第24話


 春斗様へ。

 

 長文になってしまいます。

 先にそれを謝ります。ごめんなさい。

 

 それでも、どうしても伝えたいことがあります。

 どうか最後まで読んでください。

 お願いします。返信は必要ありません。

 

 先ほどは真っ先に駆けつけてくれてありがとうございました。

 そしてあの日、あの時、助けてありがとうございました。


 やっと言えました。


 春斗君がいたから今の私があります。


 思い出したくもないけれど、もしもあの時下劣な男に犯されていたらと思うと、ぞっとします。


 もしかしたら、今頃は肉体的にも精神的にも死を選んでいたのかもしれません。

 

 それでも今があります。今、生きています。

 

 それはまぎれもなく春斗君のおかげです。

 きっと春斗君は『それでも、僕は君を助けることより自分の都合を優先した』と言うことでしょう。

 

 しかし私には関係ないです。


 傲慢かもしれない。

 それでも私はそう思います。

 

 なぜならあの時――春斗君が颯爽と現れてかっこよく私のことを助けてくれた事実に変わりはないからです。

 

 春斗君が高貴で尊い存在――救世主のように思えた。

 

 そして王子様みたいに思えた。

 

 でも、私は……王子様にとっての魔女だった。

 

 春斗君が怪我を負ってサッカーを辞めたことを知ったのは、五月に入ってからでした。私はそれまで精神的に病んでいました。


 怖った。

 男の子がみんな怖かった。

 醜い怪物のように見えた。

 特に同級生か同じくらいの年齢の人たちが悪魔に見えた。

 

 近づけなかった。近づきたくなかった。

 

 それでも病院に通院していくうちに優秀な主治医のおかけで日常生活に支障はきたさない程度に回復しました。


 そして、ある日、お父様が書斎で電話をしているのが聞こえた。


『その黒田春斗と言うのは、プロのサッカー選手を目指していたのか?仕方ない示談金の桁を上げろ』とお父様は声を荒げていた。


 その時に知りました。『黒田春斗』と言う名前。


 それまではお父様もお母様も、助けてくれたあなたの名前を教えてくださらなかった。おそらく勝手に私に行動されることを嫌がっていました。

 

 ただ私はあなたにお礼を言いたかった。

 それだけなのに。

 

 それでも許しくれなかった。お父様は『会社のため』の一点張りでした。

 

 それが悔しくてお兄様に相談しました。

 お兄様はそんな私のことを予測していた節がありました。

 そう、なんとすでに春斗君と接触していたのです!


 さすがにお兄様が怖くなりました……嘘です。

 お兄様はいつも私を助けてくるのです。

 

 お兄様も納得していない様子でしたから、最初から何かしらはするつもりだったのかもしれません。


 それからはお兄様から春斗君の様子を聞くのが私の義務だと思いました。そして、私はあなたがサッカーを辞めざるを得ないことを知りました。


 私は罰を受けるべきだと思った。


 だから大好きだったピアノを弾くことを辞めました。


 それでもまだ足りない。そう思った。


 春斗君がこれからの人生をサッカー以外に捧げなければならないのは私の責任。


 私は同じ高校に進学して、謝り、そしてあなたのために一生を捧げるべきだと思った。


 それが最後でそしてこれから背負う罰です。

 

 それから私はお父様お母様の反対を押し切って今の高校へと進学しました。そして、春斗君に近づくチャンスをもらいました。


 同じクラスメイトとして再会したときは嬉しかった。

 

 だけど学校で接点がなかった。

 

 ないのならば、作ればいい。

 パンがなければ、お菓子お食べればいいじゃない。


 優衣ちゃんがなぜか春斗君のことを知っているみたいだから、それを使えばいい。そう思った。


 それからは春斗君の想像する通りのこと。


 あなたに気が付いて欲しかった。そして『お前のせいで人生が壊れた』と言って欲しかった。


 そうすれば、少しは私の気が晴れるような気がしたから。

 

 傲慢よね?ごめんなさい。

 

 それでも自作自演した。

 似たような状況を作り出してしまえばいいと思った。

 そうすれば嫌でも思い出してくれると思った。

 

 けれど春斗君は私をあの時の女の子だと気が付かなかった。

 いえ、私たちが自作自演であることに気が付いた。

 

 私は自分に失望した。

 

 これくらいのこともできないようでは、罪を償えない。そう思った。

 だから今日、治安が悪い場所へと行った。

 そして何もかも私の所為であったと、春斗君に気が付いて欲しかった。

 

 いざ行ってみると、怖かった。

 記憶が蘇ってきた。

 恐怖しか感じなかった。

 怖くて怖くて震えた。声も出せそうになかった。

 

 そして、気が付いたら、知らない人が後ろにいた。

 

 その瞬間、私は無意識に春斗君のもとへと電話をかけていた。

 

 そして、私はまた春斗君に助けられた。王子様に助けられた。

 

 春斗君の姿を見た時、安心した。暗闇に光が差し込んだ。

 

 おそらく、それを望んでいた。

 

 重くて、傲慢で、自己中心的でごめんなさい。

 

 それでも私は……春斗君にこの思いを伝えたかった。

 

 独りよがりで一方的な告白を許してください。

 今後、学校では一切近づきません。話しかけません。


 それでも嫌悪感が残るならば、私は学校を辞めます。

 金輪際、視界に入らないようにします。


 だから許してください。


 ありがとう。そして、さようなら。

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