/// 12.やっちゃったよね

ルーナの言葉で11階層からのダンジョン探索が開始された。


そして僕はいつになく緊張した。

まずは僕ら三人の実力を隠すために細心の注意を払う。そしてもちろんルーナとフランソワの身の安全を守らなくてはならない。おそらくだが20階層後半で厳しくなってきて命の危険もありそうに思える。


この階層からはスライムにゴブリンナイト、ワイルドウルフにコボルトが出てくる。


スライムはあまり強さは変わっていないが数が多く鬱陶しい。

ゴブリンナイトは攻撃力が普通のゴブリンより上がっていて二人の装備品だと切り傷ができちゃうかもだし数も多いので鬱陶しい。

ワイルドウルフはワーウルフより素早いし攻撃力も上がっているので鬱陶しい。

コボルトは吠える攻撃で防げない耳への攻撃は煩いし、ガウガウ常に言っているから鬱陶しい。


当然三人には傷一つ付けられないだろうが、それを見られるのもまずいので攻撃を喰らわずに苦戦することが求められる。まあこの程度の敵なら何とかなるかな?とは思うけど……


そして順調に階下へと降りていく5人。

順調だった。


青春を彩る一ページのような光景に僕もほっこり。汗をぬぐいピンチを演出した三人に必死に援護する二人。そして最後には群れを拳で打ち砕くサラ(サフィ)さん……完璧である。これならバレずに今日の実習は終了できそうだ。


お昼前だというのにすでに15階層まで下りて来ているが、さすがに今日中に20階層のボスに挑もうとはしないはずだ。

そして疲れた演技をする三人に、本当に疲れ切っていた二人はダンジョン内の比較的安全と思われる広いスペースを見つけ、休憩をすることになった。


「ねえ、三人って体力あるよね……」

「えっ?」

いつもは元気なフランソワから気だるい声で話しかけられた。


「そ、そんなことないよ?僕も二人ももうへとへと。ねっ!サラ(サフィ)さん!カルラ(加奈)!」

「あ、ああ!もうヘトヘトだぜ!」

「もう、ダメかもしれません」

焦る僕の言葉に元気にヘトヘト間を出すサラ(サフィ)さんに絶妙な演技をするカルラ(加奈)……これは、ダメかもしれんね……


「少なくとも、サラ(サフィ)さんは元気が有り余ってる感じですし……タク(タケル)くんだって息切れしてないよね?」

「ぐっ……」

ルーナのその言葉に動揺してしまう。いやさっきから僕、はあはあと息を切らして感じ出てなかったですか?


「タク(タケル)くんのそれって……なんだか変態がハアハアしてるように聞こえてちょっと怖いよ?」

「なっ……」

フランソワの容赦のない言葉に膝をつきうなだれる。そんなに……下手だったの僕……


「異例の特待生ということで何となく想定はしてましたけどね。どうせならどれだけ強いのか知っておきたいです」

「そうだよね!私も実は思ってた!」

「フランソワは……分かってなかったよね?」

「えへへへ」

僕はどうしようか戸惑う中、ルーナとフランソワの会話を聞いていた。


横を見るとサラ(サフィ)さんは吹けない口笛を吹いている。カルラ(加奈)は……なぜ笑顔か分からないがこちらを見てニコニコしている。今晩どんな心境だったかじっくり聞いてみよう。


とにかく今は観念して……


「あの、僕たちは自治は単独で30階層ぐらいまでは行けててね。この階層ぐらならまだ余裕があったりするんだ」

「それ本当?」

じっと見つめるルーナ。サラ(サフィ)さんが「おっいいぞ!いけー!」と言っているので今晩お仕置きしないといけないようだ。


「ほ、ほんとだよ?」

「嘘だったらタク(タケル)くんに奥まで連れ込まれたって言うから」

「うっ!」

まずい……まずいよそれは……僕の平穏、とは言い難いがそれなりに楽しい学園生活が謳歌できなくなる!


「ギルドカード見せて……もちろん全部秘密にするから!フランソワもいいよね?」

その言葉にフランソワも無言でうなずいていた。


もう、逃げ場はないようだ。


僕はギルドカードを取り出しルーナにそっと差し出した。

不本意ながら金ピカになってしまったSランクのギルドカードを……こんなことなら偽造カードの一枚や二枚用意しておくべきだったと後悔しながら。


「は?」

変な声がでたルーナはそのカードに手を伸ばしたがひっこめた。フランソワも目が見開かれている。


「あの、タク(タケル)くん……様、はタケル様なんですね……」

名前も書いてあるしね。バレるのは当然か。


「ええ!タタタタタタタタタタタタタあぐっゴホっ……」

フランソワのパニくり具合が凄い。そして恥ずかしそうに下を向いている。


「じゃあサラ(サフィ)様とカルラ(加奈)様も……」

サラ(サフィ)さんは今にも言いたそうに、カルラ(加奈)も言ってもいいですか?という雰囲気でこちらを見ている。仕方なくため息をつきながら「いいよ」と伝えると……それぞれが自己紹介をしてゆく二人。


ルーナはサフィさんと加奈の二人に目を輝かせ二人の手にすがりついていた。フランソワはもう思考停止したように止まっていた。


それから1時間ほど休憩を続け、ようやく平常心かどうかは知らないけど落ち着きを取り戻した二人。ぜひ下層の方まで見学させてほしいとお願いされ、取り急ぎ20階層のボス、ビッグワイルドウルフ3体をサフィさんが一瞬で粉砕してポータルに乗った。


もちろんボス戦以外はルーナはサフィさんを、フランソワは加奈が担いで走っている。二人はあまりの速さに悲鳴を上げている。周りの冒険者たちの視線が痛い。仕方なしに都度止まっては二人に大丈夫と説明してもらった。


そしてポータルから一気に最近みんなで養殖を行った最下層、141階層にワープした。


「ここは、何階層なんですか?」

「えーと、141階層?」

二人が気絶した。


その後、意識を取り戻した二人に、この階層にいるデーモンズウルフ、アダマン石竜、ポイズンソードスネークを見てもらう。サフィさんに【竜鱗の障壁】による防御壁で安全を確保していたので、なんとか気絶せずに済んでいるようだ。


加奈が雷撃でデーモンズウルフの脳天をかち割り、それをすり抜けてくるアダマン石竜、ポイズンソードスネークに僕が触れ、【人体操作】でその脳を破壊していく。

毎夜レベルアップに余念のない僕はこの程度の魔物なら問題なく討伐できる。


僕だって二人にカッコいいところを見せておきたいんだから!


その後、待機に我慢ができなかったサフィさんが、目の前から近づいてくる三種の群れに飛び込み拳一つで全て吹き飛ばして終了となった。


そして跡形もなくなったその痕跡を見て、フランソワはもう何も言う事がないと真顔になっていた。

ルーナは「素材が……高級素材が……欠片でもあれば一生安泰……」と口にしてたので、かろうじて残っていたアダマン石竜の欠片をこぶし大ほど差し出すと、手を出しかけたがひっこめた。

受け取りたそうな右手と、それを止める左手という中二病のような状態に少し笑いが漏れてしまったのは仕方ないだろう。


「タケルがルーナ虐めて遊んでる!」

「タケルくんったら」

サフィさんと加奈はいい加減なことを言わないでほしい。でも葛藤するルーナはちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒だ。


こうして思いっきり正体がばれてしまった僕たちの二度目の野外実習が終わった。

秘密にはしてくれるようだが、今後の実習については考えたいとのことなので、一抹の不安はあるが仕方ない。そう思って週末を過ごすことになった。


願わくば平穏な学園生活を送りたいものだ。

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