/// 35.孤児院の子供たち

「くそ!あの男・・・絶対知ってただろ!騙された!てっきり幼女趣味なのかと思ったら・・・聖女だったなんて!」


王都の奴隷商を営む男は、テーブルの上のニュース記事を読み激怒していた。


『聖女降臨!メテル様は英雄タケル様のお手付きか!まさに英雄色を好む!』


内容としては奴隷から解放された聖女がタケルのお手付きになって聖女へ目覚めたという内容であった。多大な誤解を含む記事であったが、今はこういった記事が乱立している状態であった。


「なんでだ!確かにジョブなしだったはずなのに・・・くそっ!折角のチャンスだったんだ!聖女との繋がりができれば、もっとビッグになれるはずだったのに!」


腹立ちまぎれに目の前の記事を丸めて床に投げつける。


「何がタケル様ーだ!今に見てろ・・・アイツの孤児院だってつぶしてやる!あのロリコンクソ野郎!」


執事っぽい奴隷商人は、持てる人脈を全て活用して、タケルの妨害をすることを心に決めたのだった。


それから数週間後、奴隷商人『ノーマン・コネイル』は懇意にしている各ギルド長を屋敷に呼び出し、タケルの孤児院へ嫌がらせをすべく話し合いをすることとなる。集まったメンバーは、タケルにも所縁がある者も含まれていた。


鍛冶ギルド長で元勇者パーティの闘士、ドワーフ族の『ザックス』

薬事ギルド長で同じく元勇者パーティの薬師、エルフの女性『スライアス』

商業ギルド長で同じく元勇者パーティの商人、人族の女性『ミンティア』

錬金ギルド長で錬金術師のダークエルフ『エメルダ』


このメンバーだけでも王都の経済を全てコントロールできてしまう。そんな面子が集まっていた。そして悪だくみをしたそれぞれが、その持てる力を振り絞り、タケルへの嫌がらせを仕掛けるのだった。


鍛冶ギルドではドワーフを中心に、鉱石を発掘して武具づくりを一挙に担っている。ギルドに登録していない鍛冶師にはそれら鉱石はなかなか回ってこないのだ。鍛冶師たちもその鉱石の入手が途絶えれば鍛冶ができなくなるため、孤児院関係者との取引をすることが困難になっていく。


薬事ギルドでは、新たな薬剤の調合レシピの開発、提供、そして調合された各薬剤は貴族や診療所、街の薬剤屋などに卸される。これが滞っては商売が成り立たなくなっていくため、はやりタケル達と距離を置く判断をせざる得なくなっていく。


商業ギルドは独自の情報網により、安全な陸路の確保や他国との橋渡しなど、流通全般を担っているため、商業ギルドに睨まれたら最後、商人としても商いは難しくなるという。ゆえに孤児院に関係した施設関係者たちは、日用品を含む品物の数々が入手困難になっていく。


錬金ギルドに至っては、もともとが一部の貴族、大商人を限定して販売していたが、冒険者ギルド関係への魔道具供給も行っていた。しかしそれらを止め、冒険者ギルドで安価で魔道具がそろえられなくなりことで、冒険者たちも苦労することになる。

それを引き換え条件に、タケルたちの依頼や素材回収を断るように打診された。が、当然それはカルドニーに却下されることになる。


◆◇◆◇◆


教会本部での聖女交代騒動があってから3日、教会は新たな聖女の誕生を大々的に発表していた。

教会本部前に集めれる限りの民衆を集め、本部の二階のに設置されたステージから、聖女・朝倉の体調不良での療養と、新たな聖女・メテルの誕生を告げる。そして新聖女であるメテルが大規模な【範囲回復(エリアヒール)】を行い、その存在感をありありと示していた。

その幼い姿からまさに女神の化身と集まった民衆は魅了されていった。


その日以来、その姿見たさに教会本部には貴族や商人たちの長い行列ができ、お布施はどんどんと膨れ上がっていった。

毎週『月の日』『火の日』はお休みとして『光の日』『精の日』は奉仕活動で、王都中の治療院やスラム街を回っては【範囲回復(エリアヒール)】で人々を癒しまくっていた。それ以外の日が教会本部での個別での回復の日に充てられた。

当初お布施は、極力抑えた金額にしていたものの、貴族たちが毎日教会本部に殺到したため、朝倉がぼったくった時の10倍以上の金額がつけられた。それでもその列は途切れないというのだからすごい人気である。


民衆の人気は最高潮で、教会としてもホクホクであった。

また、聖女のレベルアップ条件の中に、民衆からの支持というのもあると教会のシスターが教えてくれた。そのせいであろう。メテルのレベルは日々急速に上がっており、一月を過ぎたころにはレベルは200を超えていた。

欠損なども直すことのできる【極大回復(エクストラヒール)】、パッシブで悪意を弾く【魂の盾オーラシールド】というスキルが発現したと休みの日に会いに来たメテル本人から聞いていた。

お祝いに竜石の指輪(命)をプレゼントしたのだが、少し恥じらいながら左手の薬指にはめ「ふへへ」とにやけながらその指輪を太陽にかざしてうっとりとしていた。タケルは目をそらし何も見なかったふりをした。


そんな人気の聖女メテルであったが、反面とばっちりを受けたのはタケルであった。『英雄色を好む』というワードが紙面に踊り、毎日のように「ロリコン死すべし」や「王妃に続いて聖女まで餌食に」など、とにかく酷いゴシップ記事が蔓延していた。

一部的確な記事もあったが『5年後に』など、的確な内容だったので「教会関係者からのリークに違いない!」とタケルは思っていた。というかメテルが自分から流しているかも?という予感もあった。

そんな不名誉な噂を忘れるように、タケルは孤児院の子供たちの育成に励んでいた。


希望する子供達にであるが、女性陣が少しづつ養殖プレーを進めていく。希望者のみ、と伝えたにも関わらずほぼ全員が参加することになる。さすが孤児として厳しい生活を強いられてきた子供たち。

このことで人生が切り開かれるということが分かっているようだ。そして冒険者以外の一般人の平均値となるレベル20~30ぐらいになると、同じジョブでも個々の特性がはっきりとしてくる。

特に見込みのある子供には、タケルとサフィさんで一気に下層まで行っては急成長させていた。もちろん希望者にのみであるが、タケルが声を掛けた子供たちは100%の参加率となっている。


「私!毎日タケル兄ちゃんにいっぱい育ててもらったの!もっと頑張ってレベルを上げたら、きっとタケル兄ちゃんのお嫁さんになれると思うの!お嫁さんは無限に広がってるの!」


ヒューマンの女の子、ガネットちゃん7才は、はじける笑顔でそう答えてくれた。


「僕もタケル兄ぃが僕を貰ってくれると信じてる!あの優しい目は僕にロックオンしてたから!タケル兄ぃは何でもイケるってギルドの偉い人が言ってたから!」


猫獣人の男の子、アニャストくん8才は頬を赤らめながらそう語ってくれた。


こんな調子で、タケルも孤児院の子供たちと一緒になってモノづくりを楽しみ、ついでに商売の楽しさでも感じて見ようかな?なんてことも考えていた。最近何かと入手困難なものも多くなってきた、と女性陣や孤児院の職員たちから相談が来ていたので都合も良かった。

子供たちに色々なものを自分たちで作ってみよう!と益々子供たちと過ごす時間は多くなり、とても幸せな日々を過ごしていた。もちろん資材が足りなければ、率先して狩りに赴いたので、それほど不自由はなかった。

とにかく、ロリコン疑惑の現実逃避から始まった孤児院の子供達育成計画は、かなり順調に進んでいるようであった。


それと同時に、タケルの方も毎日少しづつレベルが上がっているようである。朝一で確認すると上がっているレベル。異世界の謎であった。

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