「4バズり」運だけはいいみたいです

 ──ミミックはどれだ!?

 ──落ち着いて考えるんだ!

 ──こういう時だいたい右のやつが正解だよね


 予想、注意、各章のないアドバイス。とにかくコメント欄が盛り上がりを見せる中、私は意を決して三つある宝箱のうち一つを選んだ。──真ん中の宝箱だ。


「……では、開けます」

「ワンッ!」

「へぇっ!?」


 宝箱に触れようとした瞬間、抱えていたワンちゃんが吠えた。顔がめちゃくちゃ怖い。


「な、なんで……」

 ──野生の勘的に駄目なのでは?

「そ、そういうことなの?」


 よくわからないが、私もこの宝箱を開ける気にはならなくなってしまった。さてどうしようかと考えていると、ワンちゃんがまたもや宝箱に反応した。何やら一番右端の宝箱の方を見ており、くぅーんくぅーんと鳴いていた。


 ──野生の勘を信じろ

 ──やってみせろよマフティー!

 ──なんのアテもないよかマシだ


 コメント欄もワンちゃんの意見に従えと湧いていた。私はこの熱気にのせられ、思い切って宝箱に触れた。──なんとも、ない。


「……開けます」


 ドキドキ、ドキドキ、ガチャ。

 五月蝿い心音に混ざるかのように開いた宝箱。そこから危険なトラップが作動するような様子もなく、ましてやミミックであるような様子も伺えない。


「た、助かった……」


 ──おめでとう!

 ──なんとでもなったじゃねぇか!

 ──「ガッツさんが投げ銭しました《77777》」ラッキーセブンだっ!

「皆さん、ありがとうございます!」

 ──おっ、ポーションが3つ入ってるぞ!


 コメント欄から教えてもらい、私は宝箱の中を覗いた。そこには確かに瓶に入ったポーションが三つ、しかもこれは中層部でしか手に入らないハイポーションだった。


 ──運がいいなぁ、売ってもかなりのお金になるぞこれ

 ──おもしれー女じゃねぇか

 ──「ゾウさんが投げ銭しました《10000円》」ナイス!


 私はなんだか嬉しくなってしまった。こんな場所で素直に笑っていられるのは、本当にどうかと思うが。


「くぅーん」

「そうだ、君の傷を治さなきゃ」


 ポーションの内一本を開け、地面に寝そべるワンちゃんにかける。するとすぐさま傷が治っておき、ワンちゃんは元気に飛び回った。


「あっ、君の名前どうしようか……」


 ──サーチをもじってサッチとかどうよ


「あ、安直……でも、いいね!」


 私はサッチを抱きかかえ、再び立ち上がった。スマホを見ると視聴者数がえらいことになっており、普段の座間さんの動画の倍はバズっていた。これなら、彼女も文句は言わないだろう。


「やっと、帰れる……」


 ホッとした私は、来た道を戻るように歩いていく。すると先程の通路が見えて、私はそこに踏み出そうとした。──その時だった。


「うわぁあ、助けてくれぇえ!」


 逃げ惑う男がひとり見える、次の瞬間その男は火達磨になった! ブスブスと燃えていくそれを見た瞬間、私は一気に背筋が凍りついた。


 ──待って、今のZAKUじゃね?

 ──ホントだ、『アベンジャーズ』のKAZUだ!

「えっ」


 私はその名を知っている。

 泣く子も黙るダンジョン配信者集団『アベンジャーズ』。五人の戦士から構成されるその集団は、過去に一つのダンジョンの最奥へと至り、主を討伐したという動画で大バズリしたのである。──KAZUとは、『アベンジャーズ』の前衛バーサーカーだった。実力も折り紙付きのはずなのに。


(それが、あんなにあっさり……!)

「だっ、駄目だDOMAN! KAZUがやられちまった!」


 こっそり顔を出すと、そこには名だたる配信者たちが居た。しかし動画で見るようないつもの覇気や余裕は感じられず、ブスブスと燃えるKAZUさんの死体を見る目は、恐怖に満ちていた。


(中層部なら単独で戦えるような人たちを、こんなにあっさり……!)


 どんな魔物がやったんだ。怖いもの見たさに抗えず、私はその魔物の全貌を見た。

 そこに居たのは、とても大きな白い魔狼だった。


(フェンリル……!)


 コメント欄がザワつく中、私はその場にへたり込んでしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る