第25話

「がしゃどくろが……ステンノの妹?」


 ありえない。そもそもステンノ自身が言ったように女神の妹であればそいつも女神であるはず。人間界において消滅はあるものの死ぬことがないためその骨がアンデッド化することもない。まして、がしゃどくろが出現しているのはダンジョンだ。1体しか存在しえない女神のアンデッドが倒すたびにリスポーンするダンジョンのボスに据えられているわけがないのだ。


「──根拠は」

「貴様、がしゃどくろから何か奪っただろ。それが根拠だ」

「すまんしっかり説明してくれ」

「貴様が持っているそれががしゃどくろのコアだ。他の部位、身体部分は全てダンジョンボスとして適応した結果。ただの魔力塊だ」


 パンドラによると俺が持っている頭蓋骨、これが女神の亡骸らしく、この亡骸を守護する形でがしゃどくろが生まれたらしい。ギリシャの女神の守護を日本の妖怪が担っていることに疑問はあるが。


「魔王の我がモンスターと会話できることは知っておろう?」

「さすがにな」

「我、この世界でもモンスターと会話は出来てな、それこそ宝箱や隠し通路の情報を吐き出させてたんじゃけど」


 周囲を一瞥しこちらにずいと顔を近づけた。


「あのがしゃどくろ、数年前までは存在していなかったみたいなのだ」

「具体的な年数ってわかったりしますぅ?」

「モンスターから聞き出した情報だ。人間の時間感覚などわかるはずもなかろうて」

「それまでのボスは誰だったんだ?」

「何の変哲もないエンシェントドラゴンだったらしい。まあそれでだ。貴様はどうするつもりだ。身内が貴様たちが最も嫌悪するものになり果てたのは知っていたのだろう?」


 パンドラの視線は俺ではなく俺の真後ろを向いていた。

 振り返るとそこにはギリシャ彫刻のようなアルカイックな笑みを浮かべたステンノがたたずんでいる。

 何も言わずただ事実が知れ渡ったことを噛みしめているように見えた。


「最初から知っていたのか」

「──2人しかいない身内の最期を知らないはずがないでしょう?」

「がしゃどくろを討伐したから俺に近づいてきたのか」


 ステンノと遭遇したのも新宿ダンジョンだ。がしゃどくろの正体も俺の討伐もすべて織り込み済みで変異神域に現界したのだろう。


 ステンノはスッと笑みを消すと淡々と思惑を話し始めた。


「私が現界した目的は知っているでしょう? 妹を探している。それは変わらないわ。妹はね封印されたのよ。この世界で」

「封印? 女神が?」

「そうよ。この世界に縛り付けられ身体を分割され各地に封じ込められたの。そのかけらの一つがあなたの持っているドクロよ。封じられているかけらはあと3つ。そのうちの一つの持ち主は、ケイならわかるでしょう?」

「──ネメシスか」


 正確にはネメシスに奪われた蛇の彫刻だな。


「あれが妹の魔力の結晶。身体──存在そのものね」

「一つ疑問なんだがネメシスとお前の目的は違うんだよな?」

「そうよ。彼女の目的はわからないけど。私に協力しないのなら別の目的があるのでしょうね」

「お前の妹って言うのは神が回収に来るほどの存在だったのか?」


 ステンノの目線がスッと下がった。


「ある意味そうよ。私たちにとってはただ一緒に平穏に暮らしていた妹だったけど」

「封印された理由は?」


 大罪人かまたはその予防か。何かしら神々から危険視される要素があるからこそ下界に封印されているはずだ。


 神々の掟を破ったか。あるいはその兆候があったか。


「災害になったのよ」

「災害? 人間のか」


 ステンノは静かに首を横に振る。


「違うわ。神々の災害になったの。そこにいるだけで。その存在があるという事実だけで神々に害を与える。妹はそういう概念を得てしまった」


 ステンノの妹を助けたいという気持ちは本心だと思うけど災害となった妹の影響がこの世界にも表れる可能性を考えると情報が少ない今の時点ではこのまま協力することは難しいな。

 災害となる権能のみを封じたまま封印を解けば解決できるがそもそも対象が神でなくとも荒唐無稽な計画ではある。


 いかんせん情報がなさすぎるな。ステンノは妹の不利になるような情報は話さないだろうし。


「エリー、災害について何か天界で聞いたことはないか?」

「災害ね……そうねえ」


 しばらく顎に手を当てて考えていたが、


「ごめんなさい。そもそも天界での記憶がないわ」


 何事もなかったかのように平然とそう告げた。


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