第19話 跳躍と放電


 ふぁぁぁ


 僕はまだ日が登る前不意に目が覚めた。2人は毛布にくるまって寝ている。


 辺りは深夜なので当然暗い。だが寝ている間に嵐は過ぎ去ったようで、小雨が木の葉にポツポツと落ちる音が洞穴の中で小さく反響している。


 昨日は魔力を温存して戦闘することができた。そして新たなスキル『居合』も習得した。

 攻撃手段が賢者の腕サージュボーンだけではいけないと前から思っていたので、付け焼き刃ではあるがその手段が増えたのはいいことだ。


 今日中に依頼の魔獣サンダーグリフォンの討伐を終えて、早ければ夕方には帰路に着くのが、今のこのパーティーのタイムスケジュールだ。


 

 今はまだ早朝で行動開始の時刻ではないため、二度寝することにした。


 

 「ほら起きて、もう朝よ!」


 「まだ寝かしてくれてもいいのに…」


朝からとても元気なユイが、ティエリと僕をゆさゆさと揺り動かして起こそうとする。ティエリはまだ寝足りなそうで不満を言っている。案外朝が弱いのかな?


 僕は二度寝を試みたものの、あまり寝付けていなかったのでスッと起きることができた。


 

 朝ごはんに持ってきたパンの上に焼いたベーコンを乗せて食べた。


 「ティエリまだ眠いならもうちょっと寝てもいいんじゃない…?」


「ん…」


 僕の問いかけにティエリは眠たげに首を横に振って返答した。


 ティエリは今日は特別寝起きが悪い日みたいで、ユイにもたれかかって体重の半分くらいを預けながら朝食を摂っている。



 朝日が登ってすっかり周囲が明るくなった。雨も止んで雲は残っているが晴れ間がのぞいている。


 「そろそろ出発しましょうか」


「鳥をとっとと狩ってとっとと帰るわよ!」


ティエリはもう眠気が残っていないようだ。すっかりいつもの様子になっている。ユイは朝からずっとテンションが高いなぁ。


 

 また昨日と同じように坂道をずっと歩く。だがいつのまにか周りの木が少なくなってきた。それと共に視界も開けてくる。


 そして僕たちはついに山の尾根に出た。木はほとんど生えておらず、視界を遮る物はというと、ところどころに大きな岩が落ちているくらいだ。


 「すごい見晴らしがいいね!」


 「地図によるとこの道のずっと先に見えるのが城郭都市『ライヌ』みたいです」

 

 「ライヌの別名は穀倉都市とも言われていて、ご当地の見たことないパンがあるらしいわよ!」


 ユイの食べ物への情熱はとてもすごいと前から感じていた。


 キュオオオオオッ!

 


 都市ライヌについて思いを馳せている途中に突然、獣の咆哮が山の尾根に響いた。


 「なんだ…この音!」


「私たちどうやら見つかったみたいね!」


 2つの都市を結ぶ道のちょうど真ん中あたりで討伐目標と相対すこととなった。


 僕たちは大きな咆哮の主を探す。しかし周りにはいない。

 されど次第にその音が大きくなっていることに気がつく。

 

 真上を見上げるとそこに奴がいた。


 上空を旋回しているのは猛禽類の頭と翼を持ち、獅子の強靭な身体を持つキメラ魔獣『サンダーグリフォン』だ。

 頭には一本の雷の魔元素を帯びたツノが生えている。


 視線をこっちに向けてまるで睨んでいるようだ。しかしあっちから仕掛けてはこない。今は様子見をしているのか?

 

 「昨日は何もできなかったので、今日は全力をださせてもらいます」

 

 昨日は森の中で魔法を使用することができなかった為、魔力が有り余っているティエリが杖を空に掲げて唱える。


 『多弾小火球マルチファイアボール


 ボボボボボッ!


 ティエリの周りから発生した無数の炎の球が、サンダーグリフォンに向かって放たれた。


 サンダーグリフォンも向かってくる攻撃を前に、様子見している訳にはいかないようだ。動きを見せる。


 「なんか一直線に向かってきてるような…」


 「見ての通りね、まあ作戦通り行くわよ!」


 体に命中した炎の球など意にも介さず、直滑降してこちらに突き進んでくる。


 しかしここまでは、昨日の夜に話し合って決めた作戦通りだ。第一段階はティエリの遠距離魔法で制空権を取ること。

 

 そして第二段階はユイの役割だ。ユイは剣を抜いてスキルを発動した。


 『身体強化フィジカルブースト』っ!


 ユイは真上に7メートルほど飛び上がった。

 魔力を脚に纏って重点的に強化しているように見える。


 サンダーグリフォンもまさか人間が、ここまで跳躍してくるとは思わなかったようだ。


  「砕けろーっ!」


 降下途中で反応が遅くれたところを、ユイがツノを狙って剣の一撃を振り下ろす!


 ガキンッ!バリバリバリッッ!


 剣とツノが触れた瞬間凄まじい放電が発生した。


 「うぎゃあっ」


 「ユイっ!」


 ユイは不意の放電を喰らって空から落ちてきた。

 僕は走って受け止めに行く。


 ボスンッ


 うぐっ、セーフ…なんとか間に合って受け止めることができた。


 「いたたたた、ナイスキャッチよリュウシン…あの鳥絶対許さない。晩飯の焼き鳥にしてやるわよ」


 ユイはまだまだ動けるみたいで、すぐに立ち上がって怒りを露わにしている。すごい頑丈だな…


 サンダーグリフォンは体勢を立て直す為に距離を取る。再び上空へと戻っていった。


 「ツノを攻撃したら自動オートの電撃防御があるなんて…報告書に書いておきなさいよ!だけどもう一撃で折れるわねあれは」


 討伐作戦の第二目標は雷を発生させるツノを折って、戦闘力を削ぐことだったが失敗に終わった。


 「ならばこうしましょう」


 ティエリが新たな作戦を僕とユイに伝える。


 

 第19話 完



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