第19話

「~~~!!」


「……食べすぎじゃない?」


「全然。もっと欲しい」


 それから、彼女──ネヴァはお菓子の虜になった。

 

 一口目にクッキーを食べたその瞬間彼女の目が大きく開かれ、それからがっつくように残りのクッキーを食べ始めた。

 その後袋の中には他の種類のお菓子もあったが、それら殆どを食べつくしてしまった。


 そして今、最後のお菓子を食べ終えたところである。


「……こんなに美味しいもの、初めて」


「まぁ、ここじゃ甘いもの食べれないもんね」


「街に言ったらもっと食べれる……?」


「まぁ、そうなんじゃない?」


「はぁ~~……!!」


 目を輝かせる14歳の少女ならぬ幼女。本当に見た目相応の反応を見せてくれる。

 やっぱり魔王と言うのは嘘なんじゃないだろうか。


 現にスバルの方を向けば、幸せそうなネヴァを見て笑顔になっている。例えるなら子供を見守る親みたいな……そんな笑みだ。


 すると彼女は突然僕に向かって手を上げてきた。


「街行きたい!!」


「……」


 幼女じゃん、まんま。


 こんな笑顔で頼まれたら断れないじゃん。


「……はぁ」


 まぁ、彼女が街で普通に出歩いていたら……大騒ぎ間違いなしだな。

 なんせ、恐怖の対象だし。


 あ、でも僕には感じ取れないけど、魔力を抑えれば──行けるのでは。


「スバル」


『お、なんだご主人。今ネヴァの姐さんを見るのに忙し──』


「ネヴァから放出している魔力って結構大きい?」


『お?そりゃあ大きいぞ?普通の人間が直に浴びたら気絶するんじゃね?最悪死ぬかも』


「この魔力の放出って抑えることできないかな?」


『ん~……まぁ、本人の努力次第──まさかご主人』


「うん、一度くらい、いいんじゃないかな」


「ん?ハルキ、どういう事?」


 と、僕らの会話が気になったのかネヴァが僕に聞いてきた。小さな顔をコテンと傾かせて。これじゃあ完全に幼女だよ。魔王の威厳なんて一ミリもないじゃん。


 ま、まぁそれは置いておいて……。これくらいなら話してもいいかな。


「今度ネヴァを城下町に連れて行こうかなって」


「っ!!!!」


 僕がそう言うと彼女は案の定、過剰に反応した。そして一体彼女は何を想像したのか、ニヤニヤが抑えきれない状態になってしまった。


「行きたい!!」


 彼女は大声でそう叫んだ。それは心からの叫びなのか──いや、その通りだろう。


 彼女は12歳になるまで一度も街に行ったことが無いのだとか。まぁ当たり前か。


 とにかく彼女はそう言った未知を体験してみたいと言う気持ちで溢れているのだろう。

 しかしそんな彼女とは裏腹に、スバルが微妙な表情をしていた。


『……ご主人』


「ん?」


『……魔力はどうするんだ?』


「だからそれは──」


『どう抑えても漏れるぞ、魔力』


「え、そうなの?」


 スバルのその言葉に真っ先に反応したのはネヴァだった。


「スバル、私頑張って抑えるから」


『いいや、その膨大な魔力を抑えようとすると、壊れちまう』


「でも──」


『だったら姐さんはご主人くらい、魔力が全く漏れないようにできるか?』


「……無理」


『だろ?魔王の魔力ってだけで異質なのによぉ……それが少しでも漏れてみろ、すぐに殺されるぞ』


「……」


 そのスバルの言葉に納得したのか、彼女はさっきのテンションとは一転してだんまりとし、沈んでしまった。

 それは最早絶望に近いところまで来ていたようで──


「っ!?」


 彼女の目から涙が溢れた。


 14歳。しかし心はどうなのやら。


 仲間は魔獣だけのこの状況で何年も、同族もいない孤独な日々。


 何かしようとするとすぐに殺されそうになる。それも、こんな大量の人数によって。


 そんな、なにもない日々が変わろうとしていたのに、もうすぐと言うところでそれは粉々に砕けてしまった。


 希望を見出そうとしていたのに。


「……」


 彼女の感情を正確に読み取ることは今はできない。が、それでも魔力を感じない僕でもわかる。彼女の深い、深い悲しみが。


 僕は自然と彼女の手を握っていた。


 果たしてそれは慰めのつもりだったのか僕でもわからなかったけど、それでも何故か体が勝手に動いていたのだ。


 その時だった。


「「っ!?」」


『は!?』


 僕とネヴァを中心に突然竜巻が生まれた。

 

 その竜巻は僕がよくテレビで見たようなものじゃなくて、少しだけ紫色を帯びている、不思議な竜巻だった。


「っ!」


 そしてネヴァと繋いでいたてのほうからが流れてき始めた。

 それはネヴァも感知したようで、その表情はさっきまでの悲しみの表情とは違って今は驚きに満ち溢れている。


 しばらくすると、竜巻は収まり、さっきまでと変わらない風景を取り戻した。


 そしてスバルがこっちに向かってきたが、ネヴァはそれに気づかずに自分の手を見つめながら呆然としていた。

 スバルもこっちに来てすぐ驚愕の表情でネヴァを見ていた。


『お、おい姐さん……』


「う、うん……魔力が、


「え?」


 僕は思わず聞き返してしまった。


 魔力が、ない……?


「ど、どうして?」


『一番に考えられるのは、ご主人が吸い取ったってことだけど──ご主人、何か感じるか?』


「え……?えっと、ちょっと待って」


 僕は彼の問いに答えるために目を閉じた。そしてまずは体の周りから何か感じないか調べることにした。


「っ!?」


 すると左腕に何か違和感を感じた。なんかもやもやした、気味悪いけど不思議と温かい、そんな違和感が。


「……」


 僕は自然と左手のひらの真ん中を押した。


「「っ!?」」


『なっ!?』


 その瞬間、さっきの竜巻が今度は僕を中心に発生した。



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