第10話 ダンジョンはうねりにうねる

「ケイくん!! これは!?」

「ドライヤーだな。髪を乾かすやつ」

「この箱は!?」

「冷蔵庫。ってか走るなって。ぶつかるぞ」

「ぶつかってた人に言われたくありませーん」

「ぐっ……」


 こちらを振り返りながらくるくると踊るようにエリーは白で埋め尽くされた店内を歩いていく。


「そういえば必要なものって何?」

「掃除機と空気清浄機」


 あの事務所の掃除機はまだコードレスではないのだ。コードレスで軽くて吸引力の変わらないただ一つの〇aisonがあるというのに!!


 掃除機を換えるだけでも生活の質は変わる。特にハウスダストのアレルギーを持ってたりすると掃除機の質が快適な暮らしに直結するのだ。


 身の回りの環境の大切さは異世界での野宿で嫌というほど痛感した。だからこの日本では生活用品に金をかけることに決めたんだ!!


「色は……汚れが目立たないし黒っぽいのがいいな」

「ケイくん! これ中に重力魔法仕込んでない? 手が吸い込まれるんだけど!!」


 振り返るがただエリーがお試しでおかれていた掃除機に手を吸い込まれてあたふたしているだけだった。


 本当に神様なのか疑わしくなってきたな。ほぼ不死身の神がこんな子供みたいなリアクションをとれるほど純粋なわけがないと思うんだけど。


「そういうもんだから。あと壊すなよ。壊したらエリーが払うんだからな」


 スイッチを切り手を救出してやるとエリーはキュウリを避ける猫みたいに警戒しながらお試しスペースを離れた。


「お客様? どうなされましたか?」


 会計をしにレジへ向かおうとすると後ろから声がかかる。


 多分さっきのエリーの奇行を見てたんだろうな。


「いえ、大丈夫です。お騒がせしまし、た?」


 会釈してレジへ向かおうとした俺の手に抵抗がかかる。


「あの……何か?」


 振り返った瞬間、スタイルの良いエリーよりも巨大な二つのふくらみが視界を占拠し思わず見入ってしまった。


 エプロンとYシャツの上からでもわかるほどのグラマラスな体にダークブラウンのショートカット、目鼻立ちのはっきりした力強い顔立ちは量販店の店員にしておくにはもったいないような気がする。


 違う分析してる場合じゃないんだって。


「なんで手を掴んでるんですかね」

「すみません。逃げられないようとっさに掴んでしまいました。先ほど『魔法』とおっしゃられていましたが、あなたケイさんですよね? あのSランク探索者の!」


 ここ二日でこんなに有名になるんだな。ネットって恐ろしい子だわ。


「はい。まあ、そうですけど」

「ですよね!! よかったぁ。私、探索者様向けの商品を担当しているんですけど良かったらご覧になられなせんか?」


 チラリとエリーの方を見るがいいんじゃない、といった風に手であしらわれてしまった。

 また拗ねてるな。あとで機嫌とらないと。


「じゃあ、案内お願いできますか」

「っシャー!! 客ゲット!! ……ゴホン!! なんでもありません。行きましょう」


 店員についていくと蛍光灯で照らされていた店内がコーナーの境で薄暗くなった。


「販売しているのは基本的に探索者様がダンジョンで使われるグッズなのでコーナー自体もそれらしい雰囲気を演出してるんですよ」


「ちょっと、ケイくん」

「何?」


 ウキウキの店員の説明を聞いているとエリーから袖を引っ張られた。


「あの店員、怪しいよ」

「まあ、不自然ではあるか」

「女神の勘はよく当たるのよね」


 異世界だとその予言に振り回されたからいまいち信用ならないんだけど。


「──どうされました?」


 店員が振り返る。

 その眼だけ笑っていない。


 そういえば名前聞いてないな。胸元に名札プレートもないし。


 問いただそうと口を開いた瞬間、俺のズボンのポケットが震える。


「はい。ケイです」

『ケイくん! 今どこにいる!?』

「え? 黒崎さん? 秋葉原ですけど」

『今すぐ戻ってきてくれ!! また変異神域が確認された!!』

「え、また!?」


 電話はそこで切れてしまった。


「何かあった?」

「また変異神域だ。店員さん。ありがとうございました僕らはこれで」

「帰さないよ」


 再び俺の手に抵抗がかかる。

 エリーの勘は本当によく当たるらしい。


「あんた、誰だ?」

「義憤の一柱、ネメシス、だ」


 瞬間、手首をひねられ先ほどまでいた掃除機のコーナーまで吹き飛ばされる。


「っぶな。間に合ったぁ」


 ヘクトールの全身鎧に包まれた身体にけがはない。

 何とか喚装が間に合った。


「なんで地上に神がいるんだよ……!」

「地上? 何を言っている」


 ネメシスが指を鳴らす。

 するとおなじみの量販店の店内が霧となって消え岩盤の壁があらわになった。


「ダンジョン……!?」

「あんたが店に入った時からこの店はダンジョン内にあったんだよ」


 店、ということは他の客もダンジョンにいる可能性が高い。

 探索者ならともかく一般人にはダンジョンから自力で出るなんて不可能だ。


「あんたは先に潰しておけとさ。おとなしく死ね」

「誰がやられるかよ……!」


 姿勢を低くし剣を構える。

 アキレウスの軽鎧を纏いなおせたしいつでも戦える。


「戦ってもいいけど客が人質になってるけどいいの?」


 ネメシスの指につられて視線を向けるとさっきまで平和に買い物をしていた人たちが困惑した表情を浮かべていた。


「人質ぐらいどうってことないな」


 装備をヘクトールに戻し槍を構える。

 いつの間にか魔鏡も浮いている。


「エリー! 後ろは頼んだ!!」

「任せて!」


 一つ息を吐き、浮遊しているネメシスを睨みつける。


「お前の倒し方、ばっちり配信してやるよ!!」


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