第4話 S級探索者(仮)

「あなたが欲しいわ!!」


 言い方的には男女の仲の話と捉えることもできるわけで。


「え、っとそれはどういう意味で……?」


 思わず聞き返してしまった。


 告白だとしたら異世界でも男女の仲には恵まれなかった純度100%非モテの俺にもやっと春が来ることに……!


 美女も多かった異世界でも頭一つ秀でるくらいの端正な顔立ちに2次元のキャラと見間違うほどのプロポーション。持ち前の最強武器二つを大人な雰囲気と快活な笑顔で昇華し独特な取り込まれそうな魅力を放つ黒崎さんと付き合えたらさすがにこの世界に飛ばしてきた失格女神を崇め奉るな。


 そんな俺の期待を知るはずもなく黒崎さんは両手で俺の右手を掴む。


「もちろん探索者としてだが? 今、変異神域に対処できる人材が足りてなくてね。私を倒したケイくんなら適任だと思ったんだが……ダメか?」

「いえ……やります……」


 春は、瞼を閉じればすぐそこに見えていたはずの春は儚すぎた……。


 そもそも配信されている状況で断る心臓は持ち合わせてない。某げっ歯類のテーマパークでプロポーズされるようなものだろ。


 力の入っていない俺の右手をぶんぶん振りながら黒崎さんはなおも畳みかけた。


「詳しい話は事務所でしようか」


 強引に俺の腕を引っ張りながらずんずんと訓練場の出口へ向かっていく。


 女神と煙が先に外に出たタイミングで黒崎さんはふと立ち止まる。


「そういうのはもっと仲良くなってから……」

「……何か言いました?」

「いや! 君にはこれからバリバリ働いてもらう予定だから覚悟しておくように!!」

「わ、わかってますって!」


 ☆


 その後、事務所で懇切丁寧に探索者について、これから俺が就く仕事についての説明をもらった。

 基本的に探索者の仕事は各地にあるダンジョンから素材や鉱石、宝物を持ち帰ること。それらをギルドで換金することによって生計を立てるオーソドックスな形態だ。

 ギルドに買い取られた素材たちは特殊な魔力に変換され石炭、天然ガスに変わるエネルギー資源として活用されるらしい。


 また探索者にはE~Sまでのランクがありそれぞれのランクに応じて入れるダンジョンが変わる。


 普通ランクは下のランクから上げていくものなのだが、Sランクのギルドマスターを倒してしまった俺は、Sランク自体の人材不足もあり飛び級でSランク(仮)となった。


「(仮)って形になるならこんな強引な形にしなくてもいいのに」


 異世界でも冒険者を生業とする人間はさほど多くなかった。命がけの職業だ。本能的に避けてしまう人も多い。

 だからこそ実力ある者は即戦力として採用したい。そのための処置らしい。


 ☆


「ケイ、ここであってる?」

「違う。もう一つ先の側道」


 説明を受けた翌日、俺たちはまた新宿ダンジョン内部にいた。


 ここ2日で何度も出入りしてるからここが最難関ダンジョンだということに実感がない。

 ボスも倒しちゃってるしね。


「魔鏡のアングルも大丈夫そうだな」

「かわいく映ってる?」

「それはリスナーに聞いてくれ」


 俺たちの後方で浮いている魔鏡の画面で女神が難しい顔をして前髪を整えていた。


 魔鏡と接続させたスマホでエリーは入念に画角を確認していた。


 すでに視聴者は1000人を超えている。


「えっと、これで始まったかな? 見えてます?」


《来た!》

《こんにちは!!》

《結局だれなん?》

《もう1000人待機草》

《昨日できたチャンネルでこの数はえぐいだろ》

《ギルドマスターもいるぞ》

《出来レース?》

《横の子誰?》


 コメント欄には不信感に満ちたコメントも多い。


 まあ信用されてないよな。


「配信付けたのね? 皆さんこんにちは! ギルドマスターの黒崎焔よ!」


 黒崎さんは堂々と身振り手振りを交えながらリスナーに事情を説明していく。


《こいつそんなに強いの?》

《昨日の定点配信見てなかったの? ギルドマスターボコボコにしてたぞ》

《いや最初の方は押されてたしボコボコではない》

《あのほむら様が負けるはずない!!》

《焔民キモいぞw アーカイブ見てみろよww》


「というわけでこのチャンネルでは変異神域に対処してもらいながらその様子を配信していく。ダンジョン管理チャンネルといったところかな?」


 意外にもノリノリで黒崎さんは配信の説明を進めていった。


 ダンジョンに入る前、俺たちにも黒崎さんはそう伝えている。


 なんでもダンジョンの管理、整備とダンジョン下層研究を両立させたいらしい。

 ダンジョン下層は潜れる探索者も少なく生の映像はとても貴重な研究材料となるらしいのだ。


 配信は副業として認められているから稼げるぞと言われたらやってみたくなってしまった。


 黒崎さんはそのまま説明を続けた。

 あの人補助で来たはずなんだけどな。


 ああいうのをリーダーシップって言うのかもしれない。


「そもそも変異神域って何なの?」


 前髪から服のチェックにシフトした女神が尋ねる。


「変異神域はダンジョンの病気みたいなものよ。日々モンスターが誕生し、探索者に討伐されるか他のモンスターに食べられて死んでいく。基本的にダンジョンはこのサイクルで成り立ってるの。でも時々その均衡が崩れて過剰に魔力が溜まる場所が出てくる。それが変異神域よ」

「そんな場所に神の名前を使うのは女神的によろしくないんだけど?」


 黒崎さんは顔をこわばらせるとボソッとつぶやいた。


「しょうがないじゃない。本当に神がいたんだから」


 ──────────────────────────────────────

 ☆お読みくださった方へ


 ここまでお読みくださりありがとうございます!!


 ●作品・作者のフォロー

 ●広告下の☆からの評価


 この2つをいただけると創作の励みになります!!

 何卒よろしくお願いします!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る