異能の話

友達の話をしましょう

 と、具視は言った。これにはクラス中が驚いた。

「ええ、あなたに、そんな秘密が」

「ああ、これが隠し事だよ。私の」

 クラスのみんながざわざわする。それを見て、具視は少しだけ微笑む。

「いや、本当にびっくりしたよ」

「うんうん」

 クラスは騒然に包まれる。

 クラスには実質、小林地恵しかいなかったのだが。

 今日は風邪で登校しなかった葵という女子生徒が、リモートで参加していたが、今はもう繋がっていないだろう。タブレットの画面は暗い。

 「で、これまでだが。私の話は」

 具視は地恵の机の上を見やると、決意を固めたように言った。

「私は見ていた。毎日」

 地恵はようやく具視の目を見る。

「何をしていたんだ?いや、何をしているんだ?君は」

 地恵は机の上に転がる小石と、ガラクタを見つめる。そして、口を開いた。

「具視ちゃん。これは秘密ってやつだよ」

 具視は頷き、地恵の近くの席に座る。椅子を引く音が黄土色の教室に響く。

「私は、異能を持っているんだ」

 具視は別段驚くこともなく、そうか、と言った。

「ええ、もっと驚くと思ったのだけれど。それこそ秘密にしたいくらいに」

「一緒にいるからかな。葵ちゃんと」

 と理由にもならないことで言い訳した後、「じゃなくて。」と具視は続ける。

「聞きたいんだけど。それがどんな異能で、何をしていたか」

 内容を、その異能の。それを、具視は聞いている。

「記者の皆様、落ち着いてください」

 地恵は相変わらず落ち着いている。

「一人しかいないけどね。皆様という割に」

 外と中を繋ぐ窓から、運動部が運動に励む声が漏れ出してくる。具視は咳払いをし、続けてくれ、と言う。

「私にはね、友達がいたんだ。それはもう、目に入れても痛くないくらいにね」

「そう思ってたけど、痛かったよ。葵ちゃんを目に入れようとした時は」

「危険思想とは、比喩表現を実行に移そうとする思想である。バイ、芥川龍之介」

 私の知るかぎるでは、比喩表現でなく常識と言っていたはずだが。地恵はふざけたつもりがないのか、真面目な顔で続けた。

「では、その友だちの話からしようか」

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