第15話 髪をほどいて(15、解く)


「菫?何やってんだ?」

「晃さん。その……髪が絡まってしまって。上手く解けないんです」

榊の部屋。

榊が夕食後の紅茶とコーヒーを淹れている間に、菫は自分の髪と格闘していた。榊は持って来たカップをテーブルに置きながら、菫を止める。

「無理やり引っ張るなよ。余計絡まってるぞ」

「そろそろ解けそうかなって」

「全然解けそうじゃねぇよ……」

榊は溜息をつくと、菫の指を髪からどかし、ゆっくりと髪とヘアゴムに触れる。

「晃さん、」

「俺の方が見えてるから。大丈夫」

榊は笑うと、あっという間にヘアゴムを取り、菫の髪を解く。ふわりと、艷やかな黒髪が何事も無かったように広がる。解かれた髪の内から、甘やかな菫の香りが溢れたように感じて、榊は一瞬我を忘れてしまう。

「ありがとうございます」

榊は解いたばかりの菫の髪に、もう一度触れ、しばらく眺める。菫がちらりと振り向き、不思議そうに首を傾げた。

「晃さん?」

「明日さ、菫の髪結いたい」

「へっ?」

思いもしない申し出に、菫は変な声を出す。榊は笑っている。

「菫の髪、やっぱ心地良いからな」

優しく撫でるように髪を梳きだした榊に、菫は一瞬怪訝な顔をしたものの、結局笑った。

「お願いします」




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