第43話 大魔王、奥の手を使う





 時はわずかに遡る。



「あー、くっそ。ちくちく異空間の壁を削るのも飽きてきたなー」



 封印された俺は、少しでも早く脱出するために内側から破壊活動を行っていた。


 感覚で言うとコンクリートの壁をスプーンで削っているようなものだ。


 正直、超地味でつまんない作業である。


 外側からなら物理的にも魔法的にも破壊することは誰にでもできるだろうが、内側からは本当にしんどい。



「不幸中の幸いは、座標が変わってねーことだよな」



 もしも俺を封印したものをキーラが持ち運んだりしていたら、その都度座標が変わって異空間を削る作業は難航を極めた。


 いや、もしかして運べないのか?


 俺なら人が来るかも知れない校舎裏に放置したりせず、地面に埋めて隠す。


 それをしないってことは、封印後にそこから動かせないアイテムだったのだろうか。



「ん?」



 ふと、違和感が生じる。


 空間そのものに歪みが生じたようだった。



「外側から誰かが封印を壊そうとしてる? 誰だ?」



 少なくとも俺の分身体ではない。


 しかし、ラッキーだ。


 この封印は内側からは壊しにくく、外側からは壊しやすくなっている。


 こうやって、歪みに魔力を無理矢理流せば……。



「よし!!」



 パリンッ、という硝子が割れるような音と共に俺は封印から脱出した。


 場所は変わらず校舎裏。


 そして、ふと足下を見ると今にも死にそうな青白い顔をしたウンコ先生の姿があった。



「うお!? だ、大丈夫か?」


「な、何故貴様が……。決闘場の方へ魔力が流れているみたいだし、てっきり、結界を維持する魔導具かと思ったのだが――ぐっ」


「ちょ、腹に穴空いてんじゃねーか。待ってろ、今すぐ治癒魔法をかけてやるから。うーわ、毒まで食らってんのか。いたそー」


「うぐっ」



 痛みに悶えるウンコ先生を適当に解毒し、傷を塞いでおく。


 失った血は戻らないため、しばらくは貧血との戦いだろうが、これで命に別状は無いはずだ。



「取り敢えず医務室に運ん――」


「私のことは、いい!! 早く決闘場へ行け!!」


「ん? あ、そうだった。なんか起こってんだよ

な?」


「あ、ああ。だから早く!!」



 俺は少し迷ったが、ウンコ先生を校舎裏に放置して決闘場へと向かうことにした。



「生徒たちを、頼む。Aクラスだけじゃない、他のクラスも……」


「言われなくても分かってるって、ウルコ先生」


「……普通に間違えずに呼べるなら最初からそうしろ、魔王め……」



 そういうわけで、俺はダッシュで決闘場に向かった。


 すでに俺の分身体が先に到着しており、ヒビが入った結界を叩き壊して無理矢理その中へと侵入してみた。



「すまん、封印されてたわ」



 笑いながら誤魔化すと、分身体がぶっきらぼうに言う。



「また油断しちまったのか」


「はは、何のことだか。それより、あの触手の化け物はなんだ? 魔王より魔王っぽいぞ」



 俺の問いに答えたのは分身体ではなく、アルテナティアだった。



「女神クリシュによく似た何かだ。妾の神気から奴の情報を抽出し、そこから作り上げたコピー品。模造の神とでも言うべきであろうな」


「へー、そんなことができるのか。やっぱ魔法は奥が深いなあ」


「して、超高速で再生する奴を殺すには、妾では火力が足りんらしい。一撃で蒸発させる必要がある。お主、妾以上の火力を発揮する奥の手があるのであろう? あれを何とかする許可をやろう。早々に仕留めるが良い」



 相変わらず上から目線な物言いだ。


 しかし、まさか分身体の奴、奥の手のことをアルテナティアに話したのか。


 まあ、アルテナティアでも倒し切れないとか事態が事態だし、女神は俺にとっても絶対殺したい相手だし、仕方ないだろうけども。


 問題は奥の手を使った後だ。



「アルテナティア」


「なんだ?」


「奥の手を使ったあと、間違っても俺と戦おうとか言うなよ」


「……ふむ。使ったらしばらくは弱体化するような代物なのか?」


「まあな。第二形態ほど疲労はないが、普通に弱くなる」


「ならば心配せずとも良い。妾はやるなら万全のお主と戦いたいからな」


「こっちは微塵も戦いたくねーよ」



 しかし、言質は取った。


 俺は分身体を統合し、奥の手を使う前段階の奥の手を使う。



「――耐性変換」



 これはデメリットがあまりにも大きすぎるため、ここ数千、数万年は使ってない【人】の権能を用いた奥義。


 自身が得た耐性を全てエネルギーに変換してぶっ放すだけの、シンプルな攻撃だ。


 人間は得た知識や技術をアウトプットすることでものごとを成し遂げる。


 この技はそれを体現したようなもの。


 あらゆる耐性を完全に失ってしまうが、その火力は国を一つ滅ぼしかねない威力だと自分では思っている。


 俺は復活した女神モドキに狙いを定め、放つ。



「――人生砲、発射」



 名前はダサいと自分でも思う。


 しかし、その威力は絶大なものだった。


 大地を抉り取るような極太の光線が女神モドキに向けて放たれる。



「ア゛ア――」



 女神モドキは断末魔の叫びを上げる暇も無く、この世界から消滅した。


 ……ふぅ、これで終わりっと。



「……そんな、馬鹿な……」


「あれ、学園長じゃん。何してんの?」


「有り得ない……有り得ないです!! こんな、こんなことあるわけがない!! 女神様が魔王ごときに負けるなど!!」


「ん?」



 俺は微かな違和感を感じ取って、学園長に成りすましている何者かを言い当てる。



「お前、ドラン先生か?」


「っ、な、何故……」


「いやー、かなり高度な変身魔法だな。本物同然、というか本物の皮を被るような魔法か」


「全て、お見通しというわけですか」



 学園長になりすましていたのは、俺にFクラスのの生徒をよろしく頼むと言った女性教師、ドラン先生だった。


 今の彼女にはおどおどしている雰囲気が無い。


 学園での彼女の振る舞いは全て演技だったのだろうか。



「ふん、バレたなら仕方ないですね。そうですとも。ですが、ドランというのも幾つがある名前の一つに過ぎません」


「ふーん。で、キーラはどこだ?」


「彼女はもうここにいませんよ。真なる女神の復活と偽りの女神の戦いを記録した映像を持って、今頃いたるところを駆け回っているので」



 ん? どういう意味だ?



「ほう、妾の正体が魔王だったと世界中に知らせるつもりか」


「ふふふ、鋭いですね。その通りです。まあ、都合の悪い部分はこちらで編集しますがね」


「うわ、汚えっ」


「では、私はこれで失礼しますね」



 そう言って転移魔法を起動しようとするドラン。



「おいおい、逃げるのか? うちの生徒を誑かしておいて?」


「キーラは元々我々と志を同じくする仲間です。追いかけてくるならどうぞ?」



 そう言って、ドランはどこかへ転移した。


 俺はドランを追いかけない。


 というか、追いかけることができない。


 何故なら今の俺はクソザコだから。


 長い年月をかけて付けた耐性を人生砲のエネルギーに変換してしまったので、今の俺の耐久性は人間と同程度なのだ。


 こんな状態で追いかけようものなら返り討ちに遭いかねない。


 俺はそこまで馬鹿じゃない。


 それに何より……。



「ぐっ、うぅ……」



 俺の身体が縮む。


 身体から大量の魔力を失ったのだ。


 一時的に、俺の肉体は保有する魔力量に適した身体へと変換してしまう。



「はあ、はあ、うぅ、やっぱ慣れねーな、これ」



 俺は大人の姿から、十歳くらいの子供になってしまうのであった。





――――――――――――――――――――――

あとがき

「まさかの展開」「美少女になったり子供になったり忙しい魔王だな」「続きが気になる!!」と思った方は感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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