悪役転生(ただし本人に原作知識は無い物とする)

@Georges

プロローグ

第1話

「では、ブラックドラゴンの討伐を祝して乾杯!」


 男の声に従って、酒場の中に居た数十人の男女が意気揚々とジョッキを掲げて乾杯の声を上げた。


 特に礼儀も決まっていない冒険者の打ち上げとあって、途端に各々が好き勝手に散らばって、ある者はテーブルに所狭しと用意されている食事に舌鼓を鳴らし、ある者達は早くも飲み比べだと喧嘩腰に睨み合い、そしてまたある者は気のある女をナンパしているようだが、俺は色気より食い気、花より団子と、黙々と料理を口に放り込んでいた。


 すると、不意にぽんと肩を叩かれる感触を得て、骨付き肉を口にしたまま俺は振り返る。


 相手は今回のブラックドラゴン討伐に当たって総指揮官の役割を務めたパーティーのリーダーで、乾杯の音頭を取った男だった。筋骨隆々で背丈は二メートル近い三十路絡みの禿げ頭だが、身に纏う雰囲気は温和で、頼れる男という印象を抱ける。そうでなければ山賊の親分にしか見えないだろうが。


「よう。今回はすまなかったな、ロック」


「別に、あんなもんだろ、新人じゃ」


 今回のブラックドラゴン討伐は、複数のパーティーが協力するレイド戦に不慣れな新人達への教育という側面があったのだが、自信過剰なお馬鹿さん達が先走ったりヘマしたりしてくれたおかげで現場が混乱し、保険に雇われていた俺はそのフォローに駆けずり回る羽目になるわ、挙句の果てにブラックドラゴンの討伐自体も最終的には俺がする羽目になり、提示されていた報酬では到底割に合わないだけの仕事をさせられたが、一度引き受けた仕事な以上、割に合わないと言って放り出したら信用問題なのだから、きっちり仕事をするのは当たり前だ。


「ボーナスは期待できるのか?」


「ちゃっかりしてるぜ。配分はギルドが決めるが、まあ、ヘマした新人パーティー連中の報酬を差っ引いてお前に回す事になるだろうよ」


「ならいい」


「それより、今度こそ本気で考えないか?」


「またか? 俺はソロが気楽でいい」


 この男からは、先月この町に到着してすぐの頃にも自分のパーティーに加われと勧誘を受けているのだが、俺は前回と同じ回答をした。


「そういう話なら私たちを差し置いてするのは止めてもらいましょうか、ゴンズ」


 背後からにゅっと伸びて来た腕が俺の首を絡め取り、後頭部に柔らかい感触を得て、俺はその正体に当たりをつける。


「ちっ、ゲルダも狙ってやがったのか」


 俺を抱きしめているこのゲルダという女も、ゴンズとは別のパーティーのリーダーで、胸元が大胆に開かれた衣装を華麗に着こなす巨乳で美女な魔法使いとして、以前に近場の街でも名前を聞いた事がある、そこそこ有名な二十代前半の女だ。


「やめろやめろ。こんな阿婆擦れの所に行ったら、体のいい男娼扱いされて、せっかくの腕前が錆び付くだけだぞ」


「あら、若い男なら女を抱いてこそ磨かれる物もあると思うわよ。あんたこそ、最近とある娼婦に入れ込んでるらしいけど、体のいい財布扱いされてるのが分からないのかしら?」


「ミーナちゃんはそんな阿婆擦れじゃねー! あの子は純粋で良い子なんだよ!」


 いや、それは多分弄ばれてると思うぞ、と俺も思ったが、男の情けで口にするのはやめておいた。


 過去に何かあったのか知らないが、この二人は仲が悪い。会えば目線で火花を散らして口喧嘩している姿しか見た事はなく、特に自分のパーティーに加えたいらしい俺を挟むとそれがいっそう顕著になる。


「そういやお前、聞いてなかったけど幾つなんだ?」


「もうすぐ16になる」


「って事は今はまだ15歳かよ。見えねぇ上に天才すぎるだろ。本来なら『学院』に入学する年齢じゃねぇか。それが既にゴールド級とかマジか」


 前代未聞という程ではないが、時代時代に数人居れば良いというレベルのレア物であるには違いない。


「この脳筋みたいに女に騙されたりしないよう、今の内に女を知っていた方がいいわよ?」


 ぴきっと青筋を作るゴンズなど知らん顔で、「今夜どう?」と耳元で囁かれると、さてどうしたものかと思案しながら、木製のジョッキを口元で傾けて即座の返答は誤魔化す。


 非常に嬉しい申し出ではあるのに違いはないのだが、この女に下手に口実を与えると、なし崩し的にパーティーに加入させられていそうな気がする。


 いずれは俺もパーティーを組んで大冒険したいと考えてはいるが、今はまだフリーランスで気楽に色んな場所を旅していたい。


 パーティーを組んだら、メンバー全員の生活の確保がまず優先になってしまい、流れの冒険者というのは逆に難しくなってしまうと聞く。実際、もう三年以上も流れの冒険者をやっている俺だが、それをパーティー単位でやっている実例に巡り合えたのは数える程だ。


 何よりも、悪いが実力が違い過ぎる。俺がゲルダのパーティーに加入しても、俺一人のワンマンチームになるだけだろう。下手に俺のレベルに合わせた依頼に参加させても、ゲルダ個人はまだしも、他のメンバーはちょっと間違えれば簡単に死ぬ。それは今回のレイド戦で確認させてもらった。


 ありがたい申し出だが、と俺がゲルダに断りを入れようとしたその時。


 酒場の入口の扉がばんっと勢い良く開く音がして、酒場に居た大半の冒険者が、殴り込みかと警戒の眼差しでそちらを見た。新人の若い連中は呑気に酔っぱらったままバカ騒ぎしたままだったようだが。


 そのバカ騒ぎしていた新人の内の一人が、現れた人物に気付いて一瞬呆けた様子を見せた後、赤ら顔でその女に近づいて行き、馴れ馴れしく肩を抱こうとして、冷たくあしらわれている。


 気持ちは分からないでもない。何せ美人魔法使いとして有名なゲルダでも霞むくらいの美貌の女がいきなり現れたのだから、性欲旺盛な冒険者の男なら誰だって見逃さないだろう。


 生憎と今回は経験豊富で冷静なパーティーが多く参加している宴会なので、幸いな事にそれ以上の騒ぎになるような事は無かったが。


 しかし、場違いにも程がある女だ。あからさまに貴族ですよと全力で主張するような真っ赤なドレス姿で、こんな冒険者御用達の酒場にやって来るとはな。


 世間知らずのお嬢様が庶民の遊びでもしてみたいと我がままでも言ったのだろうかと考えていると、女は酒場の中をぐるっと見渡し、俺の方を見た瞬間に目を見張り、途端にドレスの裾を摘まんで駆け足で俺の元まで走り寄ってきたと思ったら、


「くぉおおらぁっ! あなた何してくれてんのよ!」


 俺の襟首を両手で掴みながら、鬼の形相でそう叫んだ。





―――――――――――――――――――

新連載です。今回はサブタイトル無しが主人公視点、サブタイトルにSIDE表記がある場合はその人物視点でお送り致します。細かなサブタイトルは考えるのが辛いので無しの方向で(;^_^A

話数表記だけだと、最新話を読んで以前の話を確認したくなった時などに読みづらいと個人的には思ってもいるんですが、ご容赦下さい。区切りの良いところで章管理は入れようかなと考えています。

以前から応援下さっている方々、そして初めての方々も改めて皆様、よろしくお付き合いの程お願い致しますm(__)m

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