第6話 神様のお使い

「お話してみたかったのに。もう帰ってしまうの? 人間ってせっかちなのね」


 少女はいじけたように手を後ろで組みもじもじとこちらを睨みつけた。

 こう文字列だけで見てみるとただの幼い少女がいじけているように思えるのだが、ダンジョンという異質な空間で見せられると背中に氷柱が差し込まれるような不気味さがあった。


 視覚情報ではか弱い幼女の見た目を認識しても身体が言うことを聞かない。

 彼女から放たれる身体の中心が地面に押し付けられるような魔力の圧にあてられて両の掌が湿り始める。


「……誰だ?」


 ようやく絞り出した声はかすれていた。


「あら、私とお話してくださるの? うれしいわ。何について話しましょうか。思いついていたものは全て忘れてしまったから」

「……質問に答えろ」


 少女はスッと目を細める。


「せっかちはいけないわよ。短命なのは理解しているけど、急ぎすぎもよくないわ。でも今は気分がいいから教えてあげる。私はステンノ。後ろの女神と同じ神様よ」

「ええっ!? そんな簡単に現界しないはずなのに!?」


 名指しされた本人が一番驚いていた。

 この魔力の圧だ。人間ではないことぐらいは察していたけどまさか本当に神域で現界するなんてな。


「あの子を倒してくれたおかげで現界するための魔力が集まったの。あなたには感謝してもしきれないわ」


 どうやらネメアのライオンを構成していた魔力で現界してしまったらしい。


 優雅な足取りでこちらに向かってきたステンノがその勢いのままグンと俺に顔を近づけた。


 包み込むような女の子特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。


「お礼に一つ教えてあげる。この世界は君が生まれ育った世界よ。勇者くん」

「ありえない。時系列がおかしい。俺が生まれた時にダンジョンなんてなかったはずだ」


 彼女の白い指が舐めるように俺の身体の上をなぞっていく。


「世界の秘密、聞きたい?」

「なにケイくんに近づいてんのよ!!! さっさと離れなさい!! ケイくんの守護神は私なんだから!!」


 言ってることには文句言いたいけど、助かった!


 ぎこちなく脚を動かし距離をとる。

 ステンノに触れられたところから感覚がなくなっていた。


「あら、先客がいるのね。でももう勇者くんは私のものだから」


 唇に手を当て投げキッスをすると俺の右手の甲が熱くなった。

 そこにはキスマークのような文様が刻まれている。


「いつの間に……!」

「害はないわ。ただ私の探し物に協力してほしいの」

「誰もいいよなんて言ってないけど?」

「その代わり、モンスターがはこびる世界になった秘密、教えてあげるわ」


 こちらの話は聞く気がないらしい。


 世界の秘密。俺の知っている日本に帰るには必要な手掛かりになるはずだ。


「何を探してる」

「妹よ。この世界にいるみたいなの」

「手掛かりは?」

「ないわ。だからあなたたちには手掛かりを探してもらいたいの。私はその紋様から見守ってるわ」


 ステンノの紫の瞳が光るのと同時に俺の右手の甲には幾何学的な文様が刻まれる。


「約束を破るなよ」

「もちろん。神は嘘をつかないわ」


 満足げに頷くとステンノは踵を返し虚空へと溶けていった。


「ケイくん」

「な、なんだよ」


 ほっと息をついていると背後から冥界の奥底から響いているような声が襲い掛かった。

 近づいてきたエリーはなぜか頬を膨らませている。


「なんで断らなかったの」

「あの状況では無理だろ」

「むぅ……守護神はわたしなのに」


 拗ねるエリーから魔鏡をひったくりコメント欄を確認する。

 いろいろバレたな……。


《消えた!?》

《あの子可愛いな》

《バカが。神様自称するイタい子だぞ》

《てか本当に神様なんじゃね? 紋様の魔法も最後のテレポートも知らなかった》

《いやいやww この世界に神がいるわけwww》

《焔様の二つ名忘れたのかよ。「神にぶっぱなした女」だぞ》

《あの大事件を忘れたのかよ》

《それよりも勇者ってどういうこと?》

《ケイくんもイタい子?》

《強すぎるから似合ってはいる》

《厨二くさいけど似合ってるぞwww》

《神域の魔物に無傷はおかしいってこと気づいてる?》

《なんで平然としてんだよwww》

《またなんかやっちゃいました? 系か?》

《普通にかっこいいだろ》

《一方的過ぎてGGじゃない》

《でももっとうまくやれたと思うぞ》

《エアプ湧いてきてて草》


「あはは……えっとどうしよ」


 勇者ってことは誤魔化すか? 

 でももはや後の祭りのような気もする。


《対応に困るなよ勇者くんww》

《これからもよろしくな勇者ケイくんww》

《勇者くんの同接10万人突破》

《10万人!!!!》

《すご》

《変異神域ってだけで珍しいもんな》

《登録者もヤバいぞ》


「は……? 100万?」


 画面に表示されている登録者数の欄には確かに100万の文字がどうどうと占拠していた。


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