/// 38.復讐心

「なんか来たぞ?」


早朝、タケル達はサフィさんの一言で目が覚める。

そしてその後に響く爆音と衝撃に、急いでいつもの装備品を身にまとい1階の中央フロアまで走る。皆必死で走っていた。巨大な魔力の塊がぶつけられたということが察知できたから。


「な、なんだよこれ!」


タケルが見たのは、玄関があったはずの壁に大きな穴があいており、早朝だが活動を開始していた職員たちが、飛び散った建物の破片と一緒に倒れ込んでいる姿だった。タケルは大急ぎで倒れている人に【超回復】を掛けていく。サフィさんを中心にがれきから救出に動こうとしてくれてもいた。


「いやー中々ぶっとばないもんだなー!おい!カイザード!お前の全力はこんなもんか?手加減してるんじゃねーよな?」

「はぁ?そんな訳ないでしょ!今ので魔力はすっからかん!いくら違法魔道具だからって・・・そんなに威力は大きくならないわ!まったく・・・これだから脳筋は・・・」


砂ぼこりが治まり、玄関に空いた大穴から見えたのは、勇者ライディアンと大魔導士カイザードであった。


「なんで、生きてるんだよ・・・処刑されたはずだろ・・・それにこんな、無関係の人たちまで巻き込んで・・・こんなことしてどうなるか分かってるだろ!」

「うるせーな!俺はお前の苦痛に歪む顔さえみれたら、他のことはもうどうでもいいんだよ!他国へでも逃げりゃいい!途中で死んだらそりゃそん時だ!」


そんな身勝手な言葉に少しだけイラっと来てしまう。やっぱりこの人が国王になんてならなくてよかった。そんなことを呑気に考えていた。目に見えるけが人は全て直し終えた。建物だってまた直せばいい。サフィさんだっているし勇者なんかに負けるわけがない。

軽く考えていた。この男がただここに突っ込んできたわけがなかったんだ。


タケルが勇者の方に走り出そうとした時、勇者は手のひらを前に突き出した。


「おっと、動かない方がいいぜ!おいっ!もーいいぞ!」


勇者のその言葉に、また魔力のふくらみを感じる。


「サフィさんお願いします!」


タケルの叫びに呼応して、サフィさんが特大の【竜鱗の障壁】を前面と上に向けて放つ。次の瞬間、多数の爆音と共に目の前の壁が爆発、崩壊していく。天井も崩れ落ち、がれきが上から降ってくるが、それは障壁に当たり滑り落ちていく。

二階で作業をしていたと思われる職員も二人ほど一緒に落ちてきたが、それもサフィさんがいくつかの障壁を作り出して器用に受け止めた。そしてがれきが綺麗に落ちた後に障壁が消えると、その2名を真理と悠衣子がやさしく受け止めた。


孤児院の前面がきれいさっぱり無くなって、勇者たちの姿が見える。先ほどの魔法の数で想像できたが、目の前には多数の者たちがいることも確認できた。何人か見知った顔も見えていた。

そしてその中に・・・・孤児院の子供たちが10名ほど、男たちに抱えられ、その喉元には刃物が突きつけられていた。


「動くなよ。こいつら間違って刺しちゃうからな・・・こんな風に・・・なっ!」

「やめろー!」


タケルの声と、周りの悲鳴がこだまする中、勇者は一番近くいた女の子の腹を、その聖剣で突き刺した。


「【極大回復(エクストラヒール)】」


その声と共に倒れ込んだ女の子の傷は塞がれていく。

ああ、昨日から休みでもないのに泊まり込みに来たいと、珍しく我儘を言ったメテルにはこの光景が見えていたのか。タケルはそばにいたベリエットに耳打ちすると、サフィさんに声を掛ける。


「サフィさんお願い!」


返事は待たない。タケルが走り出し、真理も悠衣子も康代も走り出す。加奈は手を上へとあげ、【天罰】の発動を始める。佳苗はサフィさんに向かって魔力強化の札を貼り付け付与をする。

そして子供達を一人、また一人と救出していく女性陣。勇者は近くから奪い取った男の子を盾にしてタケルが近づくことをけん制していた。そんなのは、何もけん制にならないのに。そして勇者はそのことにも気づいていた。

女性陣が子供たちを救出する際には、当然ながら子供達へと凶刃が振り下ろされる、がそれはサフィさんの作り出した障壁が許さない。その光景を歯噛みしながら注意深く観察しているのもまた勇者だ。


「い、いいのか・・・攫った子供たちが、これで全員だと思ったら大間違いだ!隠れ家にはまだ何人か置いてある・・・仲間が殺しちゃうかもな!だから大人しくしとくこった」

「どこまでも・・・卑怯で最低で・・・王にならなくて良かったです。本当に」

「うるせー!無能だったお前が偉そうに講釈たれてんじゃねーよ!俺は・・・俺は王になるはずだったんだ!お前さえいなければ!」

「それで、復讐ですか?なんでか知らないですが、せっかく生き返ったのに・・・」

「びっくりしただろ。処刑前日に仲間の用意した魔道人形と入れ替わったからな。もっとも処刑人も巻き込んでるからよ。ばれるはずねーからな!」


勇者の自分勝手な演説で暴露された協力者の存在。


「それは、調査が必要じゃの『ひれ伏すのじゃ!』」

「ぐっ・・・」


そのタイミングで後ろから歩いてきたベリエットが【支配】を発動させた。しかしそれは中途半端にしか効かず、まだその手元はいつでも動かせるぞとアピールされた。さすがは勇者、といったところか。

真理や悠衣子、康代は子供たちはうまく逃がしたが、元勇者パーティの面々が抱えている子供たちを奪い返すのは少し厳しいようだ。

だがタケルはあまり動じていない。べリエットにはさっきちょっとしたことお願いしておいたから・・・


「ベリエット、何人だった?」

「348人なのじゃ」

「じゃあ・・・サフィさん、いいよ!」

「おう!」


タケルはサフィさんに声を掛ける。そしてサフィさんは元の火竜の姿へと変わっていく。


「何かやるなら皆殺しだ!」


勇者が叫びその手の聖剣に力をこめた。しかしその刃は弾かれる。子供たちを覆う球体の結界が膨らみ、勇者が少しだけ後ろに飛ばされる。元勇者パーティが抱えていた子供達も同様に球体の結界が施され、そしてふわりと浮かびながら安全な佳苗達の元へと戻ってきた。


「ぐっ!いいのか!まだアジトにいるっていってるだろ!」

「いないよ・・・孤児院の子供達は358人・・・さっき残っている子供たちの数は把握した。もう他に孤児院の子供たちはいない。もう終わりだよ。元勇者」


皮肉を込めたタケルの言葉に、勇者の顔は真っ赤に上気した。


「おい、本気でやるぞお前ら!」


その言葉に元勇者パーティの大魔導士カイザード、闘士ザックス、剣闘士アレンが集まる。闘士ドライヤンと盗賊エルディンはもうこの世にはいない。薬師スライアスと商人ミンティアは戦力外であろう。

今持てる最大戦力であろう。そしてそれぞれが懐から出した首輪を装着した。紫の魔力?なんだろう禍々しい光を放ったその首輪・・・【完全鑑定】で視るその首輪は全力の首輪(呪)となっていた。


その鑑定結果に脱力感さえ覚えてしまうタケルは、瞳が真っ赤に充血し、何倍もの魔力を体から漏れ出している元勇者パーティの面々を眺めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る