第2話「違和感の正体」

 広く大きく青く澄んでいる空はまるで夏を主張しているかのように感じられる。


 セミたちも忙しく夏の役目を果たし、熱気を帯びた日光により汗ばんだ前髪も心地よく感じられる。


 そんな清々しい夏日和に、俺はコンクリートに足を落とし1歩1歩青春の箱庭に向かって歩を進めていた。


 高校では陰キャの俺は基本的に面倒事に関わるのはごめんだが、昨日だけはつい面倒事に足を突っ込んでしまった。


 だがそれも丸く収まったことだし今回ばかりは自分でも良しとした。


 そんなことを考えているうちに学校に着いたらしく、生徒たちの騒々しくもあり心地よくもある喧騒が耳に入り込んできた。


「よし、今日も目立たずにがんばるか…」


 そう決意して校舎内に足を踏み入れた。


 だがどこからともなく違和感を感じていた。


 その違和感の正体を探していたがあまり分からない。


 その違和感の正体が分かったのは教室に入った時だった。


「え、あれって……」

「うん、東雲しののめさんを襲おうとしてたって言う……」

「そうだよね、未遂だけどいわゆる性犯罪者ってやつだよね」

「うん…怖いから学校来なければいいのに」

「あっ!目が合った、こっち見ないで欲しい…」


「なんだ…?これ…」


 教室に入った途端訳の分からない悪口を浴びせられた俺は自分の机の前で立ち尽くした。


 そこには『学校来るな性犯罪者』『死ねクソ陰キャ』『性犯罪者は死んどけ』などといった悪口が机一面に書き尽くされていた。


「俺が何したってんだよ…」


 そう呟いた時前方から人影が近づいてきた。


「七瀬くん…ちょっといいかな?」


 そう話しかけてきた彼は委員長の高田翔莉たかだしょうり


 だが彼の顔はどこか汚物を見るかのような目をしていた。


「うん、いいよ」


 そう簡潔に答えると翔莉はポケットからスマホを取り出した。


「まず最初に言っておく、君の言い訳を聞く気は無い」


 翔莉はそう冷たく言い放った。


 俺はこれから何を言われるか検討もつかなかったが、それが良くないことだということだけは分かった。


「まず君が3年6組の東雲菜乃花さんを襲おうとして、それを偶然見つけた3年生の時田拳聖ときたけんせいさんらに止めにはいられるもそれを殴って無かったことにしたという事実が出回っている。」


 これが証拠の動画だ、と見せてきたのは昨日俺がいた場所からは少し離れた場所から撮影されたものだった。


「実際こうして証拠もあがってる訳だし、君の罪はもう覆りようがない。クラス、いや学校全員が君のことを怖がっている。」


 翔莉はそこで、と1つ咳払いをしてこう告げた。


「今後一切学校の人間と関わりを持つのを辞めて欲しい」


 「…いや、あと少しの間だけ…か」と少し考えたように俯いた翔莉は意味ありげに付け足した。


「ちょっとまて、さっきから聞いてれば好き勝手に…証拠っていうがその襲われた女の子からの証言は得たのかよ」


 あまりの理不尽さに俺は少し怒り気味に言うと周りからは「性犯罪者がキレてんじゃねえよ」「逆ギレきめぇ」などといった声が聞こえた。


「君などの言葉に耳を貸す必要は無いと思っていたがその質問だけには答える」


 翔莉の見下したような表情は神経を逆撫でするかのような不快感が感じられる。


「東雲さんは君にもう一度襲われることを怖がり口を開いてない」


「じゃあまだ俺がやったって証拠は…」

「以上だ。これ以上君の戯言に付き合う気は無い」


 そう冷たく吐き捨てた翔莉はすたすたと自席に戻って行った。


「なんでだよっ…どうしてこうなったんだよっ!!」


 奥歯で苦虫を噛み潰したような絞り出した声を上げた俺は1人拳を強く握った—————

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