第2話

 彼の目が、私をとらえた。

 といっても、私から彼の目は見えていないのだけど。目が合っているからなのか、私の体が動かない。

 バスがゆっくり動き始める。

 彼は、ニヤリと嗤う。


「この先の駐車場で降りて遊園地まで歩くことになったから、バスが停車するまで、ちゃーんと席に座っておくように!」

 担任が座席から声を掛ける。

「どんな事故なんだろうね」

「怖いねー」

 クラスメイトの声が聞こえる。私は彼から目が離せないまま、「そうだね」と相槌をうつ。

 数分くらいしてバスが停車した。

 遊園地の駐車場ではなく、どこかの会社の駐車場を借りているらしかった。

「前から順番に降りましょう。忘れ物ないように席を立ってから確認してー」

 担任の声に、「はーい」とみんなそれぞれに返事をする。

 前から順番に降りていく。彼の姿は見えなくなっているのに動けない。


「どうした? 気分悪いのか?」

 私以外、みんな降りたようだ。

「ちょっと、気分悪くなって……」

「わかった。副担の二宮先生についててもらうから、ここで待っていなさい」

 外で整列したクラスメイトが、二宮先生からの指示を聞いているのが見える。


 二宮先生が入れ替わりでバスの中に入ってきた。

「動ける?」

 私は首を横に振る。

「どうしたのかな。バスは一時的に駐車させてもらってるから、もうしばらくしたら移動しなきゃいけないのよね」

「先生は、幽霊……信じますか」

「え?」

 突然の私の質問に驚いた顔をした二宮先生は、何か考えながら答えてくれた。

「先生の学生時代の友達に、そういうのが視える子がいたから、どちらかといえば信じてることになるかな」

「さっき、城趾しろあとの看板がありましたよね。その少し先で見たんです。落ち武者の幽霊。それから金縛りみたいに動けなくなって……」


 クラスメイトたちは、駐車場から遊園地に向かい始めたようだった。


  


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る