第9話 得難き(9、肯定)


「ーーって感じで、大変な面だった訳」

「それは……大変でしたね」

閉店間際の佐和商店。

倉庫からの怪音をBGMに、榊が最近出遭った奇怪な面の話を終えた。菫はいつも通りに話を聞き、相槌を打っている。話し終えた後、榊はじっと菫の横顔を見つめている。

「どうしました?」

視線に気付いた菫が、榊に声を掛けた。榊はいや、と言い淀み、しなくても良いタバコの補充に手を出す。

「お面の話、するとまずいとかですか?」

それでもこんな態度は取らなさそうだが。と、菫が榊の顔を覗き込むと、榊は苦笑いを浮かべた。

「余計なこと考えずにこんな話出来るの、気分が楽だな、って思っただけ。すみちゃんもそうだろうけど、誰彼構わず出来る話じゃないだろ」

菫は目を丸くする。

「榊さんにもそういう感覚あったんですね」

「傷ついたー。すみちゃんの手作りお菓子食べないと回復しないー俺」

分かりやすく大袈裟に嘆く榊に、菫は呆れた目を向ける。

「何ですか、それ」

「しみじみと思う訳よ。肯定する、してもらえる大事さってやつ?」

「榊さんが言うと全部軽く聞こえますね」

「俺の恋人が手厳しい!」

菫はタバコのケースをさり気なく榊から奪い、棚に戻す。

「話したいことは話してくれたら良いんです。私が嬉しいので」

「……言うじゃん」

「榊さんの手厳しい恋人ですから」

菫と榊は、どちらからともなく笑い出した。


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