三章 甚大な事をやらかした奴に二度目はない。

第21話

「――リツ、リツ、起きてください」

「んん、てぃか、なに……?」


 やばい、ぐっすり寝てた。

 ティカが体をゆすって起こしてくれた。もう着替えてて、先に起きてたんだと分かった。


「外、外見てください」

「外?」


 何? 外がどうかした? 言われたままに窓に近づいてカーテンを開けて外を見る。

 ――は。


「なに、これ」


 言葉で表すなら地獄絵図。モンスターが道路にいて人を襲っていた。見える限りでは多分血だと思う赤い水と凹んだ地面。そして眠気が覚めた事で段々と外がうるさい事に気づいた。

 悲鳴。悲鳴。悲鳴。街の人の悲鳴が聞こえる。


「ティカ、これいつから……」

「分かりません。ワタシが起きた時にはすでにこの状況でした」

「何が起きてる……」


 呆然するしか出来ない。これじゃ、これじゃ、あっちの世界みたいじゃないか!!

 何か情報、情報はないのか。ああそうだ、ネット! 調べたら何か出るだろ。

 すぐにスマホを取りに行ってニュースサイトを開く。一番上に『人気配信者アキヨ、モンスター召喚』が載ってあった。アキヨ、まさか高坂? あいつ何したんだ!?

 URLを開いて記事を読んでいく。


『人気配信者アキヨ、昨日配信中にモンスター召喚。数時間後モンスターが白楽ダンジョンから放出。街中に甚大な被害をもたらしている。政府はこの事に対し住民に避難を指示している』


 は、はあああ!? 


「あい、あいつ、なに、して」

「リツ、これ……」


 ティカが俺にスマホの画面を見せきた。それは高坂の配信。いかにもやばい本を持って、魔法陣からモンスターを召喚していた。その本なに?! 

 もう言葉が出なくなる、何てことしてくれたんだ。


 ピリリ——


「……電話?」


 額を押さえていたら電話がかかってきた。誰だこんな非常時に。

 知らない電話番号。一応出てみる……。


「ああ!! 夏希律くんだね!? 娘の事で話があるのだが……」

「――アンタか。何の用」


 うっわ。あいつの父親か……。


「秋がどこにいるか知らないかい?! 昨日から連絡がつかなくて……こんな街中モンスターなのと避難誘導中であの子を探しに行けないんだ」

「は? おいアンタ。あの記事は見たのか?」

「記事? ああ見たさ。秋があんな事するはずないだろう?! あの子はいい子なんだ、ああどうしよう……」


 ……いい子? あんなに俺に面倒な事ばっっかりしてきたあいつが???

 こいつ、屑だ。どう考えてもあれは高坂。俺でも分かる。

 娘に盲目的。やるはずないと現実逃避。

 高坂のレベル上げは楽しかった。それ以外は最悪だったけどな!!!!


「そうか。じゃあな」

「ま、待ってくれ! 秋を探してくれないのか!?」

「……さあ? 二度と電話してくるな」


 向こうで焦った声が聞こえてきたけど無視して消す。電源も落とす。これで電話はかけられない。


「リツ、元凶は消すべきだと思います。この現状を止めるにはそうするしかありません」

「人殺しはしたくないんだけどそうも言ってられないよな。はあ……」


 嫌になってきた。折角平和な世界に帰れたと思ったのに。面倒な事が立て続けに起きて、今回に至ってはこの現状。


「リツ……」

「なんか、この問題終わったらティカの世界で暮らしたい。あっちの方が面倒事は少ない」

「……あの方に聞くしかないですね」

「うん……流石に聞いてくれないと困る」


 俺を転移させた神。あいつに頼むしかない。あいつは見守ってるとか言ってたし聞いてくれるはず。というか聞いてもらわないと高坂殺した後俺の居場所がない。

 折角帰ってきたのに。最悪だ。

 アイテムボックスから魔力無効のマントを二枚とティカの杖を取り出して渡す。


「魔王を倒しに行く感じがします」

「分かる。さてと、面倒な事をした元凶を絶つか」


 甚大な事をやらかした奴に二度目はない。絶つしか選択肢はない。

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