【11回の裏】彼がいる時いない時。

5月6日(金)【小原由香ダルトン】


 東京都大田区にある大田スタジアム。亜美への直接取材も終わりに近づいている。収容人数が3000人程度の小規模スタジアム。小さいけれど小ぎれいな日本らしい球場。ゴールデンウイーク合間の平日だけあって観客もまばら。


 亜美さんは一番指名打者。目下「首位打者」とあってちらほらとした観客の中にもNPBの球団のスカウトの方も何人かいた。彼らに話を聞くと

「男だったら間違いなくドラフトの目玉だね」「女子選手だと男より最盛期ピークが早いのかもしれんのよね。」「ただ女性ファンの拡大のための訴求には有効だよねぇ。」

「でもあの『ナックル』もすごいけどカーブも良いよね。四球を一つも出してない制球の良さを見ると、正直言って『中継ぎ』ならプロでも十分に通用すると思う。」


 彼らの評価を総合すると「プロでも十分に通用する」という認識だが「前例がない」のでそう公言することはできないというスタンスだ。


 今日から勝ち点「無し」同士の城彩じょうさい大学との対決。城彩大もかつてプロ野球選手を何人も輩出したことのある「名門」なのである。


 亜美さんへの初球は内角への4シーム。恐らく「セーフティバント対策」だろう。ただそれを読んでいたのか十分に引き付けての打撃。それが低い弾道を描く左翼へのライナー性の本塁打。女子W杯で世界をわかせた男子顔負けのプルヒッターぶり。それに勢いづいたつくば大学が6対0での完勝。リーグ7戦目にての初勝利となった。


5月7日(土)


 休日ということもあり大田スタジアムは大勢の観客がつめかけていた。大学関係者はもとより、亜美人気もなかなかのものだ。オフシーズンにはバイトでモデル業もやっているレベルなわけだから注目されないわけもない。


 今日も引きつづき一番指名打者として4打数2安打の活躍。5対4と1点差で迎えた9回、無死満塁の場面で急遽登板の機会が。最初の打者をスローカーブを空振りさせて三振に仕留めると、続く打者はナックルをひっかけさせてショートゴロ併殺で勝利に貢献。リーグ戦初となる「セーブポイント」。連勝してこれでようやく勝ち点1。


 5月8日(日)


 今日は城彩大学戦の予備日だったが2戦で結果が決まったため練習のみに。

その後東京で亜美さんの今回の最後の取材。当初は私の単独取材の予定だったのだが今週の活躍で亜美さんの大学の方に取材希望が集まり、彼女の学生生活に支障をきたさないよう合同でということになったのだ。


 そのため野球選手というよりは「芸能人」の取材のようになってしまった。スポーツ関連だけでなく女性誌などのメディアも入っていたからだ。ただ彼女の進路にとってはそれも追い風になるかもしれない。


5月11日(水)


 無事にセントピートのアパートに帰宅。やっぱり自宅は……以下省略。健くんへの取材は13日(金)のホームでのボルティモア戦から復帰予定だ。今日は自宅でTV観戦。(サニー・スポーツという地元ケーブルTV局。)


 今日の沢村は5番指名打者。相手先発は5番手先発のカレーラス(右腕)。23歳の期待の若手である。


 1回表、四球2つで二死二塁一塁で1巡目の打席。初球のチェンジアップが真ん中に。きれいに右中間への先制2塁打。打線も十分機能して2対10と大勝。


 沢村が投手や休養で不在の時と得点差がありすぎる。


5月12日(木)


 相手先発は開幕から負けなしの5勝をあげているミスターソン(右腕)。沢村は5番左翼手。沢村は3打数1安打2四球。チームも4対7と快勝。ミスターソンに土をつけた。


 やっぱり野球はTVで観るより球場で観る方が良い。


5月13日(金)


 旦那マシューと一緒に球場へ。今日からレイザースはホームでのボルティモアとの3連戦。同リーグ同地区だからこそ直接対決は多い。沢村に「お帰りなさい。旦那さんマシューが毎日『嫁がいない』って泣きつかれてうっとうしかったんでよかったですよ。今度日本に取材に行くときはアメリカに代理を置いてくださいよ。」とからかわれる。とりあえず「日本の様子」を聞かれる。途中からボルティモアの植原さんまで加わって私からの情報を聞いてくる。


「ネットもテレビも無条件においそれとは信じられんからな。」

二人の意見は一致する。確かにそれはわかるのだけど、かと言って私からの情報を全面的に信じるのもどうかと思う。まあそれだけ信頼されるのはジャーナリスト冥利につきるのだけど。


打撃

(左)打席62 打数50 安打24 単打6 二塁打6 三塁打3 本塁打9 打点23 四球12(敬遠2)

(右)打席19 打数16 安打7 単打3 二塁打1 三塁打1 本塁打2 打点7 四球3(死球1)


合計 打席81 打数66 安打31 単打9 二塁打7 三塁打4 本塁打11 打点30

四球15(死球1敬遠2)盗塁4

打率.470 出塁率.568 長打率1.197 OPS1.765


投手

(左)試合3(先発3)22回 自責点3 防御率1.23 2勝0敗 QS3 被安打11 四球7 三振19 WHIP 0.8182(とても良い)

(右)試合2(先発2)13回 自責点6 防御率4.15 0勝2敗 QS2 被安打11 四球2

三振10 WHIP1.083(良い)


合計 試合5(先発5)35回 自責点9 防御率2.31 2勝2敗 QS5 被安打22

 四球9

三振28 WHIP0.8857(とても良い)


 

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