第2話 その一週間後のこと
一週間が何も起こらずに過ぎた。
コトがコトだけに誰にも相談するつもりなんてなかった。思い悩んでいたわけじゃなく、私本人だって忘れかけていたのだから。神社で聞こえた小さな声は、願いがかかっているだけに忘れ難いものではあったけれど、気にしていても解決できるものでもないし。だからそいつに出会わなければ、たぶん夢みたいに忘れていたと思う。偶然。
偶然に、商店街のはずれでばったりと出会った。
「おーう、さっちゃん。元気かね、キミ」
「おーう、ノリさん。元気そーだね、キミ」
二週間くらいの久しぶり。小学校から連続しての同級生てやつ、私たちの関係は。お互い引越しなどもせず、だから家も近所のままだ。そしてお互い買い物帰り、二人ともスーパーの袋などを提げている。ノリさんの袋から覗くみりんの瓶を見て、意外にも孝行息子じゃん、だなんて思ったり。それ、私のにも入ってる。今日の特売品ですから。
遭遇した同級生っぽい話をした。今のクラスメイトとか、夏休みだけに、久しぶりに会った中学のときのクラスメイトとか。どれもバカっぷりを笑い飛ばす類の話。家方向に進みながら、交差点では信号待ちをフライングし、道路ではなく公園を突っ切る道を選ぶ。近所者の暗黙というやつで。
「こないだ変なことがあったんだよ」
私もバカな話の一つ、くらいの気持ちだった。ノリさんも件の神社は知っているし、話しやすかったというのもある。太陽の下をだらだらと歩きながら、だらだらと話した。だから。
「まね、空耳だとは思うんだけどね」
そう締めくくってノリさんの顔を見た時には驚いた。なんだそりゃ。深刻? 真顔。凍りつき?
「ど。どしたの、ノリさん」
どこか具合でも、とでも訊こうかと思った。それくらい固い表情をしていた。長い付き合いの私だって、ろくに見たことのないような。
「いやオマエそれ大変じゃん! ホントにわかられちゃってるよきっと!」
溶けた。そした大興奮。口角泡を飛ばし、てな勢いで捲くし立てる。わかられちゃって?
「わかられちゃってるなら、いいよ、それで。願い事が叶うんでしょ? いいじゃん。なにをそんなに興奮するの」
「だってオマエ、返事する神社とかって真っ当じゃなくないか? するか普通。普通しないだろ、神社。それなんか怪しいモノなんじゃないか? なんかものすげぇ狂った形でオマエの願い事とか叶っちまうかもしんないぞ? そこまで頼んでないのにー、とかさ。人が死んだりさ。オマエのせいになっちゃったりしてさ。どーするよオイ!」
「あんたまた変なゲームとかマンガとかはまってるんじゃ……。怒らないから言ってごらん」
「ゲームとかマンガとか言うけどな、まるで有り得ない世界だったら有り得ないハズだろが。拙いことにならない前に相談した方がいいって。話つけてやる! オレが話つけてやるから相談してみろよ、それ」
この盛り上がりよう。正しいことを言われているような、まるでアホなことを訊かされているような。基本的にノリさんはバカなんだけど。は?? なんつった今?
「ゴメン、わかんないんだけど。なに。話つけるって誰に」
「ここだけの話だけどさ……」
つつ、と頭を寄せてきて、声もツー段階ほどダウンさせ、
「変なヤツを知ってんだ。おかしな事ならなんでもござれなヤツ。任せればまず間違いなく事態を解明してくれる」
「解明……」
「それがなんなのか、答えてくれるぜ。危険もばさーっと掃ってくれる。それはそれは恐ろしい力を持つヤツなんだ。俺がヤツを呼び出してやるから、ちゃんとしてもらえ。な? 後で後悔するより万全を目指すべきだから」
最後のそれは何かの台詞? 微妙に顔がキリリとしていたのは物真似入ってるのかな?
とにかくノリさんはその恐ろしいヤツに連絡をつけてくれ、私に待ち合わせ場所を教えてきた。私の辞退を押し切ったくせになんなんだか、
俺に聞いたなんて絶対に言うなよ! と怯えたようにも見える顔で言うから。
私は一人でやって来たのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます