第30話

 ケルベロスの足元から、ほとんど真上を見上げるように弓を掲げる。

 弓の有効射程ではない超至近距離。

 通常なら剣で突き刺す距離で弦を引き絞っていく。


「『剛射:月墜とし』」


 放たれた矢は一瞬のうちに3つの内の中央の頭を貫き、天井に突き刺さる。

 痛みに悶えながらも放たれた前足を後転でかわし距離を取る。

 中央の頭の頂点と顎から血液らしき黒い液体を垂れ流しているが、ケルベロス自体の致命傷にはなっていない。


 すぐさま残りの2つの頭から血を這うように黒い炎が放たれる。

 かがんだ体勢からすぐさま地面を蹴り横に転がって回避する。

 振り返ると黒い炎が這った地面はぐずぐずに腐食し煙を上げていた。


 同じく避けていた黒崎さんに駆け寄る。


「また3つ同時とかかな?」

「さっきの範囲攻撃でやれないか?」

「それでもいいんですけど……面白くないでしょ」


 倒せない相手ではないことはわかった。ならばあとは配信で映える倒し方をしてみようか。配信者として初めて配信というものを意識して戦ってみようか。


 つがえる矢はただの矢。

 黒崎さんのミニガンと合わせるなら加護付きの矢は全体攻撃になってしまい威力が高すぎる。


「黒崎さん、左狙えますか」

「左だけでいいんだな。任せろ」


 黒崎さんのミニガンの銃口が左の頭を捕える。

 俺も右の頭に向かって矢を引き絞った。


「『黒煙:絶破』!!」

「『三連星射』!!」


 俺の三連射が右の頭の両目と眉間を射抜き。

 黒崎さんの銃弾の雨が左の頭に無慈悲に降りかかった。


「──!!」


 3つの頭を潰されたケルベロスは断末魔だけを残し崩れ去っていった。


 立っていた場所に宝箱が残される。

 今度こそ貴重なアイテム出てきてほしい。


「黒崎さん、宝箱いります?」

「いいよ。半分以上ケイが倒したものだからな」


 促されるまま宝箱を手に取る。

 ドクロと首輪が刻印された厳つめの蓋をそっと開いた。

 中に入っていたのは3つの頭の犬が刻印された指輪。


 効果は……『ダメージ3倍』か。単純だけど汎用性が高い。

 喚装でいろいろな武器を使う俺にとってはこう言った単純で汎用性が高い効果の方がありがたい。


 右手の薬指にはめると少しだけ力がみなぎる感じがした。


「どうだい効果は?」

「『ダメージ3倍』ですね。これ、このまま装備していきます。先に進みたいんですけど大丈夫ですか?」


 2人が頷くのを確認して俺たちはさらに奥へと進んでいく。

 ケルベロスの広場の手前までは青々としていた木々も徐々に色づき始め、広場から10分もたたないほどにはもはや森林とは呼べない枯れ木群が広がっていた。


「やっとアンデッドダンジョンぽくなってきたな」

「気にせず行きますか」


 相変わらず襲ってくるレイスを討伐しながら一本道を進んでいく。


「そういえば君のそのスキルはどういう理屈で発現したんだ?」

「理屈? 『喚装』は生まれた時から持ってたスキルですけど──」

「生まれた時から? あんなに強力なスキルが?」

「そうですよ。なので理屈と言われてもそんなものはないとしか言えないですね」


 正確には向こうの世界に転生した時には持っていたが正しい。

 エリーが言うには『喚装』は勇者が生まれながらにして持つスキルとしては微妙な部類に入るらしいんだけど人との縁に恵まれたおかげで魔王討伐の主戦力にまでなることができた。


 ただスキルの効果をどこまで開示するべきかだよな。俺とパーティを組んだ人ならだれでも『喚装』できることまで伝えるべきか……。


「まあ『喚装』は成長するスキルです。なので発現とはまた違いますけどここまで成長した理屈としては人の縁と試行回数ですかね」

「スキルって成長するのか!? いままでそんなスキル見たことないんだが」

「え? スキルはどれも成長して強力になっていくものでしょう?」


 火を放つだけのスキルだって使い続けていればより大きな炎を繰り出せるようになる。どんなスキルにも成長ってあると思うんだけどな。


「使い続けていれば威力が上がったり発動規模が大きくなったりするでしょう。それが成長じゃないんです?」

「それは下級スキルだけだろう。お前の『喚装』や私のスキルのような上位のスキルは基本的に変化しないはずなんだが……やはりケイは規格外なんだな……」


 ちょっと引いた眼で見ないでもらえるかな。せっかく仲良くなったのに引かれるとか心が傷つくぞ。


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