/// 02.いざ、編入初日

「タク、16才です。実家はコガワという商会をやってます。よろしくお願いします!」

僕はざわつく教室の中でシンプルな自己紹介をした。注目されるとなんだか恥ずかしい。


続いてサフィさんことサラさんが「サラだ!家は男爵家!よろしくな!」と豪快に挨拶していた。男性陣のピンクの歓声がすごかった。女性陣からも一部黄色い声援が聞こえてきたのはどういうことか。

だがそんな歓声も「タクの婚約者だ!」と言ったところでブーイングに代わっていた。


最後に加奈、あらためカルラが「タク様のお付きのメイドです。身も心も捧げているのでお見知りおきを」と告げるとブーイングから殺気に代わっていた。女性陣からの視線も氷河期のように冷たく感じた。


「ちょっと、二人とも何あれ。目立たないようにっていったじゃん?」

「おう!かなりアピールできた!これでこのクラスのメスは誰でもウエルカムって分かっただろ!」

「私は、メイドですから。ご主人様には身も心も……ふふふ」

どうやら僕の平穏な学園ライフはこないようだ。


今日は理事のマナーブさんの計らいで、無事1年生として特待生として編入の挨拶をし終えたところだ。

僕は開いている3人掛けベンチタイプの椅子に座ると、左右からサラ(サフィ)さんとカルラ(加奈)がぴったりとくっつくように座ってきた。周りの視線が痛い。そしてクラス委員だというルーナさんの号令でホームルームが終わる。


ちなみにルーナさんは金髪のストレートヘアをなびかせぱっちりした瞳の美少女だ。心も胸のふくらみも慎ましい美少女だ。個人的にも仲良くしていきたい女の子だ。いやクラスメートとしてだよ?

そんな僕の気持ちを察してか、サラ(サフィ)さんは小声で僕に耳打ちしてきた。


「早速あのルーナって女に目を付けたんだな、さすがタケル。あれは夜も中々やりそうだぞ」

何を言っているんだ……そうか、やりそうなのか……ちょっとドキドキしちゃう!


「もう。何を言ってるんだよサラさん」

「あの」

サラ(サフィ)さんに苦言を呈していた僕に声がかけられる。声の方に目を向けるとそこにはそのルーナさんが立っていたのでビクッと驚いてしまう。


「は、はい」

「突然すみません。私はクラス委員のルーナといいます。一応子爵家ですが学園内では身分差は気にしなくても良いですわ」

「はい。それで、僕に何かありましたか?」

「ふふ。一応クラス委員なので、何か分からないことがあればいつでも相談してほしいなって。あとこっちは副委員のフランソワと言います。私が対応できない時は彼女に任せてますので」

なるほど。と僕は納得しながら隣のフランソワと呼ばれた女の子を見る。

ふわふわとした金髪にクリクリした目で笑顔が可愛い。そして小さい。メテルと同じぐらいか?そんな感想を抱きながら彼女を見続ける。


「そんなに見つめられると困っちゃうな。ボクそういうのに慣れてないから」

「あ、いやすみませんつい」

僕の言葉とつい見てしまったその豊かな胸元をバッと両手で隠しながら頬を赤らめるフランソワ。いや見ていたのは事実だけど……まあ事実だから警戒されてもしかたないか。特に言い訳は浮かばなかった。

というかフランソワはボクっ子か……いいよね!


「ご主人様が申し訳ありません。性の権化のような方ですから」

カルラ(加奈)が「ふふふ」と笑いながら失礼なことを言う。二人は小さく悲鳴を上げる。


「カルラ、そんな冗談で怖がらせたらダメだよ」

「し、失礼しました。失言でした、謝罪させていただきますのでどうか今晩の夜伽はお手柔らかにお願いします……」

自分の体を両手で抱いて震わせているカルラ(加奈)……


「いい加減怒るよ?」

「てへ」

ジト目で苦言を呈する僕に舌を出して笑顔を見せるカルラ(加奈)。


「な、なんだ。冗談だったんだね!本気で引いたよ?」

「そうです!本気で身の危険を感じましたわ!」

誤解は解けたようで良かった。カルラ(加奈)は今晩お仕置きだな……

いやそれを狙ってたのかな?確か今晩はカルラ(加奈)と真理だったし……カルラ(加奈)だけ放置プレーするかな?いやカルラ(加奈)ならそれも楽しんじゃいそうだな。


そんなことを脳内で考えながらも、最初の授業が始まるまでの10分間でルーナたちに学園内を軽く案内される。運動場に更衣室、魔術訓練室に実験室が主な施設のようだ。あとは職員達がいる職員室と何かあった際の医務室ぐらいか。


案内の最中の会話で、ルーナは神官、フランソワは盗賊とのこと。一応、僕は剣士、サラ(サフィ)さんは闘士、カルラ(加奈)は魔術師でやることになってるからね。神官と盗賊だったら良いパーティになれそうだ。

まあさすがにクラス委員と副委員の可愛い子を独り占めしてたら、それこそ他のクラスメートに何を言われるかわかったもんじゃないからね。そこは自重だ。


そして僕たちはさらっとした案内を終え、教室へと戻るため歩く。


「ねえ。提案なんだけど……」

教室の入り口の前までたどり着くと、フランソワがこちらを向いて話しかけてきた。


「私たちでパーティ組んだらよくない?丁度5人だし」

「あ、いいかもね」

早速フラグは回収されたようだ。

サラ(サフィ)さんもカルラ(加奈)も乗り気のようだ。


「授業は5人パーティを作ることが多いんだよ!だから私たちでパーティ組んだら楽しそうだなって。嫌じゃなかったらだけどさ!」

「そうですわ。三人は特待生だから、強いのでしょ?」

なるほど。強さがにじみ出ちゃってるからね……って訳でもなさそうだけど。


「私たちはちょっと周りのレベルが低すぎるのが問題で。いやいいんですけどね。ただ面倒を見てたりするとどうしても自分たちの修練がおろそかになってしまうので……」

「ボクたちのレベルについていけそうな人とパーティ組みたいねってルーナといつも話してたんだ!」

「でも僕だってそこまで強くないですよ?」

ちょっと謙遜してみる。


「だって……」

「ねえ……」

なんだろうこの空気。


「失礼ですけどコガワ家というのを存じ上げなくて……なのに特待生で理事長がヘコヘコしてたのを見かけたので、よっぽど強者なのかなと……」

「ああ、そう言うことね」

僕は頭の中で必死に言い訳を考えていたのだが……


「それであればその通りです。ご主人様は少なくともこの学園の皆様よりは御強いです。あっちの方もですが……」

カルラ(加奈)が頬を赤らめながら説明していた。サラ(サフィ)さんもうんうんとうなずいている。やめてほしい。


「じゃ、じゃあとりあえず一緒にパーティを組みってことで、いいかな?」

「やった!」

「ありがとうございます」

そんな約束を取り付けたところで、最初の授業の講師がきたのでそのまま教室へと入っていった。

他のクラスメートの視線はなぜか冷たかった。


廊下でしゃべる声って中に聞こえるからね。仕方ないよね。

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