第37話

「んじゃ早速潜っていこうか! ねえケイくんは箱根来たことある?」


 それはダンジョンにっていうこと? それとも観光も含めるのか?

 初っ端から外せない2択を迫られる。

 と、とりあえず無難に答えておくか。


「箱根ダンジョンは初めてですね。観光では何回か箱根に来てたんですけどダンジョンがあることすら知りませんでした」

「ふ~ん。そ~なんだ~」


 無難すぎたか……? 


 らむねは曖昧な返事を残してずんずんと前を歩いて行ってしまう。


 なんでダンジョン攻略の前に会話の攻略してんだ……? って言うか今までの人たちがそこらへんに緩かっただけ?

 無口で仕事人間の空澄さんあすみに天然アホで会話に思考が要らないパンドラ、これまた一人で豪快に突き進んでいってしまう黒崎さん。まともにエンタメを考えてなさそうな面子だったわ。

 それに俺も素人でしょ……これ頭フル回転させないと今後の評価が勝手に下がってく系クエストかもしれない。


「ら、らむね。箱根ダンジョンの特徴ってなんだ?」

「ん~? このダンジョンは今熱いよ~。なんたって温泉が出てるからモンスターが活性化してるんだよね~」

「温泉って魔力泉か?」

「そう! 魔力回復とか美肌効果とかとか効能によって5種類くらいの温泉がダンジョン内あるの!」


 前を歩いていたらむねがこちらを振り向き前かがみになる。

 強調された制服の上からでもその規模感がわかるほどの双丘に一瞬で目線が奪われたが何とか取り戻しておいた。


「一緒に入る?」

「そういうのはカメラに向かって言ってください。俺が燃えちゃうから」

「追い炊きになるね?」

「人の不名誉で風呂沸かさないでくださいよ。社会的に殺さんといてください」

「何敬語になってんの~? 嘘に決まってるじゃ~ん」


 ニヤニヤとこちらを覗いてくるらむねを無視して先へと歩いていく。


「何~? 照れちゃった? 顔熱くなってな~い?」

「どちらかと言えば背筋と肝が冷えましたよ」

「なんだよつれないな~。って言うかまだ敬語なの?」


 この人、本気で俺を炎上させようとしてないか?

 さっきもなんとか平常心で対応できたけど、あれ一つでも選択し間違えたら社会的に爆発してた……。


「リスナー頼む。褒めてくれ」


《褒めては草》

《がんばったがんばったwww》

《コンボやばかったなぁw》

《らむね必殺カルメ焼きよく耐えたわ》


「あれ名前あるの……?」


 同じようなムーブやりまくってんのあの人。よく逆に炎上しないな。あの人の人柄なんだろうな。こっちにしてみれば歩く爆弾と化すわけだけど。


《まあ本人がわざとやってるって分かってからは炎上しなくなったけど》

《一時ヤバいくらいコラボで炎上してたからな》

《あの自由怪人はもはや災害》

《Sランクまともな奴はいないのか》

《そもそもヤバい奴しかSランクになれない定期》


「俺はヤバくないだろ……って今かよ! もうちょっと早めに来て欲しかったかもな!」


 曲がり角から飛び出してきたフレイムオークに思わず文句が漏れる。

 見た目はいつものオークの全身が燃えているような見た目だが、漏れ出ている魔力は通常種の何倍もあった。


「出てきちゃったか~。そっかもう中層だもんね~」


 フレイムオークの口から吐き出された炎を右に転がってよけデュランダルを構える。

 らむねの方へ目を向けると彼女もすでに可愛いストラップのついたステッキを構えていた。


「どっちがやる~?」

「お先どうぞ!」

「おっけ~後で君の強さも見せてね!」


 カメラに向かってきっちりウインクを決めるとオークに向かって飛び出していく。


「まずは消火しよっか~! 『詠唱スペル:明鏡水波』!」


 らむねのステッキから幾重にも重なった波紋が広がっていく。

 波紋はダンジョンの壁に当たると跳ね返り威力を増しながらフレイムオークに直撃した。


 炎が完全に消え去りただのオークと化したフレイムオークに向かって続けてスキルを放っていく。


「これで終わり! 『二重詠唱デュアル・スペル:煌めく氷結の豪雨レイン・ブリザード』!!」


 らむねの上空に大小さまざまな大きさの氷のつぶてが生成されていく。

 その数は星々よりも多く、その煌めきは太陽ようだった。


 らむねが優雅にステッキを振ると同時に暴力的なまでの数のつぶてがフレイムオークに向かって射出された。


 グロテスクなまでに全身を穴だらけにされたフレイムオークは断末魔を上げることなく崩れていった。


 オークの消滅を確認するとエッヘンと胸を張ったらむねの目がこちらに向けられる。


「どうだった? わたしもかっこよく戦えるんだよ?」

「実際すごかったです。フレイムオークがかわいそうに思えるくらいだった」

「でしょでしょ~! もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」

「えー」

「そこは褒めてよ!!」


 頬を膨らませてぷりぷり怒りながら先へ行ってしまった。

 んーこれでよかったんかわからん!


 何とからむねをなだめているうちに中層を下りつくしてしまった。


「ここから下層だね」

「変異神域の気配は……あるけど曖昧だな……?」


 漂う濃い魔力の気配をたどるように慎重に歩いていく。

 どこだ? 歩くごとに近くなったり遠くなったり……。


「ケイくん! 周り見て!!」


 らむねの叫び声に思考していた俺の脳が現実に引き戻される。

 目の前に広がる光景に息をのむ。


「なんだこれ……」


 ここはもはやダンジョンではなく。辺りでは波の音が心地よいBGMを奏でている。

 しかし、目の前に鎮座している物体が俺らの心の安らぎを全て壊していた。


「なんで巨大ロボがあるんだ……?」


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