第16話 【嫉妬】のソウイツ

階段を降りた先には、「ゴブリンキング」が居た。


一体何故、ゴブリンキングがここに?

まさか、こいつは1年前の「ヤツ」と同じなのか?

「む…貴様ら、一体…それに、スケルトン…それも特殊進化個体が何故これほど?」

聞かれても話せないからなぁ…

「…ふむ、スケルトン共に聞いた私が馬鹿だったか」

くっそ、言い返せないのがもどかしい…!

「もしや何者かがここに…?しかし、ここには私か魔王様くらいしか入れぬはず…」

まさか、このダンジョンはこいつの所有物だったのか…?

というか、口振り的に1年前の「ヤツ」と同じ個体のようだな。

「まぁいい。ひとまずこやつらを倒してから確認するとしよう…死ぬがいい」

そう言い放ち、その右拳で私たちを潰そうとしてくるゴブリンキング。

「これは…皆、下がれ」

皆にそう伝えつつ、左手でその拳を受け止める。

かなりの衝撃が手に伝わってくる…【傲慢】がなかったら死んでいたかもしれんな。

「…ほう、受け止めるか。では、もう一度」

受け止められた右手をそのままに、左で殴って来たので今度は右で防御。

「ふむ、これも受け止めるか…骨にしてはやけに頑丈だな、貴様も特殊個体という訳か」

そりゃまあ、【盤上骨棋チェス】のリーダーやってるし。

ついでとでもいうように相手が手を振りほどいてくるので、素直に離してやる。

そのままにして変な投げ技でもされたら面倒だ。

「そういえば貴様はまだ見ていなかったな…見せてもらうぞ」

…なんだ?何か気持ち悪いな…妙にねっとりとした感じというか…

「…ふむ、スケルトン・クイーンか。スケルトンでありながら性別を持つとは…珍しいな。」

私のステータスを覗いているのか…?あまりいい気持ちはしないな。

というか、スケルトンって本来無性なのか。

「名は…【】だと…?それに【】…っ、まさか!?」

何やら驚いて、後ずさる。

「貴様、まさか…いやいい。それより貴様、我らの仲間になる気はないか?」

…は?こいつ何を言って…

「まあどうせ返答はないだろうし、ひとまず無理やりにでも連れて行くが。…その前に一旦名乗っておこうか。私はソウイツ。魔王軍四天王の一人、【】のソウイツである。まぁ、仲間からは「ソイツ」などと呼ばれることも多いがな」

そういうやいなや、今度はどこからか棍棒のようなものを出して殴ってくる。

こいつも【アイテム・ボックス】持ちなのか?

というか四天王って…いや、今はそれよりも。

「む、これすらも受け止めるとは。1年前はこれほど強い者は居なかったはずだ…やはり放置するには危険なようだな」

危ないな。不壊刀での防御が間に合ったからなんとかなったが…

それより、この棒重すぎるだろっ…よくこんなものを軽々と…

というか、まったく返せん…!!

防御が間に合ってなかったら普通に潰れて死んでいたぞ?

連れて行くとか言っていた割に、殺意高くないか?

まぁ、素直についていく気もないがね。

さっきの発言的に、連れていかれるのはいわゆる「魔王軍」なんだろう?

魔王といえば、勇者から狙われているイメージがある。

勇者や魔王がどの程度の強さかは分からないが、十中八九今の私よりは強いだろう。

となると、下手をすればその戦闘に巻き込まれて死ぬ可能性もある。

このダンジョンからは出たいが、わざわざ人と争いたいわけではないし、死にたくもない。

それに、まだ「誰にも負けない力」を手に入れられたとは思っていない。

研究ばかりしていて、レベル上げを忘れていた私の落ち度ではあるが。

外に出るなら、せめてもう少しレベルを上げてからにしたいところだ。

というか、攻撃を受けてみて気付いたが、こいつは私と同じタイプだな。

ステータスだけ無駄に高いが、技術は全く伴っていない。

今の攻撃だって、武器の重さだけで体重は全然乗っていなかった。

どうせスキルか何かで無理矢理突破してきたタイプなんだろう。

とはいえ、このまま押されでもしたら割とまずいんだが…

「…現状この「金剛槌」以上の攻撃手段はない。仕方ないな、今日は一旦帰るとしよう」

…お?どうやら引き下がってくれるようだ…非常に助かる。

しかしまぁ、今の私のステータスでギリギリとなると、もう少しレベルを上げたら割と楽勝なのでは?

あの時はあれほど恐ろしかったゴブリンキング相手に、ここまでできるようになるとは…

お、また消えていくようだ。転移とかそういう奴だろうか?

そう考えていると、奴がポツリと呟く。

「しかしまさか…か?」

聞き返そうとした次の瞬間には姿が消えていたので話かけられなかったが、一体何だったんだ…?

しかしまぁ、色々と分かったこともある。

第一に、どうやらここはヤツ、もしくは魔王の保持しているダンジョンらしい。

出口がなかったのもその関係だろうか。

第二に、ヤツらは出口がないここにも自在に出入りできるらしい。

いわゆる「ダンジョンマスター権限」的な物だろうな。

第三に、ここと外の時間経過は恐らく同一だということ。

ヤツが「1年前はこれほど強い者は居なかったはずだ」と言っていたからな。

第四に、ヤツはどうやら「四天王」と呼ばれる存在らしい。

まぁ、イメージは簡単だな。

それに「【嫉妬】のソイツ」といえばだ…昔見た夢で、だが。

その辺りを含めて第五、私とアイツはどうやら知り合いらしい。

「貴様、まさか…」とか言っていたしな。

しかし、私の前世は人間だ。

あんな奴、見たこともないはずなんだが…一体全体どうなっているのやら。

…ああ、そうだ。それより、レベル上げをしておかないと。

次ヤツが来た時には、普通に追い返せるようになっておきたい。

今回はどうにかなったが、さすがにもう1体来たらどうしようもないし、そもそも今回だって相手が戦い慣れていなかったからどうにかなったようなもの。

このダンジョンでは格上と戦うこともそれなりにあったが、今じゃ格上といえる奴は奥の手を出したポーンくらいのものだ。

とはいえ特殊進化したことでレベルがあげられるようになったのだし、ひとまずレベル上げをしたいところだ…あ。

そうだ…あいつのせいで2階のスケルトンは皆殺されてしまったんだったか…

仕方ない、また1日待ってリスポーンさせるしかないか。

というか、「ロイヤル・スケルトン」がやられなくて良かったよ。

正直、これ以上の数は手に余るから【支配状態】にしていなかっただけで、こいつら自体は普通に優秀だからな。

今回はさすがに相手が相手だったから下がらせたが、普通の魔物相手ならこいつらで十分だ。

とはいえ、油断は出来ない。

数を増やす気はないが、その分質は上げていかなければ。


…さて、久しぶりのレベル上げ、頑張りますか!

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