第3話「ベガとアルタイル」
「……ふぇ?」
言われた言葉がいまいち理解出来ず腑抜けた声が出てしまった。
「だから、お泊まりしよってこと」
ふむふむ…つまりこの家に女子7人と男子2人で泊まろうということか…?
「まぁ命令だし
俊哉というのは俺の父だ。
歳が普通の親子より近いというのもあって俊哉との関係はほぼ親子というより友達といった感じのためいつも名前で呼んでいる。
「いいよね俊哉?」
「あー、俺仕事残してたんだった!会社行かなきゃ!あ、お泊まりは全然していいからね?」
それじゃ!と言って俊哉はそそくさと撤収して行った。
逃げたなあいつ……
とりあえず俺は俊哉の背中に私怨を送っといた。
♢♢♢
泊まる準備も出来てないだろうしとりあえず家に帰って準備してきな、と言ったのだが何故かみんな準備万端だった。
いや、ほんとになんで??
怖くなってきたからあんまり考えないようにしよう。
ちなみに菜乃華は2日間友達の家に泊まると親に言っていただけなのでここでお開きとなる。
今までは学校のみんなに本当のことを伝えた仕返して皇成達に襲われるのを危惧して俺の家に匿っていたが今はもうその必要が無くなった。
でもさすがに夜に女の子一人で帰す訳には行かないため幼なじみ達を家に残して菜乃華を家まで送ることにした。
俺と菜乃華の家は意外と近かったらしく夜道を2人で歩く。
「なんかごめんね、せっかくの幼なじみの集まりに私なんかがいちゃって」
「いやいや、あいつらの中に混じらせてむしろこっちが申し訳ないというか…」
すると菜乃華は優しい笑みを浮かべて言う。
「なぎさは本当に優しいね」
「え、いやそんな…」
急に褒められて少し戸惑ってしまった。
「なぎさのそういうところが好きだったんだなぁ…」
菜乃華はふと何かを呟いている。
「ん?なんて?」
「いーや?なんでもないよ」
少し気になるが隠されてしまってはこれ以上追及は出来ない。
「みんな優しい子達でなぎさのことが大好きなんだね」
見てれば伝わってくるよ、と言ってまた笑みを浮かべる。
だがこの笑みはどこか寂しさが帯びていたような気がした。
「うん。みんな優しくて少し個性的だけどそれも含めて可愛くて、だけど弱いところもそれぞれあって…それを補い合うようにみんなで支え合っていけるようないい奴らばっかなんだよ」
俺は夜空に浮かぶ一番明るい星を見つめながら言う。
ふふっ、と菜乃華は笑い声を漏らす。
「本当になぎさは幼なじみ達が大好きなんだね」
髪を耳にかけながら言う菜乃華のその姿に見惚れて歩みをゆっくりにしてしまう。
どうしたの?いくよ、という菜乃華の声で我に返った俺はごめん、と言って後をつける。
そしてまた夜空を見上げて今度はさっき見た星の隣にある二番目に明るい星を見つめた。
ふふっ、と俺も少し笑い声を漏らしてしまう。
「どうしたの?」
菜乃華が不思議そうに覗き込んできた。
「いーや、ただ案外二番目の方が輝いてるかもなぁって」
俺は二番目に明るい星を見つめながら言う。
今はもう存在するかも分からない星を見つめて俺は願う。
今この時間だっていつまで存在するか分からない。
だから、この一瞬一秒を慈しめるようになりたいと。
「ねぇ、知ってる?」
菜乃華も同じように天を仰いで言う。
「夏空でいちばん明るい星はベガって言って意味は『落ちるワシ』、逆に二番目に明るい星はアルタイルで『飛ぶワシ』って意味なんだって」
遥か彼方先に在る星々に思いを馳せる。
『落ちる』と『飛ぶ』か。
「あぁやっぱり2番目も悪くないかもな」
「うん、そうだね」
すると菜乃華は俺の2歩前に軽やかに歩み出る。
「なぎさ!」
菜乃華は少し声を大きくして言った。
「ずっとずっと、大好きだったよ」
でも、と言って菜乃華は続ける。
「今の私にはなぎさの隣に立つ資格がない…でもこれだけは言わせて欲しい」
そこで区切って意を決して何かが吹っ切れたように再び口を開く。
「今まで私に色んな感情を教えてくれてありがと!」
そう言って微笑む菜乃華のその姿は、俺のひと夏の思い出の1ページに深く刻まれたような気がした———
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