第21話 駅前のカーチェイス!?

「……」


 なんでこんな所にダンゴムシなアンチ野郎がいるんや。

 しかもなんやねん、その手塚治虫みたいなベレー帽は。まったく似合っとらんやんけ。家出る前にちゃんと鏡で確認したんか。ビビるくらいダサいし、こいつのどこがイケメンやねん。


「……っ」

「……ッ」


 手塚治虫もどきを無視して改札を抜けようとしたのだが、何の因果かウチと同じ改札を通ろうとする。


「ちょっと、邪魔やねんけど」

「は? そりゃこっちの台詞だ! ここは先に俺が通ろうとしたんだ。ゾンビ女がそっちの改札使えよ」

「だっ、誰がゾンビ女やねん!」

「ゾンビ漫画描いてんだからゾンビ女だろ。他に何があんだよ! マサオ君か? メンタルブレイクして読者の言いなりになったクレしんのマサオくんか!」

「そこまで弱くないわァッ!! というか、そういうお前かて豆腐メンタルやろ! ちょっと世間から小突かれたくらいで作品削除して、SNSも削除! そこからのダンゴムシ転生はあっぱれの一言やわ。てかなんなん、その手塚治虫みたいなだっさい帽子。ばりキモいねんけど」

「っ! お前こそなんだよそのワンピース。全然似合ってねぇから! かくれんぼしたって誰もお前なんてみつけねぇつーの!」

「誰があの花のめんまやねん! ウチは死んでへんしゾンビちゃうわ! ピンピンしとんねん!」

「どけよっ!」

「そっちがどきぃやッ!」


 今にもヒステリックに叫び出したい衝動を抑えつつ、競い合うように改札を抜ける。そのままカーチェイスのように駅の外に飛び出した。


「いつまでついてくんねん! お前ウチのストーカーとちゃうやろな! ええかげん警察呼んだろかっ!」

「誰がお前なんかストーキングするか! 自意識過剰なんじゃねぇの! つーか俺はこっちに用があるんだよ! お前の方こそついてくんな!」

「誰がお前なんかについて行くか! ウチもこっちに用があんねん!」

「真似すんな!」

「そっちがやろ!」


 まるで競歩の試合をしているかのような勢いで、ウチらは相手よりも一歩でも前に進むことに全力を尽くした。横断歩道を渡り、閑静な住宅街に入ってもその勢いは変わることはなかった。

 そして、やがてウチらは大きな家の前で足を止めた。その家は、洗練された白を基調としたおしゃれで立派な佇まいをしていた。


「……」

「……」


 なんでこいつがこの家の前で足を止めるんやろうかと、その疑問がウチの心に浮かぶ中、横を見ると、神室も同じようにこちらを見ていた。その目には同じように疑問符が浮かんでいた。

 数秒の沈黙の後、ウチはインターホンに手を伸ばし、同じように神室もインターホンに手を伸ばした。


「ちょっ……あんた何してるんよ」

「お、お前こそ……何してんだよ」

「ウチは、その……この家に用があるんよ」

「俺だって、この家に用があんだよ」


 用って……ここ黄昏先生の家とちゃうの?

 その瞬間、ウチの脳裏には編集者からのメールの内容が浮かび上がっていた。


『――他にも一名アシスタント候補がいるから、当日は二人まとめて面接することになると思うから、そのつもりでよろー♡』


 なんでこんな時に立花さんからのメールを思い出すねん。

 ウチは過去にこいつがクソつまらんパクリ漫画を描いていたこと、漫画家を目指していたことを知っている。

 だからこそ、嫌な予感がするんや。


 ああ神様、どうかこの予感が当たりませんように……。


 祈ったところで――ガチャ! 玄関の扉が開いた。


「いらっしゃ……えっ!?」


 家の中から現れたのは、まさかのクラスメイト――ユッキーこと結城美空音。


「一体……これはどないなっとんねん!」

「マジ……かよ」


 横を見ると神室も呆然と立ち尽くしていた。

 ウチらは三人揃って、その場に固まってしまった。

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