第27話

 翌日、俺とエリーは新たな情報が出てくるまで普段通りに配信することに決めた。


「はいどうもこんにちはー。今日は葛飾ダンジョンから配信してまーす」


 いつも通りのあいさつを済ませたところで俺たちは一気に下層まで下った。

 このダンジョンはクリア済みだから今回の配信はダンジョン踏破ではなく別のところに注目を置いてみた。


 それに今回は勝手についてきたコラボ相手もいるからね。

 葛飾レベルじゃ多分実力過多になる。


「へえ、コメントがこんなに……ケイも人気者になったな。感慨深いよ」

「何言ってるんですか。黒崎さんのおかげでもありますよ」


 コラボ相手というのはギルドマスター黒崎焔だ。

 昨日、ダンジョンから帰還しパンドラと別れた後、俺たちは黒崎さんに連れられてギルドへと戻った。


 黒崎さんは俺たちの会話を魔鏡を通じて聞いていたらしく、黒崎さん個人として協力を申し出てくれた。


 ──だってこのような大事件にデスクに座っているだけではもったいないだろ?


 そう主張する辺り彼女も生粋の探索者なのだろう。

 黒崎さんがダンジョンに潜っている間は煙がギルドの事務をこなすらしい。

 煙、強く生きろよ……。


「何か失礼なこと考えてるんじゃないか?」

「いえいえそんな……ねえ?」


 こ、これが歴戦の探索者の勘かな~?


 背中に鋭い視線を感じながら下層の深部へと続く坂を下っていく。

 こんな人だけど曲がりなりにもギルドマスターだ。相当な影響力を持つ人とコラボするなら配信も普段以上に盛り上がるものでないと示しがつかないな。

 黒崎さんにはギルドの仮眠室借りてる恩もあるしね。


「今日は黒崎さんと葛飾ダンジョンの元変異神域エリアの奥にできた隠しエリアに行こうと思います」


《こんちわー》

《焔様―!!!》

《過激派1時間前からおったで》

《隠し通路!?》

《葛飾になかったよな》

《神域の影響?》

《焔様とそこであーだこーだするつもりだろ!!》

《過激派理不尽おこw》

《ブロック推奨関わったら負け》

《隠し通路って宝箱とかが多いんだっけ》

《荒稼ぎ配信か》


 黒崎さんがいるおかげでいつもより多くコメントが流れている。

 たまにヤバい奴がいるけど管理モデレーターが何とかしてくれるから一旦無視。

 あ、管理モデレーターも煙の仕事か……ゴメン、頑張ってくれ。あとで飯奢るから。


「そう。以前空澄さんと神域を消滅させた後に出来たエリアらしいんだよね。Aランクの葛飾ダンジョンの下層で元変異神域って言う難易度が高くなる要素しかないエリアなんだけど今回俺だからってことで許可が出ました」

「変異神域を消滅した奴が不許可ならだれが調査できるって言うんだ。隠しエリアは宝の宝庫だっていうのに未調査はあまりにももったいないからな」


 黒崎さんの言う通り過去に発見された隠しエリアでは貴重なアイテムだったり希少なモンスターがポップすることが多い。

 そのため隠し通路で得られたアイテムは高値で取引されるのだ。高ランク帯探索者の装備として重宝されるアイテムも存在するらしく、モンスターさえ討伐できれば一獲千金のエリアらしい。


 黒崎さんはハンドガンを構えカメラに銃口を向ける。


「今回、私は援護するだけにする。ケイの戦闘を生で観察したいからな」

「わかりました。前衛は俺、後衛に黒崎さん、カメラとサポートでエリーこれで行くよ」


 2人が頷くのを確認して俺は変異神域だったエリアに足を踏み入れた。


「外観は……人工物っぽくなったな」


 葛飾ダンジョン自体の壁はただの石壁だったが、隠しエリアの壁にはところどころに古代ギリシャ遺跡のような円柱や壁画の跡がちらほらとあった。


「隠し通路に入りました。今のところエリア自体は魔力も何も変化がないかな。慎重に進んでいきます。というわけでまずはタイラントボアのお出ましか」


 現れた俺の身長以上の大きさのイノシシに剣先を向ける。

 エリーが下がったのを確認すると俺は地面を蹴ってタイラントボアの足元に潜り込んだ。

 地面を抉ってくる牙をかわし、足元に切りつける。


 タイラントボアが前に倒れこむ。

 タイラントボアの真上に飛び上がり首を一閃した。

 首を切られたタイラントボアは宝箱を残してぐずぐずに崩れていった。


「出るモンスターが違うわけじゃないんですね」

「もちろん隠し通路でしか出ないモンスターもいるが、基本的にはドロップするアイテムがグレードアップしてることが多いな」


 なるほど。モンスターの強さも下層の強さと変わりはないし今の俺なら最奥まで行けそうだな。


「宝箱は戻ってから開封しようか。先を急ごう」


 余裕そうだけど一応何か罠だったりギミックがあるかもしれないから早めに攻略していく方が安全だろうな。


 宝箱をアイテムボックスにしまい、俺たちはさらに奥へと進んでいった。


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