第7話 自己紹介と涙
「メアリー」
細い腰に両手を当てて、威張るような姿勢で一言。
短髪の金髪、ちょうど麦畑のような色、と羨ましがっていると。メイドのメアリーは、手近な場所にもたれかかり、
「ふふん、うらやましい?」
「なにがですか?」強気な自分はもう保てない。特別な人だと思ったのに特別じゃないなんて……。
「あ、いま、なんか別のこと考えてるでしょ?」
「べつのこと?」
「最初はわたしの西の響きの名前への羨望!つぎが!わたしの、この愛らしい絶妙な長さと色合いの頭髪。……で、さいごは、なんか意気消沈。最初の印象と違うじゃない!」
よくひとのこころの機微を見ているものだ。
「もう十八よ!正直、十五歳あたりでコクヨッ、ゔゔん!嫁に行きたかったのだけれど、歳の差や身分やら好みやら、果ては女に興味が、とか。聞いた話では色々あって、行き遅れてなんていないんだからね!」
「うん、めー、ごめんなさい、一回じゃ覚えられない。かわいいわ」
「やだ!」
メアリーは口元に手を当ててすっと、後ろに下がってから二秒くらい、止まり、
「め、メアリー、メアリーだから!東の響きと全然違うけど、メアリー一択よ!」
「メアリー、メアリーはかわいい」
「なっ、でしょ?ちょっと、吊り目が睨んでるみたいだって最初は先輩やまとめ役にいじめられたけど!人一倍、人を見てるんだから!だ・か・ら!
コ、ゔゔん!ひとりにしておけないのよ!」
「?、風邪?痰が絡むの?だいじょうぶ?」
「やだ!」
また、メアリーが硬直する。
「どうしてそんな優しい事言うの?」
「?、風邪を心配してくれる人がいないの?」
「いるけど、大概はうつさないでくれって言ってコクヨ、ああもうっ、コクヨウ様に言われるのよ!」
悲しそうに涙を流すメアリー。
「メアリー、泣かないで」
まだ言い慣れない名前だが、口にしているうちに覚えられそうだ。それよりも、コクヨウ様という名前の方がしっかり刻み込まれてしまうくらいに気持ちがダダ漏れだ。
「メアリー、ねえメアリーって呼んでいいの?」
「今更よ!好きなだけ読んでちょうだい!あなた名前なんだっけ、って、三毛、ミケね。悪い覚え方だけど覚えたわ。その髪じゃ村じゃ苦労したんじゃないの?」
「ううん、私が生まれるのにお母さんが死んじゃって、それからはみんなやさしいわ」
「なんてことよぅ、うちなんて大家族でお母さんもお父さんも元気よ!もう!」
また涙でぐしゃぐしゃになる小顔のメアリーの顔。
おまけに
「どうしたの?」
燭台を持ちながらダンがやってきて
「メアリー!どうして泣いてるの?!」
「うるさい!いとこは引っ込んでて!」
似ているなあー、と思っていたのだ。
「待って」
メアリーがしゃくりあげながら状況を整理している。
「お母さんが亡くなっていて、三毛猫模様の髪を持つ女の子ってことは!」
「メアリー、もうやめないか」
「あのデュラハンの?」
「噂だよ、メアリー」
近づきすぎて蝋燭の火が危ないのでミケがダンに注意を促す。
「とりあえずミケ、もう遅いし、水の国に確認したらミケの占いは確かなものらしいから、しばらくお城にいなよ」
「どうしてダンがそんな大事なコト決めるのよっ」
メアリーがダンを怪しむ目で見る。
「僕じゃないよ、水鏡で連絡を取ったコクヨウ様が決めたんだ」
「どうしてダンはコクヨウ様の名前を軽々しく言えるのよ!!」
ポカポカどころか、ダンが少しがっしりしたところがあるのをいいことに、だんっ!だんっ!と打撃を加えている。
「それは僕がコクヨウ様の幼馴染で大事なハーブ園の様子もみてるからだよお」とちょっと痛そうにしているが力強くも手に持った燭台は揺れない。
この二人をどんな目で見ていいのか、ミケにはわからない。
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