらいにはやらないし。

うん、それでさ。お前と会えて結構安心したよ。

やっぱ持つべきは友達だよな。

それで折角だし、飲み行かない?

しばらく摂ってなかったし、俺も久し振りに飛んじゃいたいなって。

そう。気分転換。……ん、どうしたの?

…………後ろ?

……………………。

何もないじゃん!あんま驚かすなよ、今ナーバスなんだから!

じゃ、行こうぜ。


(先月末、工業区画から執拗な攻撃を受けたとされる義体が発見されました)

(破壊された義体に登録されたナンバーを照合したところ、……区の………さんであることが解りました)

(当地区では、半年ほど前から同様の事件が発生しており、警察はそれらの事件に関連性があるものと見て捜査を続けています)





*1 生の肉体。人間本来の姿。

*2 感情制御回路。感情が邪魔になる場合は抑制することがある。

*3 交換パーツ、カスタマイズパーツを売る出店、怪しい品が多い。旧時代で言う露店とは少し違う。(路上販売が整備されたため)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る