第23話 

『筋斗煙』に乗ること数十分、空澄さんと来た時とは違い、直接ダンジョンの入り口に降り立った。


「ラーメン屋行かないのか」

「ラーメン屋ぁ? ああこの前は空澄さんと来たんでしたっけ。ラーメン屋は店主とあの人の趣味ですから強制ってわけでもないんですよねぇ」


 趣味でラーメン食ったんか……俺はたまにでいいかな


「それよりもあのバカ魔王はどこまで下ったの?」

「ギルドのシステムもそこまで優秀ではないのでぇ。完全な監視はできないんですよぉ」

「退出記録は出てる?」

「まだですねぇ。中で滞在してると思いますよぉ」

「出てくる前に追いつくぞ」


 ここのボスの攻略適正はAランク。魔王だったあいつが負けるわけはないと思うが厳しい戦いにはなっていそうだ。

 そういう意味でも早めに下っていく必要はあるな。


「ボスもモンスターも前回と変わらないはず。気を引き締めていくよ」


 彼女たちが頷くのを確認すると俺はダンジョンを駆け下りていった。


 ☆

【パンドラ視点】


「くそっ! なんでなのだ!!」


 もやもやした気持ちに耐えきれず何度も壁を殴った。

 岩壁が土ぼこりを上げながらえぐれていく。

 その嗚咽のような音に誘われたのかわらわらと向こうの世界では下僕だった奴らが敵意むき出して近寄ってきた。


「近寄るなぁ!!!」


 全身からあふれた魔力は勝手にミミックのような箱に擬態すると一瞬でモンスターを食い散らかしていく。


「ああ、落ち着け……魔王が直々に手を下してどうする……」


 視界もコンディションも悪くない。ただただ心の奥が土で煙る泥水をかき混ぜるようにモヤモヤを全体に拡散させている。


 スマホは新宿に置いてきてしまった。

 だが気持ちが落ち着かない今、誰とも繋がれないこの環境が心地よかった。


 壁に手を突きながらも歩みは確かに進めている。


「なんでここまで固執している……! この程度、我が手を下すものでもないだろうに!」


 探索者ランクはA、配信者としてもネットニュースで取り上げられるレベルの人気はある。

 我の計画の1歩手前まで来ている今、ここまで我自身が乱れてしまうのは愚行が過ぎる。


「奴が、勇者が原因か……?」


 いや違う。


 口に出した問答が瞬時に脳内で帰結する。


 奴はこの世界でも我の敵になりえる存在ではある。

 だが……


「まさか奴もあのドクロを狙っているとはな……」


 ──新宿ダンジョン下層ボスがしゃどくろ。

 ダンジョンの中でも最難関のダンジョンにおいて最終ボスの位置に鎮座している化け物。

 勇者もあのドクロがキーになると理解しているのだろう。


「本当にあの勇者は勘づいているのか……?」


 思考が分裂する。

 些細なきっかけで途方もない自問自答が脳内を埋め尽くしてしまう。

 上を見上げてもランプの淡い光に照らされたダンジョンがのっぺりと続いているだけ。


 息のつまるような閉塞感の中、地上から、世間から逃れるようにダンジョンを下っていく。


「ただ2回奴に助けられただけでこうなるか……子供のメンタルはなんとも初心よのう」


 むこうの世界ならば、我の完全体ならば奴に助けられることも些細なことで悩むこともなかった。


 いや、あの言葉がなければこの世界でもここまでひどくはなかったかもしれんな。


 身体からまき散らす魔力だけでモンスターを駆逐していくのももはや我の隣には誰も来ないことを示唆しているような気がして億劫になってきた。


「神々も難儀だな」


 奴らは我と違いしもべを持たん。平時からこの孤独感と戦っている精神力だけは我より強いな。

 その上面倒ごとに巻き込まれる。


「転生先が人間でよかったわ」


 それも魔王時代の権能を携えて転生できたのは幸運といえよう。


 ただこの権能だけはあちらの世界に置いていきたかったわ。


「ラスボスに据えられるのも苦痛よな。なあベヒーモスよ」


 頭に響く苦悩の叫びの主を見上げつぶやいた。


 ──────────────────────────────────────

 ☆お読みくださった方へ


 ここまでお読みくださりありがとうございます!!


 ●作品・作者のフォロー

 ●広告下の☆からの評価


 この2つをいただけると創作の励みになります!!

 何卒よろしくお願いします!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る