落ちこぼれ術師と白い獣

神衣舞

序章 落ちこぼれの魔術師

第1話

「セラキス。君は退学だ」


 ファスト魔術学園生徒指導室にて、私はその一言を告げられる。


「理由は分かっているな?」

「はい。3年次の進級条件を達成できなかったからですね」


 私の態度に怪訝を、すぐにそれを侮蔑へ変じた教師は面倒そうに成績等が書かれているだろう資料を机に投げ置いた。


「少しは恥じたらどうだね?」


 私は沈黙する。覆し様のない事実に反論も抗弁もするつもりは無い。ただ、恥じてはいなかった。わざわざ口に出しはしないけど。

 沈黙をどう受け取ったのか。彼は鼻を鳴らし、最後の言葉を告げる。


「明日中に退寮し、学園より出て行きたまえ。以降学園内に居たら不法侵入扱いになる」


 国立学術研究所の側面も持つこの学園に不法侵入しようものなら問答無用で死罪だ。貴族でも何でもない私は無警告で殺されても文句は言えない。


「わかりました。お話は以上でしょうか?」


 ピクリと、教師の眉が不快を動力に跳ねた。彼の知るこれまでの生徒は、この宣告を受けて涙ながらに撤回を懇願してきただろう。この学園を卒業するだけで望外の栄達が約束されるのだから平民の出なら靴を舐めてでも縋り付くのが当然の反応だ。実際この立場を失うのは私とて惜しいのだけど、こうなることは分かっていた。予想通り訪れた今に思ったより感情は動かなかった。

 言葉を投げつけるために動きかけた唇を固く結び直し、顎でぞんざいに退室を指示される。

 私は素直に従い立ち上がると、礼儀として頭を下げ退室する。


「所詮は平民か」


 侮蔑の言葉が独り言として零れ、こちらにも届くけど私の行動に影響を与えるものではなかった。明日と言わず今日ここから去る準備はとうにできている。

 私は足早に自分の部屋────明日には『だった場所』に変わる部屋へと向かうのだった。

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