第6話 大魔王、トランスフォームする






(な、何を考えておるのか分からん!!)



 ヴェインの正直な感想である。


 事の発端は、魔王シュトラールのダンジョンへ不可侵条約を結びたいという意志を伝えるために使者を送ったことだった。


 しかし、何故か魔王が城までやってきた。


 それもかなり気楽に、まるで親しい友人へ会いに来るかのように。


 精鋭中の精鋭である帝国騎士団が総出でヴェインの警護しているにも関わらず、今にも鼻歌を歌い始めそうなくらいの緊張感の無さだった。


 国王として読心術を心得ているヴェインだが、その魔王からは何も読み取れない。


 まるでその場のノリと勢いで生きているかのような、ぶっちゃけ何も考えていなさそうということしか分からなかった。



(なるほど、これが魔王か!!)



 表情から思考を読み取らせない。魔王のポーカーフェイスは一流そのものだった。


 しかし、ヴェインとて一国の王。その程度で動揺するほど政治経験は浅くない。



「シュトラール殿。友好条約を結びたいと仰ったが、それ自体は可能だ。しかし、貴殿の言うように観光を許可することはできぬ」


「なんでだ?」


「我が国の法では、外国人の滞在期間が限られておるのだ。観光自体も、帝国人の血に外国人の血が混じらないように」


「む、そうか……」



 ヴェインとしては、これを譲ることはできない。


 長年にわたって国を統治してきた法を蔑ろにすることは、国そのものを否定することに繫がる。


 ここに例外があってはならないのだ。


 いくら相手が魔王と言えども、ここで引いては属国に侮られ、国が傾く。


 ダンジョンから採れるレアメタルや魔物の素材は魅力的だが、その条件では断らざるを得ない。



「なら、仕方ないな」



 シュトラールが、どこかがっかりしたように項垂れる。


 その様子は本心から残念に思っているようで、まるで子供から玩具を取り上げたかの如く胸がチクリと痛んだ。



(まさか、本気で我が国を観光したいだけだったのか?)



 いやいや、それはあり得ない。魔王が人間の国を見たいなんて……。


 そこでヴェインがハッとする。


 そうだった。

 この魔王は人類に対しての造詣が深いのであった。


 純粋な興味なのか、あるいは他の思惑があるのかは分からない。


 しかし、ここで帝国の国力を見せつけることができれば、今後魔王と取り引きをする上で有利に事を進められるかも知れない。



「コホン。あー、シュトラール殿。実はちょっとした抜け道があってな」


「ん? 何々?」



 ヴェインが指をちょいちょいと動かすと、シュトラールは耳を貸した。



「留学という形でなら、我が国に留まることも出来ようぞ」


「留学?」


「うむ。我が国は優秀な人材を常に求めておるからな。帝都の学園には、毎年各国の才ある若者が集まっておるのだ」


「……なるほど。学園か……」


「ただ、問題は先日の放送事故げふんげふん。ちょっとしたトラブルのせいでシュトラール殿の顔が世界中にバレていることなのだが……」



 ヴェインの言葉に、シュトラールが頷く。



「大丈夫だ、問題ない。これでも魔王だからな。姿形を変えるなんて朝飯前だ。トランスフォーム!!」


「!?」



 次の瞬間、シュトラールが禍々しい魔力で己の身体を覆う。


 それは漆黒の繭のようで、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。


 そして、その繭が破られる。



「どうだ?」


「お、おお……」



 中から姿を現したのは、女神の如き美貌の少女であった。


 元の姿は平均的な少年の背格好だったが、今はまるで違う。

 すらりとしたシルエットと、女性にしては長身なアリアよりも更に高い身長。


 髪は艶のある黒髪で、瞳はブラックダイヤモンドを思わせる輝きを放っていた。



「そこそこイケてるだろ?」


「う、うむ。女神クリシュを思わせる美貌だ」


「それは魔王への褒め言葉にはならないぞー」



 その時だった。



「な……なん、だと……?」



 今まで沈黙していたアリアが、少女と化したシュトラールを見て目を見開いていた。


 ヴェインが娘に問う。



「アリア、シュトラール殿のこの姿がどうかしたのか?」


「あ、い、いえ、なんでもありません、お父様」


「そうか? とにかく、シュトラール殿。その姿であれば問題はありますまい。先程の友好条約の件、我々が学園へ留学という形で貴殿を迎える、という条件で良いだろうか?」


「オーケー。なら、こっちはレアメタルと魔物の素材をいくつか輸出するってことで」



 あれよあれよと書類が作られ、正式な締結は数日後ということで双方が合意。


 魔王シュトラールとフレイベル帝国は不可侵条約と友好条約を同時に結ぶこととなった。



「ところで、『深淵の扉』……シュトラール殿のダンジョンは国という認識で良いのだろうか。その場合、国名はどうすれば?」


「ああ、良いぞ。配下は数がいるし、国って言っても大丈夫だろうしな。国名は……そうだなぁ」



 シュトラールが首を傾げて、指をパチンと鳴らす。



「シンプルに、アビスゲイト国で行こう!!」



 こうして、大魔王シュトラールはフレイベル帝国の帝都にある学園へ、少女の姿で通うこととなった。







――――――――――――――――――――――

あとがき

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