転生失敗して幽霊になったけど自由で無敵! だから弱小貴族の美少女を助けるため、最強国家の聖女に憑依して、裏からいろいろ操るか。
佐々木直也
第1話 来世一生分の過ち
オレ、
──見知らぬカップルの寝室に
(えーっと……ナニコレ?)
眼下のベッドに座っているカップルは、何やらイチャコラしている。オレが空中に浮かんでいることにも気づかずに。
っていうか自分の両手や体を見下ろしてみたら、なんか半透明なんですけど……
そしてスーツの胸ポケットに、一通の手紙が入っているんですけど……
今どき紙の手紙なんて。そもそも手紙なんてポケットに入れてたっけ?
オレは首を傾げながらも、その手紙を広げてみた。
* * *
拝啓 野上遊真様
初めまして。わたしは女神です。
すでにお察しの通り、あなたはお亡くなりになりました。ご愁傷様です。
ですがなんと!
1000万人に一人のチート転生者に選ばれました!
おめでとうございます!!
ちなみにチート転生者の選出はたんなる抽選です。宝くじが当たったようなものだとお考えください。
なのであなたはこれから転生して、新しい世界でチート能力を存分に発揮できます。
立身出世するもよし、お金儲けするもよし、異性を侍らせるのもよし──何をして頂いても構いません。あなたの自由です。
とにかく、新しい世界で好き勝手に大活躍してください。
わたしたち神々は、あなたが世界のカンフル剤になることを望んでいます。
ということで転生方法ですが、今は見知らぬカップルの寝室に浮かんでいますね?
そのカップルが、来世のご両親です。
そして夜の営みが始まったら、あなたは母親の子宮にダイブします。
転生作業はそれだけです。
それだけで、あなたは輝かしい来世を謳歌できることでしょう。
ぜひ来世を自由奔放に楽しんでくださいね!
かしこ
* * *
(だから……ナニコレ……?)
まったくもって意味不明な手紙に──いや日本語で書かれているから意味は分かったのだが、これだけでは状況がまるで分からない手紙に、オレは戸惑うしかなかった。
仕方がないので分かることをまとめてみるに、オレは交通事故で死亡し、そして半透明で宙に浮かんでいるということは……
(つまりオレは、幽霊ということか?)
さっきから独り言をつぶやいているのに発声できてるふうでもないし。
幽霊になってしまったから眼下のカップル、改め来世の両親は、オレに気づかないのかもしれない。
オレはベッド脇に近づいて(近づこうと思ったら勝手に動けた)、来世両親の目前で手を振ってみたが、気づく様子はまったくなし。
気づくどころか、来世父は、来世母の服をいよいよ脱がし始めたではないか……!
(こ、これは……!)
来世の両親だと言われたって、現時点では赤の他人でしかない。そんな他人が、オレの目もはばからず情事に耽るということは……
その、なんだ……
それはあたかも、えっちぃ動画の中に入って、肉眼で鑑賞するようなものなのでは!? VRどころの騒ぎじゃないぞ!?
なのでオレは思わず生唾を呑み込んで……そして、気づく。
(あ、あれ?)
オレは、自身の下半身を見た。
(お、おい……どうした……?)
さらに戸惑う。
(おい
いま目の前で、想像の遙か上を行く営みが展開されようとしているのに!
だというのにオレの息子は、ピクリとも動かないんだが!?
(あ、そうか!)
そうしてオレは、まるで雷鳴に打たれたかのような衝撃を感じて、悲鳴を上げる。
(幽霊だから生殖機能がないのか!?)
それはなんの裏付けもない予想に過ぎなかったが……オレは確信していた。
だって、そりゃそうだよね。
幽霊に生殖機能があったら、それはもはや幽霊じゃないよね?
(そ、そんな……馬鹿な……)
急に膝から力が抜けたかと思うと、オレは床に四つん這いになった。がっくりと。
(確かに最近は、息子に元気と勢いがなくなってきてたけど……でも……でも……時間をかければまだ大丈夫だったんだ!)
大粒の涙が数滴、床に落ちる。
(だというのに、死んじまったら不能になるなんてあんまりだ……いや、死んだら不能になるのは当然か?)
絶望しながらも首を傾げていたら、ベット上から甘い声が聞こえ始めた。
うう……こんな状況で、あいつらと一晩一緒にいろというのか……
これはもはや、えっちぃ動画鑑賞から一転、イチャついているバカップルを、ただひたすら見るという拷問に等しいだろ……
(はぁ……行為が終わるまで避難しよ……)
子宮にダイブするということは、つまりそこに宿るであろう命にオレが乗り移るということなのだろうから、行為が済んで寝静まった後に、こっそりと乗り移ればいいや……
ということでオレは、意気消沈して寝室を後にするのだった。
この判断が、来世一生分の過ちであったことにも気づかずに。
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