第15話 Sランク集結と方針会議

 ──翌日、ギルド本部前


 空澄さんに案内されて何事もなく本部に着いた俺たちは受付を通り20人は入れるのではないかというような大きさのエレベーターに乗った。


 ガラス越しに見える東京の街並みを目を輝かせて眺めているエリーをほほえましく思っていると今までほとんど地図アプリと化していた空澄さんの口が開いた。


「お名前は存じております。カネシロさん。最速でSランクになられたそうですね」

「ま、まあそういうことになりますかね……」


 黒崎さんに勝手にSランクに格上げされただけだけどな。


 空澄さんはじっと階数表示を無表情で眺めながら続ける。


「組合に加入しませんか」

「具体的な活動内容を教えてもらいますか」


 俺より少し高い位置から眼だけ動かしてこちらを見ると淡々と続けた。


「しっかりしているのですね。我々探索者組合はいわゆる企業の労働組合とは少し違います。主に初心者への追加研修、各種装備に対する保険の加入、情報収集と情報網の構築です」


 あまり俺に対してはメリットが無い気もする。ダンジョン初心者でもないし基本的に武器も鎧も俺のスキルから生み出すから保険も必要ない。


 あとは情報だけど変異神域は黒崎さんが教えてくれるし必要ないな。


「お断りさせていただきます」

「そうですか」


 空澄さんの表情は何一つ変わらない。


「組合では配信をされている探索者のために専属の動画編集者を雇ってるのですが……そうですか。残念ですね」

「ちょっと待ってください?」


 彼の口から出てきた新事実を確認しようと引き留めるが無情にもエレベーターは目的の階へ到着してしまった。


「ここが会場です。行きますよ」

「え? 空澄さんも出席するんですか?」

「もちろんです。私もSランク探索者の端くれですから」


 そう言ってそそくさと先へ行ってしまう空澄さんの背中を追うように会議場へ急ぐ。


「ケイくん! 遅かったじゃないか」


 会議室に入るや否や向かい合わせに並べられた長机に腰かけていた黒崎さんが手を振った。


同志たちサラリーマンとすし詰めになっておりましたので到着が開始の3分前になっていまいました」

「いや責めてはないよ。通勤ラッシュならしょうがないし」


 雑談もそこそこに俺たちが席に着く。

 この会議室にいるの俺たちを除くと3人。黒崎さんに空澄さん、そしてちらちらとこちらに目を向けながら机の上に広げた駄菓子を食べている少女が1人。


 年齢は高校生くらいだろうか。黒崎さんが準備を進めている間もひたすらに棒状のスナック菓子を食べては黒のジャンパースカートから取り出した袋に捨てまた別のを取り出して食べるのを繰り返していた。


 白いブラウスにこぼれているお菓子のかすを払うと立ち上がった。


「んで今日の話は何~? 新人君の歓迎会?」

「彼の紹介もそうだけど、1番の議題は逃亡した女神のことよ」

「ん~? あのコじゃなくて?」


 チュッパチャップスで指差されたエリーの喉からヒュッと息が漏れる。

 こちらを見る少女の目に先ほどののんびりした雰囲気はなく熟練した狩人のような張り詰めた雰囲気をまとっていた。


「始めるわよ。席について」

「はぁ~い」


 少女が席に座りようやく会議が始まった。


「まずは彼が新しくSランクになったケイくんよ。事情が事情だから説明してくれる?」


 これまでのこと異世界のことを話すと少女の方から逐一歓声のような声があがった。


「異世界か~いってみたいなぁ。ねねケイ、異世界にかわいいお菓子とかあった? ケーキとか!」

「らむね、まず自己紹介したらどう?」


 ああ、そうだったとドタバタと立ち上がり俺の隣まで寄ってくる。


「現役JK配信者の鹿田らむねだよっ!! よろしくケイ! エリーもよろしくね!」


 差し伸べられた手を取りひとしきりあいさつを終えると、らむねはまたドタバタと席に戻っていった。

 目の前まで迫っていた二つの豊かなふくらみに目がしばりつけられていたのがバレたのかエリーから脇腹をつねられ、俺は背筋をただした。


 何とも騒がしい人だけどここにいるってことはSランクの実力者だ。侮れない。


「そういえばタツヤくんは? またおやすみ?」


 確かにこの会議にはもともと4人で行っていたって黒崎さんが言っていたな。


「アメリカから出られないそうだ。あっちも大変らしいからな。そうそうケイくんたちに説明しておくとSランクにはもう一人、草薙龍也くさなぎ たつやっていう子がいるんだ。今は海外にいて、出会うことはないと思うが覚えておいてくれ」

「タツヤくんはうちらよりも強いんだから!!」

「なんであんたが自慢してるのよ」


 Sランクよりも強い人か……戦ってみたいな。


 そう思うということは俺にも戦闘狂の血が混じっているのかもしれない。異世界でも格上の師匠たちと戦いまくってレベル上げてたからその名残かもしれないけど。


「本題に戻るわよ。らむねはいつも通り見回りでいいわよ」

「やった~! 久しぶりに沖縄行こうかなぁ~」

「お土産はちんすこうにしてね」


 これからの自分の方針を聞き終わるとらむねはそのまま軽い足取りで会議室から出ていった。


 見回りで沖縄って遠くないか?


 ぽかんとして理解に苦しんでいると黒崎さんが補足説明してくれた。

 どうやらSランク探索者は全国に散らばるすべてのダンジョンを定期的に見回ることも仕事らしく移動費は経費らしい。


 旅費も出て仕事もダンジョンに行くだけならそりゃあ旅行気分にもなるか。空澄さんはならなそうだけど。


「それで空澄さんはケイくんと一緒に逃げた女神を追ってほしいのだけど」

「承知いたしました。今のところの手掛かりは?」

「ないわ。ケイくん以外は」

「そうですね。今のところネメシスと遭遇したのは俺だけです。また俺が変異神域に入れば現界するかもしれません」


 ただその確率は高くない。それにネメシスは1度俺に負けかけている。プライドの高い神だったら力を蓄えるためにしばらくは現界しない可能性もある。


 だが今はその低い確率に頼るしかすべがない。


 そのことを理解しているのか空澄さんは淡々と首を縦に振った。


「ではしばらくの間よろしくお願いします」

「私もサポートはするから寂しがるなよ?」

「別にあなたがいなくても彼が寂しがるとは思えませんが」

「う、うるさい!! いいんだよつっこまなくて!!」


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